あなたもできる!「ありえない授業」実践編【ワークシートつき】

連載
先生のためのアート思考(『13歳からのアート思考』末永幸歩先生)

美術教師・アーティスト

末永幸歩

中学・高校の美術教師として行ってきた授業内容を一般向けに書き下ろし、19万部突破のベストセラーとなっている『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者・末永幸歩先生。今回は、久喜市立栢間小学校の5・6年生25人を対象に行った「ありえない学校活動」を考える授業を紹介。先生も、アート思考の授業をしてみませんか?

授業中の末永先生
自分の考えを発表するときには、紙とタブレットどちらを使うかを子供が選択できる。

学校の活動から「ありえない◯◯」を空想する

今回紹介するのは、文化芸術による子供育成総合事業として行われた授業。授業時間の内訳は以下のとおりでした(45分の授業)。

■概要とワークシート①と②についての説明:5分
■ワークシート①と②記入:10分
■ワークシート③についての説明と記入:10分
■ワークシート④についての説明と記入:10分
■「ありえない◯◯」の発表:10分

ありえない◯◯ワークシート
授業で使用したワークシート。記事下ボタンよりダウンロードできます。

※この授業に至るまでに、子供たちは4回の授業を受けており、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)でも紹介されている、アンリ・マティスの「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」、マルセル・デュシャン「泉」などを題材として、自分の興味や疑問に目を向ける体験をしています。興味のある先生は、ぜひ著書を読んで理解を深めてください。

「ありえない◯◯」を考える手順

末永先生は、「ありえない◯◯」を考える手順を以下のように説明しました。

1、学校での活動を一つ決める

「学校にはいろいろな活動がありますよね。授業なら、国語とか算数とか。授業以外なら、給食、昼休み、朝の会とか、運動会とか。登校時間とかもそうですよね。その中から一つ、選んでみてください」

2、それをするのに「必要なもの」「必要なこと」を全て書き出す

「一つ選べたら、それをするのに必要なものとか、必要なことを全て書きます。私は図工の先生なので、図工の授業について考えてみますね。私が図工の授業をする上で必要だと思ったのは、例えばこんなものです」

末永先生はそう言うと、子供たちとやりとりをしながら、紙、クレヨン、鉛筆、はさみ、のり、先生、机、椅子、先生の説明、図工室、片付け、準備…など例をあげていきました。

3、2で書いたことを全部逆さまにする

「2で書いたことを全部逆さまにします。私はさっき図工について考えましたよね。これを逆さまにしてみますね。例えば、私は必要なものとして先生って書いたので、逆さまにすると、先生がいない。片付けって書いたので、片づけない。先生の説明とも書いたから、先生の説明がない。こんなふうに考えていきます」

4、3であげたことの中から1〜2個をきっかけにして、「ありえない◯◯」を空想する

「では、ここから『ありえない◯○』を空想します。私の例では、『ありえない図工』を考えました。さっき、『先生がいない』って書きましたよね。だから、教室に材料が置いてあって、その材料で好きなことをやっていい図工っていうのを考えました。あとは、『片付けしない』って書きましたよね。片付けしないで、前のクラスが置いていったものや作り途中のものに、何か加えて作品にしていくみたいな図工も考えました。『先生の説明がない』というところから発想して、先生が説明するんじゃなくて、子供たちが説明する、子供たちが先生に何かを教える図工というのも考えました。こんなふうにして考えてみましょう。1つでも思いつけばすごいと思います! 手書きでもいいし、絵で描いてもいいです。3であげたことを全部含めようとすると、人によっては空気や地球すらなくなってしまうかもしれないので、1〜2個をきっかけにして空想してみると考えやすいですよ」

「え〜!」と笑いながらも、「おもしろそう!」と目を輝かせている子供たち。早速自分なりの、ありえない学校の活動を考えはじめました。

子供たちの考えた「ありえない◯◯」

子供たちが自分の考えを発表する時間では、ユニークなアイデアがたくさん出てきました。その一部を紹介します。

ありえない始業式

ある児童は、始業式は、「朝に体育館で行い、歌や発表や先生のお話が必要」と考えました。それを逆さまにして、「ありえない始業式」として空想したことが、こちら!

ありえない始業式
夜に校庭に集まったら楽しそう! と、盛り上がりました。

「なぜ礼が二回なの?」と周囲の人に問われると、「はじまりと終わりの礼だけがあって中身がないから」とのこと。まわりの大人も思わず笑ってしまいます。

ありえない運動会

ある児童は、運動会に必要なものとして、常識とされているものを多数あげた上で…。

運動会
やる気、元気、根気、は、他の学校の活動でも多数見られた言葉。

選手が誰もいない校庭で観客が白線を見つめるだけの運動会や、校庭もやる気もなくて、ひたすら宇宙空間でボーっとする運動会を提案。そのありえない設定にクラスが笑いに包まれました。

やる気のない運動会
子供たちの空想するシュールな状況にクラスは大爆笑。

ほかにも、ランドセルを持たずにする登校や、その場のノリで歌う音楽の授業など、子どもたちの空想は楽しくふくらみ、末永先生も、「私では考えつかないことばかりで面白い!」とびっくりしていました。

常識があるから心地良く生活できる。でも絶対に正しいとは限らない

発表が終わったあとで、末永先生はこんな話をしました。
「ありえない◯◯を考えながら、こんなこと考えていいの? と思った人がいるかもしれませんね。当たり前のことを疑っていいの? って。学校の中では、当たり前のことをきちんとできることの方が大事ですよね。ちゃんと座って黙って話を聞くとか。いまみなさんできていますよね。一つ一つ疑っちゃっていいのって思ったかもしれないですね」
そう言うと、末永先生は、哲学者の三木清さんの言葉を子供たちに紹介しました。

三木清さんの言葉
哲学者・三木清さんの言葉

「常識っていうのは、当たり前なことです。常識を守ることで心地よく社会生活、学校生活を送ることができます。でも、常識は大人の社会や学校の中で徐々に形作られていったものであって、必ずしもそれが正しいこととは限らないのです。一人一人がそれに疑問を持って、本当にそれが絶対なのかと考えることが良識なんです」

感想
授業後に末永先生に届けられた感想。

「殴り合いを空想してはいけない」は、場面を変えれば「戦争しない世界を空想してはいけない」と同じ

子供たちが「ありえない◯○」を空想する場合、たとえば、あるゲームには「ルールが必要」→それを逆さまにすると「ルールがない」→そこから「殴り合う◯◯」を空想することも考えられます。
こうした、学校生活の中ではモラルに反すると考えられる発想が出てきた場合に、末永先生は授業内でどのように扱われているのかを聞きました。

「『ありえない〇〇』を空想しているのですから、それがたとえモラルに反すること(たとえば「殴りあう」)でもいいと考えています。「ケンカして殴り合う〇〇」を空想したために、その子どもが本当にケンカして殴り合う人になるとは思いません。むしろ、絶対に正しいと思えること・絶対に疑いようのないことほど、誰もよく考えていないことだといえるので、最も考える必要があることです。そういう教師の姿勢は子供たちに示します。
『殴り合うことを空想してはいけない』というのは、場面を変えて考えれば、戦時中「戦争は正しい」という絶対的な倫理観が社会にあったときに、「戦争をしない世界」を空想してはいけないというのと根本的には同じことだと思います。倫理的に問題があることについて『話題にしない』というのは、考えていないのと同じ。今回はケンカについて考えるというところまではしていないですが、絶対に正しいと思えるものを堂々と疑ってみる(逆さまの状況を考えてみる)ということはできたのではないかと思っています」

末永先生のワークシートを使って、ありえない◯◯の授業をしてみませんか?

この授業で使用したワークシートをシェアしていただきました! このワークシートを使って、今回紹介したアート思考の授業に挑戦してみませんか? 授業を行ってみての先生の感想と子供たちのワークシートを、編集部までお送りください。内容は末永先生と共有し、サイト内で紹介させていただく場合があります。

【送り先メールアドレス】
 kyoiku@shogakukan.co.jp 

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末永先生プロフィール写真

末永幸歩(すえながゆきほ)
武蔵野美術大学造形学部卒、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。浦和大学こども学部講師、東京学芸大学個人研究員。中学・高校で展開してきた「モノの見方がガラッと変わる」と話題の授業を体験できる「『自分だけの答え』が見つかる 13歳からのアート思考」は19万部を超えるベストセラーとなっている。

取材・構成・撮影・文/福原智絵


いかがでしたか? 
こんな時だからこそ、常識を疑う力が必要なのかもしれません。
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