「分からない⇒分かりたい」で教室と家庭をつなげる家庭学習

「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業改善のひとつとして、「ひとつひとつの知識がつながり、”分かった”、”おもしろい”と思える授業」が求められています。しかし、「分からないことを分かりたい」という思いが、子供の自発的な学習意欲をかきたてます。

GIGAスクール構想が始まった今こそ、”分からなさ”をきっかけに「自律して学ぶ力」をつけさせるチャンスです。ICTなどの学習支援ツールを活用し、教室と家庭をつなげる家庭学習について、具体的な事例とともに考えてみましょう。

執筆/神戸市教育委員会指導主事・吉岡拓也

吉岡拓也●よしおか・たくや 神戸市教育委員会指導主事。神戸市立高等学校での勤務を経て、現職。 神戸市立の学校園に足を運び、GIGAスクール構想における授業・学校改革を支援している。 モットーは「委ねる、つなげる、挑戦する」。 子供から、先生から、学ぶことを楽しむ。

自律した家庭学習

「分からないことを分かりたい」から学びが始まる

前回の記事に引き続き、今回も「分からなさ」のよさについて皆さんと考えていきたいと思います。

この前は、サッポロビールのCMについてご紹介しました。どうやら私はCMばかりが気になるようで、今度はGoogleのCMです。YouTubeにも同じ動画が掲載されており、次のように紹介されています。


パラ陸上競技・走り幅跳び、中西麻耶選手のスポーツ義足をつくる義肢装具士の齋藤拓さん。選手の大会成績や、最新の義足のテクノロジーなどを検索し、少しでも選手にプラスになることを日々、探索しています。

離れていても選手とたくさんの会話をし、本来分かり得ない「選手が義足の板バネで踏み切る感覚」を「分かってつくりたい」そうです。

齋藤さんの探究はつづきます。

分からないことを、分かりたいから。
さがそう。
Google

Youtube「分からないことを、分かりたいから。― Google」より
https://www.youtube.com/watch?v=dKEpq7YtfBs

「分からない」ことから学びが始まる。

前回の記事でも、いっしょに考えたことです。このような自律した学びをどうつなげていくか。学びは、教室だけで生まれるものではありません。家庭でも子供が学ぶチャンスがたくさんあります。

今回は、家庭学習について考えてみましょう。

「自律して学ぶ力」をつける家庭学習

まず、家庭学習について考えるときに忘れてはならないことがあります。それは、2020年の新型コロナウイルスによる臨時休校です。これを読んでくださっている方の学校では、そのときにどんな学習支援をしていましたか? 多くの公立学校では、オンライン授業等の環境がなく苦労したことだと思います。私もそうでした(当時、神戸市立の定時制高校に勤務していました)。

臨時休校のときに子供たちに提示したのは、事細かに書いた手順書や膨大なプリント、ドリルの類。その結果、子供は自ら学びに向ったでしょうか。自信をもって「はい」とは言えません。

もし、普段の授業から「自律」した子供になっていれば…⋯。

教師が提示する課題がなくとも、子供は自ら学びに向かうことができたかもしれません。今の時代、無料で活用できる授業動画など様々なコンテンツがあります。そのコンテンツを活かすことも可能です。

つまり教師の役割は教えることや与えることではなく、子供の学習意欲を高めていくことではないでしょうか。

「分からなさ」と向き合えたときに、「何でだろう、もっと知りたい」と子供は自ら学び出します。

教師が用意したレールの上を走っているだけでは、子供の「やってみたい」はなかなか生まれません。子供に委ねることで、初めて自律して学び始めることにつながります。いかに自律した子供が育っているかで、家庭学習の取り組みも変わってきます。

よく、宿題で「ドリルやワークの〇〇ページを解いてきなさい」という課題があります。この宿題で、自律して学ぶ子供が育つのでしょうか。もちろん、ねらいによって変わってきますが、子供が自律して学ぶことにつながるとはあまり言えないでしょう。

これまで当たり前のようにやってきたこと、「宿題=ドリル」というイメージを変える必要があると考えています。幸いなことにGIGAスクール構想も始まりました。GIGAスクール構想は、「学習(授業)観」を変えるチャンスだと捉えています。

そんなときにICTを「手段」として、子供に「自律して学ぶ力」をつけさせるような家庭学習を3つ紹介します。

ポイントはいかに「自分事」にするか、です。

(学習支援ツールは、Microsoft Teams、SKYMENU Cloud、ロイロノート・スクールなどを想定していますが、ICTを活用しなくとも実践可能な内容です)

1. オリジナル問題づくり

必要なもの

プリント(またはノート)、学習支援ツール

学習の手順

①子供が該当の内容の「まとめ」をつくる。
 (初めて学習する人がわかるようにする)

②子供がオリジナル問題を作成する。
 (普段の授業から、問題づくりを習慣としたい)

③子供が問題の解答・解説を作成する。
 (解けなかった人が「あ! そうか!」となるようにする)

④子供が作成した問題を共有する。
 (投稿機能やファイル共有を活用する。教師が印刷して紙で配付することも可能)

⑤子供が仲間の問題を解いて学ぶ。
 (仲間と学び合う。家庭でも授業でも可能)

解説

普段の授業の復習としても、週末や長期休みの課題(予習)としても活用できます。

問題づくりのよさは、子供が自分のペースで学習できること。得意な子はどんどん難しい問題にチャレンジできますし、苦手な子は自分の弱点克服のための問題を考えることができます。

また、解答・解説をつくるという負荷を与えておくことで、自分の「分からなさ」と向き合うことにもなります。「本当に理解したこと=相手に説明ができること」というイメージでしょうか。

さらに仲間の問題を解いて学ぶことで、新たな発見も生まれます。やはり子供の学びを深めていくためには、協働学習が欠かせません。

完成した問題は、別の単元や次の学年で、「テキスト」としても活用できます。このように、子供が考えたものがどんどんとつながっていきます。

【参考例】子供がつくった問題と解説(数学LOVEレター)

数学ラブレター(問題編)
数学LOVEレター《問題編》
数学ラブレター(解答編)
数学LOVEレター《解説編》

2.「分からなさ」でつなぐ反転学習

必要なもの

ノートやプリント、教科書や学習動画、学習支援ツール

学習の手順

①子供が指定された問題を解いたり、教科書を読んだり、学習動画を見たりする。
 (例:ノートを左右に分け、左に自分の考え、右側に「分からない」ことを書く)

②子供が「分からない」ことを自分で調べて考える。
 (教科書やYouTubeの動画等を活用する)

③それでも「分からない」ことを、仲間と共有する。
 (投稿機能やファイル共有を活用する。授業中に教師が黒板を使って共有することも可能)

④仲間の「分からない」に対して、子供が自分なりの説明を考える。
 (分からなかった人が「あ! 分かった!」となるようにする。授業の導入でも可能)

解説

こちらは、予習にあたるものです。「反転学習」とも言われます。ただ予習をしてくるだけでなく、「分からない」ことを自分で「見える化」することが欠かせません。そうすることで、次の授業で「分からなさ」を共有していくことができるのではないでしょうか。

また、この学習のよさは、いろいろな子供の「分からなさ」を共有できることです。苦手な子供の考えが、得意な子供の学びを支えることだってあります。「分からなさ」を共有することで、どの子供も安心して学ぶことができます。

【参考例】子供が書いた「分からない」こと(ノートの右側)

子供が書いた「分からない」こと(ノートの右側)

3.「分からなさ」から自学につなげる

必要なもの

ノート、学習支援ツール

学習の手順

①授業で、問題の答えをあえて言わずに「分からなさ」を残して終わる。
 (毎時間ではなく、ここだというポイントで)

②学習支援ツールで自分の考えを提出できる環境を整えておく。
 (提出することを強制するのではなく、あくまで主体的に取り組ませる)

③次の授業の導入で、取り組んできた子供の考えを紹介する。
 (前時と本時をつなげていくイメージで)

解説

テレビ番組を観ていると、「え~、ここでCM!?」と絶妙のタイミングでCMになりませんか。「衝撃の事実は…」などと興味をひいて、CMに移ります。すると、続きが気になって他のチャンネルに変えられません。大ヒットになったテレビドラマ『半沢直樹』(TBSテレビ)もそうです。「え? 次は何が起きるの??」と気になる次回予告。思わず、次も見てみたくなります。

実は、ここには「ツァイガルニク効果(人は達成できた事柄よりも、達成できなかった事柄や中断していた事柄を強く覚えていること)」が活用されています。この「ツァイガルニク効果」を授業、そして家庭学習にも活用できるのではないでしょうか。

実際の授業を紹介します。高校1年生、指数法則の授業です。

まず、



と、教科書レベルの問題を3問考えました。

その後に、

に取り組ませました。

この問題は、高校1年生で学習する内容のレベルを超えた問題です。予想通り、子供はこの問題に大いに悩んでくれました。いろいろな考えも登場しました。そのときのやりとりを再現します。

【再現】4人の子供が自分の考えを発表する

(Aさん)
このの3乗のことで、になったのは、関数に-1を代入したときにになってるからです。そして、やから、のところにが加わっただけでになって、それが3乗やから3個かけて、になりました。最後にをあわせて、です。

(Bさん)
( )の中を3つ並べて、マイナスとプラスを同じようにかけてになりました。そして、かけ算の×をそのまま置いておかないようにして、です。3と-3は別のものだから、そのままにしています。

(Cさん)
私は答えがで、がなくなりました。途中まではBさんの答えと同じです。さっきの問題で、になったんですが、それは2+3で5だからです。今回も3-3が成り立つかなと思ったんで、私はになりました。

(Dさん)
まず、ってが2個あるわけで、マイナスとプラスをかけると符号はマイナスになるじゃないですか。をかけたらになるわけで、それが3つあるってことやから、になるかと。それに8をかけたら、答えは結局になるんじゃないかって思います。

(先生)
ありがとう。今、考え方が4個でてきたのかな? の4通りだね。では、今日は時間がきたので、次の時間にまた考えましょう。

授業の最後に私が答えを言って終わることもできました。しかし、あえて答えを言いません。すると子供は、「自学ノート」に負の数の指数についてまとめてきました。子供の自律的な家庭学習には「分からなさ」を残すことが欠かせないようです。

負の指数についてまとめた「自学ノート」(−1乗のとき方)
負の指数についてまとめた「自学ノート」

授業であえて答えを言わずに終わってみてください。「分からなさ」が残った子供は、自分でもっと知りたいと思い、休み時間も続きを考えたり家庭学習で調べたりするのではないでしょうか。

自分で考えた子供には、学習支援ツールで自分のノート等を写真に撮って提出させるようにします。そして子供の考えを共有して、次の授業の導入で活用します。

このように、「分からなさ」を活かすことで、教室から家庭へと学びがつながっていき、さらに本時と次の授業もつながっていきます。

分からなさが分かった時に学びは加速する

このような家庭学習に取り組んだ子供の声を紹介します(昨年度、ICT環境がない状況で実施)。

  • わからなかったところの解き方も書いて、次に考えるときにわかるようにする。間違えたところをなぜ間違えたかを書いて考えるようになった。
  • オリジナル参考書や問題集をつくるときに、相手が理解できるかどうかを考えてつくったので、より深く理解することができた。
  • 自分で問題を作ったりすることによって、アウトプットがしっかりでき、考える力が身に付いた。
  • 自分で考える力が身に付いた。何がわからないかを書き出したりしたことはなかったが、その大切さを理解した。
  • 授業中に全然理解できなかったところを、家で教科書を見ながら解き方を理解して、自分のやりやすい解き方を発見できた。
  • 授業中はわからないところを聞けたりして自分のためになった。今まで家で勉強をしてこなかったけれど、家でもちゃんと勉強をするようになったと思う。
  • 家庭学習では自分のペースで自分にあった学習ができました。

教室でも家庭でも、分からないことに向き合い共有する

今回紹介した家庭学習では、自己表現が自由にできます。何より、学習が苦手な子供の「分からなさ」が得意な子供の学習のきっかけとなり、お互いの学びを支えることになります。やはり、子供同士の「つながり」をつくることが欠かせません。それは普段の教室での授業と同じですよね。

子供に委ねる。
子供たちの考えをつなぐ。
子供が自分で気づく。

こうして「分からなさ」を共有しながら、教室と家庭をつなげていく。教室でも家庭でも、「分からないことを分かりたい」って思えるようにしたいですね。

【参考文献】紹介順
・分からないことを、分かりたいから。|Google(https://www.youtube.com/watch?v=dKEpq7YtfBs
・ツァイガルニク効果について(https://successbeginstoday.org/topics/42/

イラスト/畠山きょうこ

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