単元づくりのゴール設定と導入の工夫とは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#6】

連載
田村学流「単元づくり・授業づくり」

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
タイトル 田村学流「単元づくり・授業づくり」No.6

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

前回、単元デザインの意義や基本的な考え方についてお話をしてきましたが、今回は、ゴールの設定について説明をしていきたいと思います。

単元のデザイン時には、学習指導要領を参考にして単元の目標とすればよい

前回、単元をイメージするためには、二つの見通しが必要だと話しました。それは、到達点の明確化と通過点の具体化ですが、この二つで優先されるべきなのは到達点の明確化です。当然のことですが、到達すべきゴールが描けていなければ、途中の通過点を考えることも難しいわけですから、そういう点でも、まずゴールを描くことの意味や価値は大きいと思います。

では具体的にどのように単元のゴールを描くかということですが、学習指導要領に単元などの内容のまとまりに応じて明示をされていますから、単元デザインをしていくときには、それを参考にして単元の目標とすればよいのです。ただし、単元の内容に当たる部分をそのまま抜き書きしただけでは、単元のゴールとは言えません。

学習指導要領は、あくまで国のスタンダードであるため、どの地域でも、どんな学校でも適用できるように整理をされています。そのため各地域や学校の独自性は反映されていません。これを読んでおられる先生方が授業を行う場合は、海が近いのか山が近いのかといったことや、どんな研究に力を入れてきたのかといった地域性や歴史的経緯など、学校の独自性を踏まえて考えることが必要になります。さらには、一人ひとりの先生の独自性も反映されることでしょうし、言うまでもなく、目の前の子供たちの特性を踏まえることも必要です。

それらを考慮したうえで、最終的にめざす子供の姿やどのように力が発揮されるかを、ゴールとして具体的に描くわけです。それが具体的であればあるほど、オリジナリティに溢れ、なおかつ学習指導要領が求めるものを満たすことができるのです。

例えば、音楽の目標(学びに向かう力、人間性等)に、「…協働して音楽活動をする楽しさを感じ…(低学年)」という目標が示されています。それを、ある学校の単元では、「(学校名)のテーマソングの音源となる音楽を聴くとともに、友達が叩くリズムや動きを意識もし、互いに聞いたり目配せしたりしながら動きを合わせてリズム伴奏をする」というように具体化するわけです。単元におけるゴールを、どれだけ各学校における教材や学級の子供の実態に合わせて具体的に描けるかが重要です。

このゴールがより具体的でシャープなものであれば、それに向かうための授業の導入や展開の設計もよりシャープなものになります。

学習指導要領 国語より抜粋
例えば、中学年の国語で説明文を読むときに、上記の学習指導要領の内容を、いかに子供の実態に合ったものに落とし込むかが重要になる。

これまでの学校教育では、先生の願いが一方的に強かった

ふり返ってみると、これまでの学校教育では、先生の願いが一方的に強かったのではないでしょうか。子供たちがどう思うかは関係なく、「これをやります」となっている授業が多かったと思います。その傾向は小学校より中学校、中学校よりも高校と上に進むほど強いと言われました。

それには、一定程度理由があって、出口となる入学試験で知識が問われる傾向が強かったこともあるでしょう。あるいは、中・高生になるとそういった指導に一定程度付き合ってくれる傾向もあったと思います。学齢が低ければ、そういう指導には付き合ってくれません。お腹の空いていない子供に、いくらご飯を食べさせようとしても食べないのと同じです。しかし、学齢が上がれば、必要だからと言われれば、少々我慢をして付き合ってくれたわけです。

そのように先生の願い(あるいは国のスタンダード)を一方的に押し付けるのではなく、目の前の子供の実態を踏まえ、子供が自らその方向に向かうように単元を構成することが大切なのです。

ゴールを描いたら、次にそこへ向かうための導入を工夫する

出口となるゴールがクリアに見えてきたら、必ずそこに行くための入り口が必要になります。先にも説明をしましたが、見通しには到達点の明確化と通過点の具体化があります。ですから、到達点を明確にしたら、通過点をより具体的に描いていくわけで、導入から展開については、一連のものとして行きつ戻りつしながら描いていくことになります。

ただ、ゴールを描いたら、次にそこへ向かうための単元の入り口(導入)を考えていったほうがイメージしやすいため、まず導入をどのように工夫していけばよいのかについて説明をしていきましょう。

例えば、小学二年生のかけ算であれば、先生は教科書に沿って5の段を学び、次に2の段の学習を進めたいと思っているでしょう。しかし、急に「2の段のお勉強をするよ」と言っても、ついてこられない子もいたりします。そこで卵パックを取り出して、「みんな、卵を数えるときにどうしている?」と投げかけるわけです。そこには「1、2、3…」と数える子もいるでしょうが、「2、4、6…」と、自分の生活経験と結びつけて数える子もいるでしょう。そのように、子供の発達や成長、興味・関心を踏まえ、無味乾燥な数字を出すのではなく、具体物を出し、日常生活の中で必要な場面を想定されることで、主体的に考えられるようにするわけです。

あるいは小学一年生の生活科で、植物の栽培をしたいと先生は考えます。植物の栽培を通して、先生は何を願うかと言えば、生命の大切さや、植物が成長したり、変化したりすることを実感してほしいわけです。そして、生き物に親しんでほしいわけです。

では、どんな植物を栽培するのがよいかと考えたとき、小学一年生の子供たちが扱いやすい植物がよいだろうということになります。それは当然で、とても手がかかり、ちょっと手入れを忘れると簡単に枯れてしまう植物では困るわけです。また、ある程度の短い期間で、発芽や成長や結実があったほうがよいわけですし、たくさん花が咲いたほうが楽しいだろうということになります。そこで先生は、先に示したような願いを実現するために、子供たちが興味をもてるようなアサガオにしようということになるわけです。

さらにアサガオを育てるにしても、「アサガオ栽培セットが届きました」というのでは一方的で、子供にとっておもしろくないから、前年度にアサガオ栽培に取り組んだお兄さん、お姉さんたちから種をもらって栽培を始めるわけです。また、アサガオの花が大きく開くような絵本を読んで思いを高めてから栽培に入ってもよいでしょう。あるいは図鑑のようなもので、いろんなアサガオの花の写真を見てから入ってもよいかもしれません。きっと、先生はそのように考えて工夫していくことでしょう。

問題状況に対する違和感と理想状況に対する憧れで、導入時を工夫

先生方が導入を工夫していくときには、「子供たちの学習への思いや願いが高まってほしい」と思うでしょうし、子供たちがめざすゴールに向かう「問い」をもってほしいと思うでしょう。そのための方法としては二つの感覚を利用する方法が考えられます。その一つは問題状況に対する違和感であり、もう一つが理想状況に対する憧れです。

まず一つ目の問題状況に対する違和感とは、「あれ?」「おや?」「なんで?」という子供たちのつぶやきに象徴されるものです。例えば、算数・数学なら新しい問題に出合ったとき、「あれ? 前にやったことと少し違うぞ?」ということが、よく出てくると思います。あるいは社会科で、自分たちが住む地域の観光客数が他地域と比べて少ないとか、年々減っているというデータを示して導入にすることもあるでしょう。そのデータを知ると、自分たちがよく知っている地域に対するよいイメージと、現実の観光客数の間のズレやギャップから、「なんでこんなにいいところなのに、観光客が少ないの?」「なんでこんなに減ってきているの?」と違和感が生じます。このように、既有の知識と目の前に起きている事実とのズレやギャップを利用するのです。

もう一つ、理想状況に対する憧れとは、「こんなふうになりたい」「あんなことができるようになりたい」という子供たちのつぶやきに象徴されます。例えば、体育ですばらしい演技を見たときに、子供たちは「あんなふうに演技をしてみたい」と思ったりします。あるいは、図画工作や美術ですばらしい絵を見て、子供たちは「あんな絵が描けるようになりたい」と思ったりします。そのような憧れを起点に子供たちが学習を進めていくわけで、特に芸術系と呼ばれるような教科では、よく行われることではないかと思います。もちろん数学のような教科でも、「エレガントな解法」への憧れのようなものがあるかもしれませんね。

このような問題状況に対する違和感や理想状況に対する憧れがあると、子供たちに問いや課題が生じやすいということです。それによって、子供たちは自らめざすゴールに向かって、問題解決を図っていくわけです。

この二つは導入を分かりやすく、インパクトのあるものにした場合ですが、この他に生活科や総合的な学習の時間などでは、繰り返し学習材に出合うことで、興味が湧いてくるというような例があります。実際に地域に何度も出て、地域の人・もの・ことに出合うことで興味が高まって、その人・もの・ことを追究したくなっていくということもあります。

さて、長くなりましたので、展開の構成については次回、ご説明をしたいと思います。

単元づくりにおける「展開~終末」の構成とは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#7】はこちらです

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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