カウンセリングのプロ直伝!保護者の心をつかむ「話の聴き方・答え方」
保護者からの相談やクレームが増える二学期。保護者の話にしっかり耳を傾け、適切な回答や対応をしたいものです。この時期の低学年の保護者にありがちな内容を例に、正しい「話の聴き方・答え方」について解説します。
執筆/千葉県公立小学校教頭・岩田将英
目次
保護者との関係性を3タイプに分類して把握する
夏休み後から冬休み前までの間は、学校において最も長い期間です。保護者からの問い合わせやクレームが多くなる傾向がありますが、恐れることなく、子供や学級集団を成長させる糧として生かしていきたいものです。そのためのヒントをお伝えいたします。
まず、保護者と教師の関係性により、保護者を三つのタイプに分類します。
A :ビジタータイプ…教師とその保護者の間にそれほど関係ができていないタイプ
B :コンプレイナントタイプ…不平・不満を学校や教師に伝えてくるタイプ
C :カスタマータイプ…教師との間にある程度関係ができていて、問題状況の解決に協力的な態度を取るタイプ
Aの「ビジタータイプ」は、イメージで言うと、「一見さん」です。そのときの対応で、その後の教師に対する印象が決まります。大切なのは、
①連絡をくれたことに感謝する
②謙虚に(一段下に立って)話を聴く
③非があった場合には正直に認め謝罪する
④今後の見通しや手立てを示す
の4点です。
Bの「コンプレイナントタイプ」は、「クレームを言ってくる保護者」という印象です。教師にとっては怖く感じる場合も多いことでしょう。対応はAの「ビジタータイプ」と基本的に同じですが、「不平・不満」の部分について「よく連絡してくれました」と、伝えてくれたこと自体に感謝の気持ちを強く表すことが重要です。
Cの「カスタマータイプ」は、私たちの感覚で言うと、「よく知っている保護者」です。対応は油断せずに、Aの「ビジタータイプ」を基本としますが、面談後に保護者が取り組める課題を示さないと、物足りなさを感じる傾向があります。
また、関係性の分類が不明な場合は、A ・B・Cのはじめのほうに合わせると無難です。
相談例1「友達から○○されました」
保護者からの連絡で最も多いのは、友達とのトラブルです。相手が特定されている場合と、相手が特定されていない場合がありますが、まずは緊急性があるかどうかを判断する必要があります。
例えば、下校途中で被害児童に怪我や物損が生じている場合は、管理職の指示を仰いだ後、家庭訪問をする必要があります。その日のうちに教師が実際に訪問したかどうかが大切で、これを怠ると後々まで尾を引くケースがあります。「働き方改革」という観点もありますが、後から対応が必要になって、長時間勤務を生じさせないためにも、先手を打つことが重要です。
緊急性が低い場合について述べます。保護者からの情報は、帰宅後の子供の訴えや所有物の客観的な状態(なくなった、壊れた、傷付いたなど)なので、事実確認をする必要があります。
保護者が感情的になっている場合がありますが、教師を責めているわけではないので、自分のせいだと思わずに冷静に対応しましょう。事実確認は学校でしかできません。ですから、電話でのやりとりで解決することは100パーセントありません。誠意をもって解決に当たることを保護者に伝え、翌日(次の学校課業日)に事実確認と指導を行うことを伝えます。
事実確認と指導が終わった後、その内容を保護者に伝えますが、相手がいる場合、その子供(加害児童)の保護者にどう伝えるかが実に悩ましい問題です。特に、冒頭で述べた「コンプレイナントタイプ」だと、「うちの子は悪くない」と非を認めなかったり、一年生の初期から同じような連絡を学校から何度となく受けていて、保護者自身がウンザリしていたりする場合があるからです。
そのような場合は、相手の保護者に謝罪をするかどうかはさておき、双方の保護者の関係をつくるべく、了解を得たうえで連絡先を交換する仲介をします。また、加害児童の保護者に寄り添う言葉がけを必ずするようにしましょう。
相談例2「休み時間に、遊ぶ友達がいないみたいなんですけど」
保護者からそのような訴えがあると、教師は先回りして、「そうですか? 今日は○○ちゃんと△△ちゃんと鬼ごっこをしていましたよ」と答えがちです。保護者の話を聴くときに大切なのは、話す内容を聴くとともに、それを話す保護者の「目的」を探りながら聴くことです。
冒頭の答え方では、保護者の目的が分からないまま事実だけを伝えているので、保護者が連絡をしてきた目的とずれが生じる可能性があります。そうすると、教師が保護者から冷たい印象をもたれたり、知らないうちに保護者を傷付けたりすることがあります。
「そうですか。休み時間は友達と鬼ごっこをして遊んでいるようですが、□□さんはどんなふうに言っていますか?」と聴きます。
つまり、子供が休み時間に友達と遊んでいるかどうかではなく、保護者がどのようなことを心配しているのかに焦点を当てて聴いていくのです。このように聴くと、その子が家で、学校での様子を保護者にどう伝えているかや、保護者の心配している内容が明らかになります。
実際に一人ぼっちだった場合は、「確かに一人で遊んでいる様子が多く見られますが、ご本人はどう言っていますか?」とまず聴き、続いて「お母さまはどうなさりたいですか?」と聴きます。子供本人は一人で遊びたいのに、保護者が誰かと遊んでほしいという場合と、子供も保護者も誰かと遊びたい、遊んでほしいという場合があるからです。
いずれの場合も大切なのは、保護者の考えを先回りして理解せずに、何を望んでいるのか、何を求めているのかを、先入観をもたず「初めて聴くお話」のようにていねいに聴きます。
子供や保護者の願いを聴き、他の子との関係や環境の調整を行います。しかし、本人のソーシャルスキルが低い場合は、解決までに時間がかかるので、その後の様子を定期的に保護者へ伝えると保護者の安心につながります。
相談例3「毎朝、登校をしぶるのですが…」
実際に欠席や遅刻が多く見られていれば、学校から連絡しますが、毎朝通常通り登校している子供の保護者からそのような連絡を受けると、正に「寝耳に水」といった印象を受けます。
学校生活において心当たりや、気になる様子があれば、それを伝えることになりますが、思い当たることがない場合もあります。そこで、保護者を安心させようとして、「学校では何もありません。心配しないでください」と言うと、意図せずに保護者を傷付けることがあります。
そのような答え方は、「学校には問題ありません。家庭(保護者)に問題があるのではないですか?」というふうに伝わってしまうことがあるからです。冷静なときならばそのように伝わらないのですが、学校へ相談の電話をするとき、保護者によっては、困り感に満ちていて余裕がない場合があります。保護者として恥を忍んで電話をかけている場合もあります。
教師は謙虚に一段下から答えないと、保護者を責めるように伝わってしまうことがあるので 要注意です。
「私が見ている限り、○○さんの学校生活で特に気になる様子は見られないのですが、引き続きよく見ていきたいと思います。おうちではどのような様子ですか?」と答えます。
確認する内容は、登校をしぶるのは毎朝か、特定の曜日や教科がある日か、登校をしぶらない日はどんな日かなどです。そのような内容を聴き出すのと並行して、保護者の困り感に共感したり、登校をしぶるわが子に対応する保護者を労ったりする気持ちをもつようにします。
解決として、実際に登校しぶりがなくなるというのが一番ですが、登校しぶりに対して保護者があまり気にならなくなるというものがあります。保護者の心にエネルギーが溜まると、子供の異変を受け止める余裕ができて、問題が消えてしまうことがあるのです。
特別支援教育の視点から適切な支援を!
「うちの子、算数が全然分かっていないんですけど、どうしたらいいですか?」という相談を受けることがあります。低学年の場合、担任が保護者に宿題を見てもらうように依頼するケースが多くあります。実際、見てくれる協力的な保護者が多いので、わが子が学習を理解していない事実に直面して不安を感じ、学校へ相談を寄せてくるのです。
特に一年生では、9月以降、ひらがなが十分に読み書きできない子や10の合成が分からない子は、個別指導をしないと授業に全くついていけない状態になる場合があります。ですから、家で宿題をやったときに、保護者の協力があっても宿題をやり遂げるのに困難を極め、寝る時刻が遅くなるような子供がいるのも事実です。
また、学習の遅れの背景に発達の遅れがある可能性がありますが、保護者も十分に理解しているわけではないので、「やればなんとかなる」「本人が怠けているのではないか」「先生がちゃんと教えてくれていないのではないか」といっ た認識をしているケースがよくあります。そのような認識を基に、学校へクレームを入れてくることがありますが、それは保護者が子供の実態を受け入れることができずに感情的になっているのだと受け止め、教師は冷静に対応することが重要です。
具体的には、①学校における学習や生活の実態を伝える、②学校として講じる手立てを説明する、③状況に応じて、管理職や特別支援コーディネーターを交えた面談を提案する、④発達支援センターや教育センターなどの相談機関につなげるなどを行います。
また、相談があった場合、すぐに返答するのではなく、支援の手立てや方法、紹介する機関を整理して、保護者に伝えられるようにまとめておきましょう。その整理された情報を伝えることで、保護者は見通しをもつことができ、安心することができます。
指導方法へのクレームを教師自身が成長する糧に
指導方法へのクレームとして、教師が、①してくれなかったこと、②してしまったこと、③対応のまずさ、④不適切な発言などがあります。
大切なのは、教師が自分の指導の正しさを説明する前に、保護者がどう受け止めて、どう感じたのかをまず聴くことです。ひと通り聴いた後、保護者がそのように受け止めてしまったことについて謝罪をするとよいでしょう。大事なのはその事実についてではなく、保護者が違和感をもったことに対して謝罪をするのです。
例えば、テストの日に風邪で休んだ子の救済について、翌日は運動会の練習で忙しいので翌々日の実施を予定していたら、「先生は休むとテストを受けさせてくれないのですか?」というクレームが来たとします。そういうときは、「ご心配をおかけして申し訳ありません。今日は運動会の練習が3時間ありますので、明日、実施する予定でいました。お問い合わせいただき、誠にありがとうございます」と答えます。
このような軽微な認識のずれではなく、保護者と教師の「教育観のずれ」ともいうべきクレームもあります。また、保護者の側が、法律的、常識的な観点から外れた要求をしてくる場合には、学年主任や管理職、教育委員会と連携して対応し、一人で抱え込まないことが重要です。
その一方で、教師の常識や認識に改善が必要な場合がよく見受けられるのも事実です。保護者の訴えに耳を傾けて、教師自身が自分の指導をふり返り、改善する点はなかったか、真摯に向き合うことがときとして必要です。
せっかく保護者が勇気をもって訴えてきたのに、「ただのクレーム」として処理するのは残念なことです。クレームは教師への期待の裏返しでもあるからです。
保護者対応で一番大切なことは、保護者を大切に思うこと
保護者対応の基本は、どのような保護者も大切に思うことです。教師自身を必ずしも肯定してくれていない、むしろ批判的な保護者に対してもです。その大切に思う気持ち、「温かさ」を伝えるために、技術的なノウハウがあります。
私は教師の温かさが子供を変えると思っています。私の専門のカウンセリングは、相手に温かさを伝えることによって、面接する方の存在を肯定し、その人自身が変わっていく力を後押ししていくものです。子供だけでなく、保護者に対しても、温かさを伝えていくこと、それこそが保護者対応の基本であり、教師による子育て支援なのではないかと考えています。
そのためには、教師自身が「どんな自分も大切な自分」という心持ちで自分自身を肯定して、日常を送っていくことが必要だと思います。
イラスト/バーブ岩下
『教育技術 小一小二』2021年10/11月号より