小1道徳「みらいにむかって」指導アイデア
執筆/埼玉県公立小学校教諭・工藤あかり
監修/前・埼玉県公立小学校校長・藤澤由紀夫、文部科学省教科調査官・浅見哲也
使用教材:「みらいにむかって」(学研教育みらい)
目次
授業を展開するにあたり
この教材は、日本が誇る錦織圭選手が、現在の活躍につながる自らの子供の頃のことを子供に語りかける教材です。
一年生の子供たちは、普段の生活で自分の将来の夢について深く考えることはほとんどありません。また、ぼんやりと夢を抱くことはあっても、現実離れして具体的な目標とはなっていませんから、目の前の学習や生活が夢につながるなどということに実感ももてません。
努力の原動力となる目標が具体的ではないのですから、何事も好奇心をもって行おうとはしても、つらいことや苦しいことがあるとくじけてしまう子供が多いのも当然です。
そこで今回の授業を通して、今の学習や生活が夢の発見や実現につながっていることに気付かせ、自分のやるべきことをしっかり行う意欲を高めたいと考え、実践しました。しかし、このようなすばらしい活躍をしている人の話は、ともすると「すごいな」と思って終わり、自らの実践につながらないということがよくあります。
今回は、プロテニスプレーヤー・錦織圭選手を「世界で活躍するすごい人」としてだけ扱うのではなく、錦織選手から学ぶことはないかという視点で授業を進めました。そして、「自分も夢を見付けたい」「今やっていることはきっと自分の将来につながるはずだ」など、自らのこととして捉えられるような授業プランを考えました。
展開の概略
①錦織選手の活躍を紹介し、憧れをもたせることで、「どうしたら夢を見付け、それをかなえることができるのか」を錦織選手の姿から探ろうとする意欲を高める。
②教材「みらいにむかって」の錦織選手の子供の頃の様子を基に夢の発見や実現のために必要なことを考える。
1.錦織選手はどうしてテニスという夢を見付けることができたのかについて話し合わせ、夢を見付けるまでにテニスに関係ないこともがんばっていたことに気付かせる。
2.錦織選手がなぜつらい練習をがんばることができたのかを話し合わせることで、目標をもつことの大切さやつらさを乗り越えることが夢の実現につながることについて考えられるようにする。
③話合いを基に、心に残ったことや今の自分にできることなどをワークシートに書き、自己を見つめられるようにする。
④教材に描かれていない錦織選手の子供の頃の話を紹介し、自分たちが考えたことがこれでよいのかを確認できるようにする。
⑤六年生からのビデオメッセージを見ることで、自分の身近な人もがんばっていることに気付かせて、自分もがんばろうという意欲を高める。
▼ワークシート
▼資料の紹介「錦織選手の幼少期エピソード」
実際の授業展開
教材名
みらいにむかって
ねらい
錦織選手の夢に向かって努力する姿を通して、自分がやらなければならないことにしっかりと取り組もうとする態度を養う。
内容項目
A 希望と勇気、努力と強い意志
準備するもの
・ワークシート
・錦織選手の試合やテニス選手の練習風景の動画
・錦織選手の写真
・錦織選手の幼少期エピソードの資料
・六年生のビデオメッセージ
ワークシートや資料のPDFはこちらよりダウンロードできます
道徳科ヒントとアイディア小一「みらいにむかって」
指導の概略(板書計画例)
導入
①テニスの錦織選手を知っていますか。
- 錦織選手に憧れをもたせ、その姿から「夢の発見」や「夢の実現」に必要なことは何かを探る意欲を高める。
展開1
②錦織選手はどうして夢を見付けることができたのでしょう。
- 子供の頃、錦織選手はテニス以外にもさまざまなことに挑戦していた。それが夢を見付けることにつながっていることに気付かせ、子供が今の自分と比較できるようにする。
展開2
③なぜつらいときでもがんばることができたのでしょう。
- 夢ががんばる原動力になっていることや、つらいことでもそれを乗り越えることが夢の実現につながることに気付かせる。
展開3
④心に残ったことを書いてみましょう。
- 話合いを基に夢や努力することについて考えたことやこれからしてみたいことなどを書くことで、自己を見つめられるようにする。
- 何人かの子供に発表させるが、感じ方は一人ひとり違うことを話し、子供が自らの思いを大切にできるようにする。
展開4
⑤錦織選手の子供の頃の話をもう一つ紹介するので聞いてください。
- 教科書に描かれていない錦織選手の話を聞き、自分たちが考えたことがよかったのか確認できるようにする。
終末
⑥六年生のビデオメッセージを見てみましょう。
- 六年生に自らの夢と夢の実現について努力していることを話してもらい、自分もがんばりたいという意欲がもてるようにする。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
想像しにくいところは補助資料
授業をアクティブにするためには、導入で子供の意欲を高めることが重要と考えます。今回は錦織選手に憧れをもたせることで、授業への意欲を高めたいと考え、錦織選手の試合のビデオを活用しました。自分も錦織選手みたいに活躍したいと思った子供は、その後も意欲的に授業に臨めたようです。
また、錦織選手が大変なことをなぜ乗り越えられたかをより深く考えるためには、その大変さを実感できなければなりません。しかし、教材の文章だけでは、一年生には実感できないと考えました。そこで、錦織選手を紹介するときに、プロのテニス選手の練習風景の動画も見せました。
身近な人の姿から学ぶ
学びを話合いだけで終わらせず、今後の生活に生かそうとする意欲につなげられるように、終末を工夫しました。同じ学校の六年生にビデオでメッセージをもらいました。「自分にはなりたい夢がある。その夢をかなえるために学校の勉強や習い事に一生懸命取り組んでいる。みなさんも今できることをがんばって」という内容のメッセージです。
この六年生の話は、遠い存在である錦織選手だけではなく、身近な人にも当てはまる話であるということを子供に感じ取らせるのに有効でした。そして、多くの子供が自分もがんばりたいという思いをもつことができました。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
本教材は、錦織選手が幼い頃、さまざまな習い事をしていたことが述べられています。しかし、すべての子供が習い事をしているとは限りません。学級の実態からもそのことが分かりました。このような子供が、「自分は何も習っていないから夢は見付けられない」と感じてしまうことがないようにしたいと考えました。
そこで、錦織選手の小学校や中学校の担任からのエピソードを紹介し、錦織選手が習い事だけではなく、学校の勉強も同じようにがんばっていたことを伝えました。これにより、子供たちは今回の学習をより自分のこととして捉えることができました。
また、エピソードを伝えることは、自分たちが話し合い、自分が感じたことが間違いではなかったという自信をもつことにもつながったようです。授業のねらいに迫るために、教師が子供の実態をしっかり把握しておくことが大切です。その思いをもって常に授業に臨みたいものです。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の授業では、一般的には教科書の教材、文字や絵、写真から情報を得て場面を想像し、そのときの気持ちや考えを基に、授業を展開しています。しかし、誰もが当たり前のようにできるかというと、当然、学級の中には配慮を要する子供がいるはずです。
教材などの提示の工夫として、工藤先生は映像を効果的に活用しています。視覚優位、聴覚優位などとも言われていますが、教科書の文字から情報を得やすい子、読み聞かせの音から、あるいは、絵や写真から情報を得やすい子などさまざまで、映像にはこれらの要素が多く含まれているからこそ、子供は引き付けられ、興味や関心をもって授業に臨むことができるのです。
また、著名人はなかなか身近に感じられませんが、自校の六年生は一年生にとって身近で憧れの存在です。テレビに出てくるヒーローにもなれると、自分の夢を大きく膨らませることができる一年生ですから、六年生の努力の姿は、大きな影響を与え、がんばろうという気持ちが湧いてくることでしょう。
『教育技術 小一小二』2021年1月号より