ウィズコロナ時代にあるべき学校教育像とはー『学びの共同体の創造 ~探究と協同へ~』著者インタビュー
新型コロナと第4次産業革命は、世界と社会を激変させ、日本の教育にこれまでに経験しなかった学びのイノベーションを求めています。一人の子どもも一人の教師も独りにしない「探究と協同の学び」の創造と学びのイノベーションの道標を提示する日本の教育学の第一人者であり、 第45回教育学博士でもある東京大学名誉教授・佐藤学さんに著書『学びの共同体の創造 ~探究と協同へ~』の内容について、詳しくお話を伺いました。
目次
子どもたちの中に「聴き合う関係」をつくる
―「学びの共同体」とは何ですか? どうすれば実現可能ですか?
佐藤 学びの共同体は、子どもの学ぶ権利を保障し、教師たちが専門家として成長できる学校をつくろうという改革のビジョンです。
私はこれまで、日本の中でも非常に荒れている学校の改革に協力してきました。その中で学んだことは、子どもは学び続ける限り、決して崩れないということ。学ぶことは子どもたちの生きる権利、いわゆる人権と言われるものの中心です。さらに子どもにとって学びは希望なのです。だからどんな子どもも学びに目覚めると決して崩れません。そして、どの学校においても、子どもが夢中になって学び合い、育て合い、高め合う学校をつくることは可能だと実感しています。
例えば、荒れた学校はある共通した特徴があります。子どもたちは話を聴くことができず、教師は子どもを見下し、雑な仕事しかしません。こうした特徴を変えるため、まず子どもたちの中に「聴き合う関係」をつくります。また教師たちの中に、子どもを信頼しリスペクトする環境をつくり、子どもを支える環境をつくります。
子どもたちの中に「聴き合う関係」をつくるためには、まずは先生自身がよい聴き手になることから始めるとよいでしょう。そうすると子どもたちもよい聴き手になってくれるようになり、共同で学び合う関係を築くことができるのです。
人が幸福になるような経済をつくっていくための教育を
―コロナなど、激変する環境の中で、子どもの学びはどう変化するのでしょうか?
佐藤 今後は絶対にコロナ以前の社会には戻りません。ですから新しい社会を生きていく子どもたちを育てるために、教育に対する考え方も根本的に変えなくてはなりません。
例えばこれまで日本の先生は教育に経済的なものが絡むことを嫌うことが多かったでしょう。しかし、「教育と経済活動は別である」といった議論を続けていては、私はもうダメだと思うのです。今後は、崩壊しかけている日本の経済を立て直し、すべての人が幸福になるような経済をつくっていく子どもを育てる必要があり、そのための教育が必要です。
本書では、新型コロナ下の学校現場の現状と課題、ウィズコロナ時代のあるべき学校教育像についてさらに詳しく述べています。
―前巻(学びの共同体の挑戦)を刊行してから、学びの共同体はどう変化したのでしょうか?
佐藤 前巻を刊行した2018年と比較すると、学びの共同体の国際的なネットワークが大きく広がりました。3月には、31か国2100人で会議を行いました。以前は、だいたい11〜12か国500人程度だったので、予想をはるかに超える広がりです。
実は1年半前には、コロナ禍で継続は困難ではないかという危惧もありました。しかし現実には真逆で、より一層広まり、期待も支援も一層強くなっています。ますます役割と責任が大きくなったと感じていますが、今度もその期待に応えられるような実践を展開したいと思います。
佐藤学さんの本
『学びの共同体の創造 ~探究と協同へ~』
小学館
この記事は、 先生のための教育事典「EDUPEDIA」でも配信します。あわせてお読みください。
取材/大和信治(EDUPEDIA) まとめ/出浦文絵
『教育技術』2021年10/11月号より