クラウドファンディングでモノと人を募る【あたらしい学校を創造する 第18回】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり【毎週金曜更新】
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蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、クラウドファンディングを行うことの教育的効果についてのお話しです。

育むべき「学力」について考える【あたらしい学校を創造する 第14回】

お金だけではない支援の受け方

8月に行ったクラウドファンディングには、お金とともに仲間を集めるという目的があったことは、前回お話ししました。具体的には「学びの研究所」や「ヒューマンライブラリー」という構想が大きくあるわけですが、それだけではありません。

支援としては、「お金を出すかわりに物を出すよ」という場合もあると思います。そういった方々からは、知育玩具や絵本、使わなくなった楽器や実験器具、地球儀や顕微鏡など、いろいろなものを、お金とは違う形で支援していただけたらと思っています。それは、エコロジカル的によいというだけでなく、教育的な効果があると考えているんです。

例えば、子供たちが使う備品に「○○氏寄贈」と書いてあったりすると、「これは、あの人が贈ってくれたのか」と子供が気付くかもしれない。世の中が善意で回っていることを知ってほしいという気持ちが僕にはあります。出資していただいたお金で購入したり、学校で用意したりする場合には、そのような手がかりとなることは少ないと思います。

前回、特定の人や団体に運営資金を頼るのは、安心な反面、学校づくりという面では避けるべきではないか、という話をしました。一方でクラウドファンディングのように一人ひとりがお金を出してくれると、お金とともにたくさんの物語が集まることになります。「愛知県の方が出してくれたお金でこの顕微鏡が買えたんだよ」「この楽器は近所の誰それさんがくれたんだよ」といった情報やそこに込められた思いが、備品に付加価値をつけてくれます。

贈ってくれた人の気持ちがモノに乗り、この学校までたどりついているということを子供たちに感じとってほしいというのが、僕らの願いなのです。今回のクラウドファンディングには、そんな願望も込められていました。

クラウドファンディングに応募してくださった方々に「○○、ご自宅に余っていませんか」と呼びかけることもできます。ただ、それで顕微鏡が100個集まっても、ちょっと困ってしまいます。そこで、これはまだ検討中のことですが、集まった物については、学校で使うかもしれないし、場合によってはそれを寄付として扱い、お金に換える可能性もあることを予告しておこうかなと思っています。そうすれば、換金したお金で模造紙を買うこともできるし、油性ペンを補充することもできます。

初年度はどうなるかわかりませんが、子供たちの興味や関心に沿って探究学習が進んでいきますから、例えば天体が好きな子が天体望遠鏡を欲しがった場合には、「寄付を募ってみようか」「それを持ってる人がいないか聞いてみようか」という話に発展することも十分あり得ます。天文好きの大人が現れて、「僕の使っていた天体望遠鏡をあげるよ」とか「普通ならあげることはないけれど、この子の熱意を感じたからあげてもいい」ということだってあるかもしれません。

お金がらみの話は公立校では無理かもしれませんが、卒業生という人材とのいい繋がりがあるはずです。自分の母校や地元の小学校に投資したいという人は、少なからずいると思います。

ヒロックでの様子

オルタナティブスクールだから実現できる個別最適の学び

例えば、公立校に通う一人の子が、本気で何かの楽器をやりたいと言い出したとします。その学校の卒業生の中に、その楽器を教えてもいい、使わなくなった楽器を提供してもいい、という人がいるかもしれません。でも公立校では、その楽器を全員分集めることを前提と考えてしまいます。学校では、リコーダーが配付され、みんな揃って、リコーダーを演奏しますよね。ハーモニカをやりたいと主張した子がいたとしても、「みんなリコーダーだから」という理由で、意欲よりも画一性が優先されることになります。結局、同じ値段の同じものを揃えようとする力が働くから、同じ演奏活動しかできないということが起こってくるのです。

ギターをやりたい、ベースをやりたい、ドラムをやりたいと一人ひとりの子供が強く希望したとしても、あまりにそれぞれの楽器の値段が違いすぎて、学校備品としての購入を諦めることになります。平等を求めるあまり、学習の均質化を生んでいるところはあると思います。

どの学校でも実施されることになったプログラミング学習に使われるツールにも、その問題が絡んできます。本来的には、その子の興味を引くものを使うのが一番です。ゲームをつくりたい子もいれば、ストーリーをつくりたい子もいる。デザインしたり、絵を描くツールを使いたい子もいます。でも、それぞれのアプリの値段が違います。使用に応じて段階的に課金されるアプリもあります。1人当たりの額が変わることは、公立校ではなかなか許されないでしょう。公立校の先生も子供の個性を伸ばしたいとは思いつつも、個別に特別な手当をしてやることは許されない環境があります。そういうところは、僕らのようなオルタナティブスクールだからこそ打破できる部分だと思います。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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