子供たちの心を揺さぶり計画委員会を活性化!【特別活動研究校レポート】

人と信頼関係をつくること、社会にかかわり、よりよくすること、自分のよさを伸ばしていくこと。特別活動で育てようとしているのはこうした力です。子供たちが今後、社会で生きていく上で必要不可欠なものばかりです。杉田洋・國學院大學教授が推薦する、さまざまな学校の「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」を育む実践を取り上げていきます。今回は、東京都府中市立南白糸台小学校の実践を紹介します。

監修/國學院大學教授・杉田洋

 國學院大學教授・元文部科学省初等中等教育局視学官 杉田洋
國學院大學教授・元文部科学省初等中等教育局視学官 杉田洋

特別活動の研究を始めて1年目から成果が現れた

副都心の新宿駅から西に延びる私鉄に乗り、最寄りの武蔵野台駅に降り立ちます。そこは、ちょうど武蔵野台地の崖線が走るところにあり、坂を下っていくと、目当ての小学校があります。

東京都府中市立南白糸台小学校(森嶋正行校長、児童数664人)は、2019年度に校内で特別活動の研究を始め、2020年度から2年間、府中市教育委員会研究協力校として特別活動を研究しています。本校の研究成果は、早くも昨年度に表れたといいます。今回は、その昨年度の取組について、森嶋校長、特別活動主任の小杉厳太教諭、横川朋子教諭にお話しを聞きました。

学級は誰もが自由に発言できる雰囲気に溢れていた

小杉学級(今年度は6年1組)を訪れると、帰りの会が開かれるところでした。

日直「帰りの会を始めます。当番、係、サークルの連絡や言いたいことはありますか」

A「図工当番です。図工の持ち物はのりと絵の具です。それから、配付されたプリントを忘れずに持ってきてください」

みんな「はい」(拍手)

B「忘れてた。Aさん、ナイス!」

C「靴箱傘立てサークルです。今日の靴箱はきれいでした。来週も心がけましょう」

D「土曜日に前髪を切りました。前髪の乱れは心の乱れです。みんなも髪の乱れに気をつけましょう」

みんな「はい」(拍手)

学級から笑い声が起き、筆者も笑いました。サークルとは、「ちょボラ」(友達をちょこっと助けるボランティア)をするグループのことです。

隣のクラスの子もあいさつしにきた。
隣の2組の子が「こんなことをやりました!」と見せてくれた。

終業後、学級に立っていたら、1組の子だけでなく、隣の2組の子までが、「こんにちは」と声をかけてきました。誰が発言しても構わない雰囲気がありました。しかし、この研究を始める前の子供の姿はそうではなかったらしいのです。森嶋校長はこう話します。

森嶋校長
森嶋校長

「それまでの子供たちは、教師から言われたことはきちんとしても、何かを生み出そうとする意欲は感じられませんでした。私は子供たちが自分たちでつくっていく学校にしたいと考え、特別活動の研究を始めることにしました」

計画委員会を活性化することで、全校の児童の心を揺さぶった

研究成果のひとつは、計画委員会を活性化させたことです。計画および代表委員会の指導を担当した小杉教諭は、1回目の計画委員会開催に先立ち、当時の6年生の計画委員を誘い、事前に話合いの場を設けました。

T(先生)「今、自分たちが学校を動かしているという感覚はある?」
C(委員)「あまりないです」
T「動かしてみたいと思う?」
C「楽しいことなら、やってみたい」
T「まず計画委員会から変えていかないか。先生たちのアイデアには限界があるから、最高学年を中心としたみんなの力が必要なんだ。先生たちはみんなの希望を形にするために全力で協力すると約束するよ」

ある日の計画委員会

第1回計画委員会では、委員長を選出した後、どんな学校にしたいかを話し合いました。「男女関係なく楽しい学校」 「縦割り班活動以外にも学年を超えて交流する学校」 などの意見が出ました。

それ以後、小杉教諭は休み時間を使い、どうしたら理想の計画委員会にできるか、計画委員長と何度も考えました。会議の際、座席を円形にして話しやすくしたり、はじめにアイスブレイクとしてフリートークの時間を設けるアイデアが出されました。それを手始めに、計画委員会の議事進行は、

①フリートーク→②議題の確認→③話合い→④学級、学年、学校の各課題を共有→ ⑤代表委員会では計画委員が司会をするので、そのための準備→ ⑥ふり返り→⑦全校朝会で話す原稿作成

という流れで行われることが固まりました。

本校では、1学期に「あいさつ運動」、2学期は「ちょボラ運動」、3学期に「あったか言葉かけ運動」(温かい言葉をかけあう活動)の活動を全校で行うことが恒例になっていました。

2学期は、「ちょボラ」の活動をひと月かけて行います。計画委員会は全校の子供が積極的に参加するものにしたいと考えました。本校の「ちょボラ」とは、校外においてではなく、学校生活の中で友達を助ける活動のことをいいます。その経験を積み重ねることによって、子供の思いやりの心を育もうとする取組です。

掲示物の拡大

夏休み明けの計画委員会では、従来のやり方を見直し、子供たちの「ちょボラ」を掲示する場所や掲示方法が議題となりました。

例年、教室の壁面に木が描かれた模造紙を用意し、そこに「ちょボラ」の内容を記した葉っぱを貼ることにしていました。このやり方では、ある学級の活動が活発になったとしても、ほかの学級や学年にわからず、その勢いが波及しないという指摘が出されました。それが決め手になり、活動結果は職員室前に掲示されることになりました。

次は、掲示方法です。木の葉に書くのではおもしろくないという問題が提起されました。

C1「ゲームの『あつまれ どうぶつの森』のようにいろんなアイテムを貼って、森をつくるのは、どう?」
C2「いいね! 有名なゲームだから、全校のみんなで森をつくれるね」
C3「でも、低・中学年には、森をつくることを考えながら貼ることは難しいと思う」
C4「低・中学年は例年通りの木に貼ることにして、高学年はそれで行こうよ」
C5「今年は高学年が『あつ森』の見本を見せよう。『あつまれちょボラの森』だ!」

職員室前には「あつまれ ちょボラの森」の掲示板が設置されました。高学年は『あつ森』をつくり、低・中学年は例年通りの木に、友達からしてもらった「ちょボラ」を書いて貼ることにしました。

職員室前に貼りだされた「あつまれ ちょボラの森」の掲示板
職員室前に貼りだされた「あつまれ ちょボラの森」の掲示板

はじめは調子よく「ちょボラ」が貼られましたが、2週間ほど経つと、参加者が減ってしまいました。小杉教諭は計画委員に「森が枯れているよ」と声をかけました。計画委員もそれはわかっていました。下の学年の子供から同じことをしたかったと苦情がきていたからです。

問題は森を枯れさせないことでした。臨時の計画委員会で検討した結果、給食の時間に全校放送を使って、その日に貼られた素敵な「ちょボラ」を紹介する作戦に出ました。しかも、その放送のとき、計画委員のひとりが発した「よっ ナイス ちょボラ!」のかけ声が子供たちにうけました。放送で読まれたいと、「ちょボラ」を貼る子供が増え、勢いが戻りました。最後には、「ちょボラ」で真っ盛りの森になりました。

「これを境に、学校を動かすことの楽しさが多くの子供に伝わったと思います。昨年度に私の学級で計画委員に立候補したのは4人しかいなかったのに、今年度は12人が立候補しました。計画委員になれずに悔し泣きする子も現れました」(小杉教諭)

「ちょボラ」を紹介するときの放送台本
「ちょボラ」を紹介するときの放送台本

「ちょボラ」は盛り上がり、学級の生活をよくする活動が現れた

全校での「ちょボラ」の活動期間は終わりましたが、それぞれの学級で、「あつまれちょボラの森」の活動を続けることにしました。しかし、その内実は基本的に、「〇〇さんが△△してくれた」という1対1のかかわりにとどまっていました。小杉教諭は、個人が学級に働きかけ、さらに学年や全校に働きかける活動が起きることを期待しました。ここは我慢のしどころだと思いました。

11月になり、学級のある子が「ちょボラ」のふり返りに、「学級の水槽を掃除したい」と書いてきました。その子に賛同する4人が集まり、「せわーズ」というサークルが生まれました。「毎日の掃除は大変だよ」と小杉教諭は言いましたが、「せわーズ」の面々は「クラスのためにやりたい」と答えました。

「せわーズ」の振り返り
「せわーズ」をやりたいと書かれたふり返り
「せわーズ」のメンバー
「せわーズ」のメンバー

「ちょボラ」が個人的なかかわりを超えて成長する動きは5年生に限りません。横川教諭が担任した4年3組でも、そうした動きが見られました。全校放送の「素敵なちょボラコーナー」で2日続けて4年3組の「ちょボラ」が紹介され、学級が沸いたことがありました。それを機に、横川教諭のほうから「ちょボラ」の成長を働きかけました。ちょうど保護者会が近づいていました。通常は6年生が体育館に椅子を並べるのですが、その作業を学級で引き受け、学校のために「ちょボラ」をしようと提案しました。37人全員で協力して120脚の椅子を並べました。集団行動が苦手な子が、「ソーシャルディスタンスを意識して並べよう」などと声をかける姿が見られました。

横川教諭
横川教諭

数日後、地域の公園を通りかかったら、落ち葉を詰めた袋が倒れて台無しになっているのに気づき、自主的に片づけた子供が現れました。聞けば、5人でやったといいます。その中のひとりが、

「これは、『ちょボラ』じゃなくて、『大ボラ』だね」

と自分たちの行動を名づけました。横山教諭は、学級だよりにそれを「『ちょボラ』からの進化」と題して紹介しました。

学年間の交流が生まれ、学習面での学び合いが起きた

おそろいのTシャツで。左から日比祥史教諭(3組)、栁生実華教諭(2組)

5年生には3学級がありました。「ちょボラ」の動きがそろって活発になり、子供たちの視野が広がる気配を見せていました。それぞれの担任が「ちょボラ」を学年に広げるチャンスだと感じていました。担任の3人は年度当初から学級の壁をなくそうと話していました。自分の学級さえよければいいというのでなく、ほかの学級の子も大切に育てようという気持ちで一致していたのです。いつも担任同士が意思疎通を図り、おそろいのTシャツをつくり、学年の誰彼なく子供たちに声をかけました。自分たちの学級や学年経営の考え方を保護者に知ってもらおうと、1学期の学年だよりには3人の座談会を載せました。

担任の3人は学年が交流する場として「学年掲示板」を設けました。毎月、各学級から選ばれた実行委員が、学年に役立つ企画を考え、準備、運営、ふり返り、次の代への引き継ぎまでを担当しました。「学年掲示板」には、学級対抗の「ゴネンピック」集会の呼びかけや、自分の学級でやってみてよかった取組などが紹介されました。

学年掲示板
学年掲示板

ちなみに、5年生の担任はそのまま6年生に持ち上がっています。これは今年度のことですが、1組の体育の時間が学校行事の準備などで削られていたとき、2組が1組との合同体育をしようと思いつきました。1組の男子と2組の女子対1組の女子と2組の男子の混合リレーなどが行われました。学年に壁がないからこそ、こんなこともすぐに楽しくできるのでしょう。リレーがスタートすると、子供たちに声がかかりました。見上げると、校舎の4階の窓から3組の子が応援してくれていました。

「学級の子が隣の担任の先生にものを頼むなどということは日常茶飯事です。担任同士の仲のよさが子供たちに伝染するのだと思います」(小杉教諭)

「ちょボラ」の活動がうまくいくとともに、学習面でも子供たちに変化が起きました。 3学期に漢字テストを行いました。丸つけをしたところ、見事に全員が100点満点をとりました。みんなで大喜びをしていると、I君が、

「次の漢字テストも全員が100点をとれるかもしれない。ワンチームを目指そう」

とみんなに呼びかけました。I君には、2019年のラグビーワールドカップ日本大会の記憶が残っていました。すると、2回目の漢字テストも全員が満点をとりました。 さらにI君が記録を伸ばすことを提案すると、学級に「漢ジーズ」というサークルが生まれ、漢字のポイントを紙に書いて教室内に貼るようになりました。ほかにも、国語の授業のはじめに漢字のポイントを説明する子、漢字が苦手だという子にマンツーマンで教える子などが現れました。

漢字テスト対策のプリントをつくった。

3回目の漢字テストも全員が満点だったとき、小杉教諭は「間違えた子がみんなから責められるからやめよう」と提案しましたが、子供たちは、

「うちのクラスは間違えた子を責めるようなことはしない」

と頑として譲りません。また、何かにつけて自信が持てずにいた子も、

「漢字テストを受けるのは緊張するけれど、楽しい。こんな気持ちは初めてだ。このクラスだったら、何でも挑戦できる気がする」

と言ってきました。漢字テストの記録挑戦は6年生になっても続き、今年の5月18日に見事全員が10回連続満点を達成しました。

みんなで協力し、全員が漢字テスト10連続満点を達成した。

年度末になり、6年生を送る会の時期になりました。委員会のメンバーにもう6年生はいません。それが開催されるひと月も前に、5年生は計画および代表委員会を開きました。決められていたのは、感染症対策のため、体育館でなく、校庭を開催場所とすることだけでした。

5年生は自主的に休み時間を使い、階段の壁面に各学年から6年生にメッセージを書いた飾りを貼ること、3~5年生がフラワーシャワーをつくり、当日に6年生にかけること、全員の合唱や各学年の出し物を披露することなどが決められました。

今年度の着任式で学級担任が発表されたとき、6年生になった子供たちからワーッと歓声が上がりました。

小杉教諭
小杉教諭

小杉教諭は本実践をこう振り返りました。

「子供一人一人が自信をつけ、大きな成長を遂げていく姿や、学年が同じ目的を持って子供を指導できる楽しさを実感することができました。今後も、ともに取り組む先生方への感謝を忘れず、子供たちの思いを形にできるように全力を尽くしたいと思います」

森嶋校長はこう締めくくりました。

「自分の思いや願いを持って意欲的に取り組む子供たちの姿が確実に見られるようになりました。子供中心の学校づくりや子供の自己肯定感を育むには、教職員のチーム力が問われます。新型コロナ禍こそ、創造的に生きる児童が育つチャンスと捉え、子供たちの笑顔が溢れる学校を目指して、子供たちとともに『南白糸小チーム』で前に進んでいきたいと思います」

取材・文/高瀬康志

『教育技術 小五小六』2021年8/9月号より

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