「オルタナティブ教育」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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学校教育法第1条に定められている学校での教育とは別に、もしくは「学校」の定義を広げるために、いろいろな場で多様な教育実践が行われています。そこでの教育方法は、新しい時代の教育を切りひらくものとして期待されています。

執筆/育英大学講師・田中怜

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オルタナティブ教育とはなにか

クラスを仕切る壁がない教室、机も椅子もなくアスレチックだけがある教室、校舎に落書きをしてもいい学校、そして授業をしない学校。こうした教育や学校が現実にあります。そうした多様な教育実践の総称、それが「オルタナティブ教育」です。

「オルタナティブ」とは「代替の」とか「もうひとつの」といった意味です。したがって「オルタナティブ教育」は、「ふつうの教育」とは異なる「もうひとつの教育」であると言えます。その特徴をひと言で表すことはできませんが、それぞれ独自の教育理念を掲げ、子どもの個性を生かした教育、多様性を重視する教育を実践しています。

世界ではどのようなオルタナティブ教育が行われているのでしょうか。代表的な取り組みのいくつかを取り上げてみます。

オルタナティブ教育の代表例

シュタイナー教育

シュタイナー教育は、神秘思想家ルドルフ・シュタイナーの考えを基に展開されています。ドイツでは最も普及しているオルタナティブ教育のひとつで、「ヴァルドルフ教育学」という名でも親しまれています。シュタイナー教育の特徴は、教科ごとに学習内容を輪切りにするのではなく、いろいろな教科の内容をひとつの時間で総合的に学ぶ「エポック授業」の方式を採用することにあります。また、数値による成績評価を原則として廃止し、教師のコメントによる学習達成度の評価が行われます。こうした教育に携わる教員を育てる独自の教員養成システムを確立している点も特徴です。

モンテッソーリ教育

イタリアの幼児教育者であるマリア・モンテッソーリが考え出したモンテッソーリ教育は、子どもの自発性や自由を重視した幼児教育の方法として日本でも注目を浴びています。幼児の発達段階に応じて、子どもが自立できるように全人的な教育プログラムを設計している点を特徴としています。

イエナ・プラン教育

ドイツのイエナ大学の教授ペーター・ペーターゼンが1927年に始めたイエナ・プランの特徴は、異年齢の子どもたちによって学級が構成される点にあります。またイエナ・プラン学校では、会話・遊び・活動・催しの4つの活動を基本とし、それを循環的に行うことで教育が実施されています。

このほかにも、イギリスのサマーヒル・スクール、アメリカのサドベリー・バレー・スクールなど、世界には多くのオルタナティブ教育を実践している学校があります。

日本におけるオルタナティブ教育

オルタナティブ教育は日本でもいろいろなかたちで試みられています。それには主に3つの流れがあります。

第1に、不登校の子どもたちを対象にした「フリースクール」と呼ばれる教育機関があります。フリースクールは制度的な意味で「学校」とみなされないケースが大半ですが、学校に行くことができない子どもたちを受け止めて教育を提供しています。

第2に、アメリカやヨーロッパの教育運動に影響を受けたオルタナティブ教育です。20世紀初頭に、いわゆる「新教育」(改革教育)と呼ばれる教育改革運動が世界中で勃興しました。この伝統を汲んだオルタナティブ教育として、日本でも先に述べた「シュタイナー学校」や「モンテッソーリ教育」「イエナ・プラン」が盛んです。そこでは独自のカリキュラムの作成や、学級編成の方法に工夫を凝らすなどして、一般的な学校とは異なる教育プログラムが実践されています。こうしたオルタナティブ教育は、日本では公立学校・私立学校の別を問わず実施されています。

そして第3に、アメリカの教育運動の影響を受け、民間のNPOなどが主体となり公立学校の設立を目指す運動を挙げることができます。例えば、1997年から2014年まで、NPO「湘南に新しい公立学校を創り出す会」の運動が展開されていました。

新しい教育の場をつくる

2016年12月、日本では「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)が成立しました。これにより不登校の子どもたちなどの「教育の権利」を保障するために、教育基本法に定められた学校以外の場で普通教育の機会を確保することが目指されています。このような多様性を認める動向は、まさしくオルタナティブ教育の理念と合致したものです。

オルタナティブ教育の実践例は、「ふつうの学校」に慣れた私たちには特異なものに映りがちです。しかし、異年齢の子どもたちの交流は小中一貫教育との関連で推奨されていますし、数値での評価をしないことは、日本の「特別の教科 道徳」とも通じるものがあります。オルタナティブ教育の取り組みを知ることは、知らず知らずのうちにできた常識を打ちこわし、私たちの眼差しを新しい教育へ向けてくれることでしょう。

▼参考文献
田中怜「プロジェクト授業の中の『ヘンティッヒ・パラドックス』―グロックゼー学校にみられる反権威主義的な授業実践とその修正―」(『筑波大学教育学系論集』第44巻第2号、筑波大学人間系教育学域、2020年
永田佳之『オルタナティブ教育:国際比較に見る21世紀の学校づくり』新評論、2005年
吉田武男「シュタイナー学校」(天野正治・結城忠・別府昭郎編著『ドイツの教育』東信堂、1998年)

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