小一道徳授業ルポ「とく とく とく」生きていると感じるときを自由に発言させる
道徳の研究に力を入れている東京都港区立お台場学園港陽小学校の授業実践を、文部科学省の浅見哲也教科調査官の解説入りでご紹介します。
目次
教材
教材名:「とく とく とく」(廣済堂あかつき)
主題:生きている証〈D 生命の尊さ〉
導入
本時のねらい
人間の体の温もりや心臓が規則的に鼓動していることを共感的に理解することを通して、生きている証や生きていることのすばらしさを感じ取るような道徳的心情を育てる。
1 前時の学習をふり返る
前回「ハムスターの赤ちゃん」を読んで、赤ちゃんのすごいなあと思うところを考えたね。
前回の道徳のワークシートの記述や発言を基に教師が子供の考えを紹介します。
子供たちの記述例
赤ちゃんの目がまだ開いていないのに、においとか手でおちちを探していっしょうけんめい吸っているのがすごいと思いました。
いっしょうけんめいおちちを飲ませるのは、次の命につなげようとしているからではないかな。人間に似ている。
この前、自分の胸の音を聞いて、命について考えました。今日は命についてもっと考えてみましょう。
展開
2 教材文を読んで考える
「わたし」が指を伸ばすと、たあちゃんは柔らかくてあったかい手で握ろうとしますね。みなさんも自分の頬や手を触ってみましょう。
発問
この前、自分の胸の音を聞いて、どう感じたかな。
子供たちの発言
走ったあとは速くなる。
どくどくどくと動いている。
発問
お父さんが「せかい中の人のむねが、ずっとずっとどきんどきんしているんだよ」と教えてくれましたね。「わたし」はどんなことを思ったのでしょう。
子供たちの発言
私も鳴っているのかな。
なんでだろう。
中心発問
みんなが生きているって感じるときは、どんなときですか。
授業の工夫
中心発問では、自分が生きていると感じるときを自由に発言させることで自己を見つめるきっかけとしました。その際、当たり前に感じていることでも、生きていくうえではすばらしいことだと気付かせたいと考えました。
浅見先生の花まるポイント
「生きている」ということを子供たちが自由に語り、ウェビングマップを活用して視覚的に捉えながら多面的・多角的に考えているところがすばらしいですね。
終末
3 今日の授業をふり返る
私たちの命について感じたことや考えたことをワークシートに書きましょう。
4 教師の説話
『手のひらを太陽に』の歌詞を紹介する。
子供たちのふり返り
走って疲れて胸を押さえたら、どくどくどくと鳴っていた。「生きているんだ」と思いました。
最初は胸の音のことを考えていなかったのでわからなかったけど、でも走ってみたら感じられた。
わたしは毎日ごはんを食べて成長していると思うから生きていると思います。
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生からのアドバイス
自分の心臓の鼓動を想起したり頬を触ったりし、生きている証を人の行為や気持ちにまで広げていく
小学校低学年の「生命の尊さ」では、授業者の意図が表れる主題名にあるように、子供たちが「生きている証」を感じ取れるようにします。事前の道徳科や体育科などの授業とも関連付けることで、本時は、教材を通して学びながら、自分の心臓の鼓動を想起したり頬を触ったりし、さらに、その生きている証を人の行為や気持ちにまで広げていきました。終末に紹介した『手のひらを太陽に』の歌詞はこの授業のしめくくりにふさわしい選曲で、鈴木先生の構想力のすばらしさを感じました。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小一小二』 2021年6/7月号より