フランスからのゲストティーチャー【4年3組学級経営物語9】
7月②「総合的な学習」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。イワオジの教師力の原点を聞き、自身の未熟さを反省をする渡来先生。そんな姿を見たイワオジは、7月に行う総合的な学習のゲストティーチャーとの打ち合わせを、渡来先生に任せることにしました。
目次
<登場人物>
ゲストティーチャーはフランスからの留学生
翌日の放課後、会議室の前に立つ渡来先生。
『ゲストティーチャーはジャンヌ、フランスの留学生だ。フランスについて子どもたちが質問し、日本のことを伝える…。異文化交流を通じ、地球市民としての意識を高める調べ学習だ』。
昨日の主任の言葉を思い出し、胸がドキンドキン。
『フランス語しゃべれないけど…、でもトライだ!』
思い切って開けたドアの向こうに座っていたのは、フランス人形に似た美しい瞳の女性。
「ボ…、ボンジュール。マドモアゼル、ええと…」
完全に舞い上がってしまった渡来先生。
立ち上がるジャンヌ、フワリと揺れる長い髪。
「コンニチワ、ハジメマシテ、トライだ先生!」
「えーっ、日本語上手じゃないですかぁ!」
「オジイサン、日本大好キ。ダカラ、ワタシモ日本文化ニ興味ヲ持ッタノ。コノ春カラ大学デ勉強シテマス。ヨロシクネ!」
ピエールじいさんの孫娘、ジャンヌが優雅に手を差し伸べてきました。
ピンチ! 指導案通りにはいかない!
「…ワタシ、日本文化ノ研究シテルノヨ。小学生ニ聞キタイ事ナンテ無イケド」
困った顔で、ジャンヌが答えました。
「ソレニ、フランスノ事ハ、ガイドブックデ調ベル方ガ、正確ニ分カルヨ」
『交流活動にならない。どうしよう…』
主任から手渡された指導案を見ながら、悩む渡来先生。
「ゴメンネ。フランスデハ、自分ノ意見ヲハッキリ言ウ。日本ハ、和ヲ以テ尊シナンダケドネ」
会話が途切れます。
質問が浮かばず焦る渡来先生を不思議そうに見つめるジャンヌ。
大ピンチ! 焦りが頂点に達します。
その時、あの厳つい顔と言葉を思い出しました。
『課題を持ち、学びにつなぐには…。ん…、あっ…、そうか』
心に浮かんだ素朴な疑問を、言葉にしました。
「…日本に来て、自分の国とは『違うなぁ』と感じたことは? それと、『ああ同じだ』と思ったことは?」
ジャンヌが、目を輝かせました。
「イッパイ有ルヨ! グルメハ同ジダケド、食材ヤ料理法ハ違ウノ。日本ハ、カタツムリ食ベナイ。オ汁粉ハ、黒クテ甘イカラ苦手。小豆ハ、塩味デ茹デルノガ普通ナンダケド…」。
話題が急激に膨らみ、先生自身も 何だか楽しくなってきました。
ジャンヌに…トライだ?
「では、インタビューを続けます」
学者タイプのハジメが質問します。
「フランスでは日本のアニメが大人気だそうですが、ジャンヌさんは?」
「私モ大好キ! 好キナノハ、○△×…」
なじみのアニメ番組名が出され、喜ぶ子どもたち。
「たこ焼きは食べましたか?」
ハジメが聞くと、「大阪名物だよ!」という声が続きます。
ジャンヌが、困り顔で答えます。
「タコハ苦手ナノ。フランスデハ、海ノ悪魔ッテ言ウカラ…」
「へえー、そうなの」
「美味しいのにね」
カバンから、大きな地図を取り出すジャンヌ。
「今日ハ、ヨーロッパノ地図ヲ持ッテキマシタ」
「日本はどこ?」
「あっ…、東の端にあった!」
「日本ハ東ノ端、極東トシテ描カレテイルワ」
「世界地図の中央は、必ず日本と思ってた…」
アキが手を挙げます。
「でも、いろんな地図の描き方があるんだね。国や地域によって」
「感じ方、考え方、表現の仕方は随分違う。しかし同じこともある。さっきのアニメのように」
渡来先生、ナイスアドバイスです。
一学期最後の総合的な学習は、ジャンヌを中心に盛り上がりつつあります。
廊下側の窓からは、大河内主任と葵先生が興味深そうに参観しています。
「ジャンヌを、教材としてうまく活用している。引き出しが1つ増えたな」
笑顔でつぶやく主任。
「でも、『違いを認め、共に生きる』って国際理解教育の本に載っています。事前に読めば、ムダに試行錯誤せずとも…。それに調べ学習にどうつなげるかも不明確です」
厳しい評価の葵先生。
「まず基礎基本からだな、教師力アップは。いいセンスを持っているが、まだまだ修行が足りん」
渋い顔の主任と葵先生に気づかぬ渡来先生。
ノートには今夏のキャリアアップの秘策が…。
それは「ぶらり旅で教師力向上~引き出しを豊かにする夏の旅行計画!~」でした。
(8月①につづく)
『小四教育技術』2017年8月号増刊より