小5 国語科「日常を十七音で」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小5国語科「日常を十七音で」(光村図書)の全時間の板書例、ワークシート例、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/神奈川県横浜市立東汲沢小学校校長・丹羽正昇
執筆/神奈川県横浜市立小机小学校・有光鉄男
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、日常生活での何気ない気付きや思いなどについて、言葉の選び方や言葉の順序、表現の効果を工夫し、短い文章で書く力を育てていきます。
モデルとして取り上げる俳句を分析したり、できあがった俳句を友達と共有したりする活動を通して、構成や書き表し方を推敲することや、自分の作った俳句のよいところを見つけることができるようにします。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本教材は、日常での気付きや思いを短い十七音で表現する必要がありますので、よりよい書き表し方を考え、推敲することに適した教材です。高学年の児童はすでに、俳句を音読したり、暗唱したりすることによって、言葉の調子や響きを楽しみ、作品に表された季節や風情を思い浮かべたりすることを学習してきています。ここでは、日常生活での気付きや思いを、俳句特有の五・七・五の構成に着目して俳句を作り、言葉や表現の整え方を身に付けていけるよう、句会を開くという言語活動を設定しました。
単元のまとめで行う句会では、グループに分かれて、自分がよいと思った作品を選び、その理由を発表します。選ぶ視点や評価を明確にすることで、自分の表現のよさを自覚したり、次はもっと感動が伝わるように表現を工夫したいという意欲を高めたりすることができます。
1年間継続してこのような句会を続けることで、子供たちの感性が磨かれていくとともに、より一つ一つの言葉にこだわるようになっていくと考えます。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 短い言葉で表現するよさを味わい、俳句を作る見通しをもつ
本単元では、何気ない日常の気付きや思いを俳句で表現し、句会を行いクラスでよかった作品を選びます。単元の導入において、まず、継続的に記録をしてきた日常生活での驚きや感動したことなどについて想起します。
そして、日常の気付きや思いについて書かれた俳句を用意し、穴埋め俳句に挑戦します。穴埋め俳句をすることで、短い言葉で表現するよさや、俳句を作る楽しさを味わえます。また、モデルの俳句の中から自分がよいと思ったものを選び、模擬句会を行います。模擬句会を通して、作者の思いを想像したり、表現の工夫に目を向けたりすることで、俳句を作る上で大切なことに気付くことができます。
「自分も俳句を作ってみたい」「自分だったらどういう場面を俳句にしようかな」という思いを大切にし、見通しをもって学習に取り組むことができるようにしましょう。
あらかじめ、日常の気付きや思いを探す時間は十分にとり、「この題材で俳句を作りたい」という気持ちを高めることができるようにしておきましょう。
〈対話的な学び〉 推敲する視点を明確にし、対話を通して表現を吟味する
短い文章から俳句の形に整ったら、児童は、句会を開く上で、自分の伝えたい思いを俳句で表現することができているか不安になったり、悩んだりします。そこに対話の必然性が生まれます。教科書に示された俳句を比べる活動を通して、よりよい表現の仕方を考え、作った俳句を見直せるようにしましょう。表現を吟味していく観点として、たとえを使ったり、様子を表す言葉を変えたりして言葉を選ぶことや、言葉の順序を変えることなどが考えられます。観点を明確にすることで、作者の思いや表現の仕方に着目して対話をすることができます。自分の思いが伝わる俳句になるように推敲できるようにしましょう。推敲していく際に、歳時記や国語辞典、類義語辞典が手元にあると、言葉を選ぶ際の手立てとなります。
〈深い学び〉 お互いの俳句を評価し合い、自分の表現のよさを自覚し、今後の学習に生かす
句会では、お互いの作品について評価し合い、自分がよいと思った作品を選び、その理由について発表します。その際、前時までの模擬句会や推敲する時の観点を基に、作品を選ぶ視点を明確にしておくことが大切です。作品を通して共感できるか、新たな気付きがあるか、自分の思いが伝わるように表現に工夫があるか、そのときの作者の気持ちや様子が伝わってくるかなどです。
友達から評価されることで、自分の表現のよさに気付くことができるだけでなく、新たな作品を作る意欲にもつながります。単元の振り返りを行う際は、俳句を作った過程にも目を向けます。最初に作った俳句と完成した俳句を比較し、「この表現にしたからより自分の思いを伝えることができた。」など、言葉の働きや言葉の感覚の高まりに気付けるようにしましょう。そうすることで、子供たちは、俳句を作る場面だけでなく、日常の中でも、一つ一つの言葉を意識することができるようになります。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)タブレットでマッピングを活用する。
2時間目の学習では、俳句の材料を集め、俳句の形に整えていきます。その際に、タブレットの思考ツールのマッピングを使います。紙やプリントでもマッピングはできますが、タブレットを活用することで、マッピングで広がっていった言葉の中で、使えそうな言葉の類義語などもまとめて集めることができます。マッピングをすることで、俳句の材料を集めることができたり、自分が伝えたい思いの中心を明確にしたりすることができます。
一人一冊準備することが難しい季語に関する歳時記なども、インターネットを使えば、全員が一斉に調べることができます。日頃の出来事を記録する際も、動画を撮ったり、写真に撮ったりするとよいでしょう。マッピングを広げていくことが難しい児童にとって、よりイメージを広げることができ、俳句を創作していく際の手立てとなります。
〇 マッピングイメージ
6. 単元の展開(4時間扱い)
単元名:十七音で何気ない日常の気付きや思いを表現し、句会を開こう
【主な学習活動】
・第一次(1時)
① 日常の気付きや思いを短い言葉で表現するよさを味わい、俳句を作る見通しをもつ。〈主体的な学び〉
・第二次(2時、3時)
② 俳句にしたい題材を決め、思い出したことを書き出し、伝えたい思いを明確にする。〈端末活用〉
③ 俳句の形に整え、自分の思いが伝わる俳句になるように、表現の仕方を推敲する。〈対話的な学び〉
・第三次(4時)
④ お互いの俳句を評価し合い、自分の表現のよさを自覚し、単元の振り返りを行い、今後の学習に生かす。〈深い学び〉
全時間の板書例と指導アイデア
●「主体的な学び」のために
単元の導入では、児童が「俳句を作ってみたい」「どんな題材で俳句を作ろうかな」と思えるようにすることが重要です。そのために、まず、継続的に記録をしてきた日常生活での驚きや感動したことなどについて想起します。
そして、日常の気付きや思いについて書かれた5年生の俳句を用意し、穴埋め俳句に挑戦します。穴埋め俳句を通して、子供たちは、「七字でどんな言葉が入るのかな。」「慌てているから自分だったらこんな言葉を入れるかな。」と短い言葉で表現したり共感したりする俳句の楽しさを味わうことができます。さらに、四つの作品から自分がよいと思った作品を一つ選び、全体で模擬句会を行います。
みなさんは、四つの俳句の中で、どの俳句がよかったですか。選んだ理由も言いましょう。
僕は、衣替え 短くなった 服の丈 の俳句がよかったです。身長が伸びたことに気付いたことを短くなった服の丈で表現しているところが素晴らしいと思ったからです。【表現技法】
私は、「こんな時間」 慌てて帰る 夏の夕 の俳句がよかったです。「こんな時間」から、明るいから油断していて、慌てて帰っている姿が共感できたからです。【作者の思い】
その際に、作品を選んだ理由をはっきりとさせることが大切です。理由をはっきりとさせ選ぶことで、俳句の中で効果的に用いられている表現技法や俳句から伝わる作者の思いなどの観点に着目して、俳句のよさを伝え合う力が身に付きます。この観点は、俳句を創作していく上でも大切になります。
模擬句会を通して、「句会でみんなに選ばれたいな。」「自分はどんな題材を俳句にしようかな。」「どんな表現を使おうかな。」という思いを高めることで、主体的な学びにつながるでしょう。俳句の材料を見つける際は、あらかじめ、継続して3行日記などで自分の思いや気付きなどを残しておくとよいでしょう。
2時間目は、俳句の題材を決めて、俳句の材料となる言葉を書き出し、伝えたい思いを明確にします。
まず、日頃から書きためていたことや学校行事などから、俳句に表す題材を決めます。
題材を決めたら、俳句に使えそうな材料を集めていきます。その際に、タブレットを活用したマッピングが有効です。マッピングを活用することで、そのときのことを具体的に思い出すことができたり、俳句に使えそうな言葉を集めたりすることができます。
歳時記や国語辞典、類義語辞典なども活用し、俳句の材料をたくさん集めることができるようにしましょう。
また、そのときのことを書き出すことで、俳句で伝えたい思いを明確にできます。伝えたい思いを明確にすることで、表現を吟味していく際の、言葉のよりどころとなります。広げていったマッピングを活用して、どの場面、どの瞬間を俳句にするか、じっくりと考えられるようにしましょう。
● タブレット端末の活用
俳句の材料や伝えたい思いを明確にしていくために、タブレット端末でマッピングをします。
マッピングの中心には俳句にしたい題材を書き、その周りにそのときに見たことや感じたことなど思い出したことを次々に付箋に書き出します。紙のプリントや付箋を使ってもできますが、タブレット端末を活用することで、書いた付箋を簡単に移動させたり、付箋の中に類義語などの言葉を書いた付箋を重ねたりすることが可能になります。
また、共有機能を使い友達のマッピングを見ることで、同じ題材でも友達の違った見方や考え方に気付き考えを広げることができ、どのようにマッピングを広げていったらよいのか困っている児童への手立てともなります。
3時間目は、材料を基に俳句の形に文を整え、自分の思いが相手に伝わるように表現を吟味します。
俳句の形にする前に、季語を入れることや声に出して俳句の言葉のリズムを大切にすることなど、基本的なきまりを確認します。
前時のマッピングを分析し、使えそうな季語をあらかじめ教師が用意し、子供たちが選べるとよいです。俳句の形に文を整えるとき、自分が俳句で伝えたい思いを常に意識できるようにしましょう。伝えたい思いが、表現の工夫につながってきます。
俳句の形に整ったら、いよいよ推敲です。子供たちは、「自分が伝えたい思いが表現できているかな。」「うまく俳句で表現できないな。」と自分が作った俳句に対して、不安や悩みが出てきます。いきなり対話をするのではなく、表現を工夫していくための観点をクラスで共有しましょう。
そのために、前時までの学習や、教科書の例文を比較して読みます。比較して読み、順序を入れ替えるだけで言葉の捉え方が変わることや、たとえの表現を使うことで、その場面の様子が具体的に想像できるようになることなどに気付かせることで、推敲する観点が明確になります。
ワークシートには、友達と交流したときのアドバイスを付箋でためていけるようにし、自分で書き表し方を吟味したり、アドバイスを基に書き換えたりして推敲できるようにしましょう。
〇 ワークシート
※ダウンロードしたPDFは、Adobe Acrobatのレイヤー表示でワークシートの例文(青文字、友達からのアドバイス)を非表示(レイヤー名:例)にして白紙の状態で活用できます。
4時間目は、クラスでグループに分かれて句会を開きます。
句会を開く前に、今までの学習を振り返り、俳句を評価するポイントを確認しましょう。
①作品を通して、共感できたり、新たな気付きがあったりするか
②作者の思いが伝わるように、表現を工夫しているか
③そのときの作者の気持ちや様子が伝わってくるか
というポイントです。今までの学習活動で意識してきたことを丁寧に振り返りましょう。
【評価している児童】バトンを握るではなく、握るバトンにしていることで、「握る」が強調されて、力が入っている様子や緊張している様子が目に浮かぶね。
【評価している児童】
力が入っている様子を握るバトンと表現したことで、リレーの様子が伝わる俳句になっているね。
【評価をもらった児童】
中の七音を悩んでいろいろと表現の仕方を考えたけど、「握るバトン」と表現したことで、よりリレーで頑張った様子を伝えることができたな。
評価を明確にすることで、子供たちは友達の俳句を読みながら、言葉の感覚を磨くことができ、深い学びにつながります。
また、友達からの評価をもらうことで、自分の表現のよさに改めて気付くことができます。
単元の振り返りでは、俳句を作る過程で自分が意識したことなどについても振り返りをすることで、「今までは、一回書いて終わりだったけど、言葉の順序を変えたり、別の表現にしたりすることで、自分の思いがより伝わるようになることが分かった。」など、俳句だけでなく、日常でも言葉を意識して使うことにつながっていきます。
完成した作品を掲示したり、俳句集にしたりすることで他のクラスの友達や保護者に感想をもらうことができ、子供たちにとって一層の励みになります。
一度の句会で終わりにせずに、第二回、三回と開くことで、子供たちの日常生活でのものの見方や考え方、感じ方などの感性や言葉への意識を高めていくことができ、さらに深い学びとなるでしょう。
イラスト/横井智美