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【指導のパラダイムシフト#8】宿題のパラダイムシフト②

連載
指導のパラダイムシフト~斜め上から本質を考える~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和

池田修先生×藤原友和先生のコラボにより、斜め上から本質を考える好評連載。第8回のテーマは、「宿題のパラダイムシフト その2」です。

執筆/京都橘大学発達教育学部児童教育学科教授・池田修、北海道函館市立公立小学校教諭・藤原友和

池田修

池田 修(いけだ・おさむ)1962年東京生まれ。国語科教育法、学級担任論などを担当。元中学校国語科教師。研究テーマは、「国語科を実技教科にしたい」「楽しく授業を経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」です。ハンモッカー。抹茶書道、ガラス書道家元。琵琶湖の話と料理が得意で、この夏は小鮎釣りにハマってます。

藤原友和

藤原友和(ふじわら・ともかず)1977年北海道函館市生まれ。4年間の中学校勤務を経て小学校に異動。「ファシリテーション・グラフィック」を取り入れた実践研究に取り組む。教職21年目の今年度は、教職大学院で勉強中。教師力BRUSH-UPセミナー、函館市国語教育研究会、同道徳研究会所属。

関連記事 ⇒ 前回の「宿題のパラダイムシフト」もチェック!

第8回のテーマは、前回に続き「宿題」

前回に続いて、宿題についてです。

そもそも宿題とは何か?

お約束通り、まずは、そもそも宿題とは何かから考えていきましょう。
実は、宿題は、俳句と関係があります。
このことを知らない先生は結構多いかと思います。

俳句は、作っておしまいではありません。
お互いの作品を匿名の状態にして選び合う句会や、複数の人数で交代しながら読みあう連句などの楽しみ方があります。宿題という言葉は、この句会からきています。

句会は、あらかじめ作品を作ってきてそれを選び合う「兼題(けんだい)」と、その場でお題が出されて、その場で作った作品で選び合う「席題(せきだい)」の二つのやり方があります。もうお分かりかと思いますが、この「兼題」の別名が「宿題」なのです。

つまり、宿題は、やってこないと句会に参加して遊ぶことができないという性格のものなのです。大学の授業でこのことを説明したところ、ある学生さんがこう言いました。

「ああ、それでは、宿題というのはUSJの入場券のようなものですね。持ってなかったら入れないし、中で楽しめないから」

うまいことを言うなあと思ったのを覚えています。
「なるほど。ただ、USJの方は中に入れば確実に楽しめますが、授業はさて、どうだろう?」
とは言いませんでしたが(^^) 。

宿題の種類

ここでクイズです。
学習指導要領には、宿題はどのように書かれているでしょうか?

小学校 「学習指導要領」(平成29年告示)

上記のリンクを開いて、「宿題」という言葉を検索してみてください。
いくつヒットしましたか?
そうなんです。
小学校「学習指導要領」(平成29年度告示)には、「宿題」という言葉はないのです。
あるのは、総則の「児童の発達の段階を考慮して,児童の言語活動など,学習の基盤をつくる活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,児童の学習習慣が確立するよう配慮すること。」くらいでしょうか。ちなみに、中学校学習指導要領も同じです。

余談ですが、学力、作文も学習指導要領には出てきません。この三つが学習指導要領にないということを最初に知ったときは驚きましたねえ。余談終了。

さて、これを踏まえた上で、現在学校で出されている宿題の種類を整理してみようと思います。

1.元々の意味での宿題
2.反復練習として身に付けるための宿題
3.お手伝いなどの生活に関する宿題
4.夏休みに時間をかけてやる宿題
5.夏休みの自由研究などの宿題
6.授業中に終わらなかったから「宿題」
7.隠れた宿題

具体例を示しながら少し詳しく見ましょう。

1.元々の意味での宿題
新しい単元に出てくる漢字の意味をノートに書いておく、授業中にやる句会の作品としての俳句、ディベートの試合のための立論、書き込み回覧作文のための作文など。予習の意味合いが大きい宿題です。

2.反復練習として身に付けるための宿題
計算問題、漢字や英単語の練習、早朝の縄跳びなど。また、月に一回の読書レポートなども。

3.お手伝いなどの生活に関する宿題
小学校低学年でよく行われている食事の準備や食事後の片付け、お風呂洗いなど。

4.夏休みに時間をかけてやる宿題
絵画、工作、理科の実験など。

5.夏休みの自由研究などの宿題
子供が自分でテーマを決めて、調査をしたり実験をしたりして、結論を求めレポートやスライドにまとめて発表するもの。

6.授業中に終わらなかったから「宿題」
前回イケダ少年が苦しんだと言っているもの。
多くの宿題は、これであることが多いと思われるが、そもそもこれは宿題ではないというのが私の考え。

7.隠れた宿題
この隠れた宿題は、もっと注目されていいと思います。
この後、詳しく述べます。

隠れた宿題

百人一首大会を学校でやったことはあるでしょうか?
私は、12月になると4回授業で練習を行い、1月に2回行って、その後に大会をしていました。なぜ、こんな風にやるのかというと理由があります。

私がやっていたのは、「J1百人一首」というものです。

やり方です。

1.6つの班になって15分程度の一試合を行う。
2.各班で順位を決める。
3.次の試合は、各班の同じ順位の人と対戦する。
4.3試合目は、各班の上位2人と下位2人を決める。上位2人は、上の班に行き、下位2人は下の班に行く。
5.上の二つの班は、何も見ないで戦う。
6.真ん中の二つの班は、百人一首の上の句と下の句が書かれている紙(あんちょこペーパー)を見て戦ってもよい。
7.下の二つの班は、あんちょこペーパーを見て戦う。

こうして6試合をして、形成的な評価をしていました。

さて、この「J1百人一首」のどこに宿題があるのでしょうか?
一見、どこにもないように見えます。しかし、ありますよね、宿題。
この授業の形式は、ある種の「反転授業」になっています。授業で百人一首の試合をするとなると、生徒たちは試合に勝つため、授業の外で準備をしなければなりません。そうです、歌を覚えないと勝てないわけです。この覚える営みが、宿題になっているわけです。

また、12月中に4回行って、1月に2回行うというのも、一つの仕掛けになっています。間に冬休みを挟みます。そのことで、家族や親戚たちと冬休みに百人一首を楽しむ時間を作り出しています。この「家族や親戚たちと冬休みに百人一首を楽しむ時間」も、宿題になっています。実際、冬休み後の2試合は、かなり上達した生徒たちの白熱した戦いになることが多いのです。

つまり、この「隠れた宿題」とは、やってこないと授業に参加できないという元々の宿題の少し柔らかいもので、やってきた方が授業でいい思いをできるとか、授業が楽しくなるという「宿題」です。

◆ ◆ ◆

大学の授業では宿題という言い方ではなく、課題として1.元々の意味での宿題と、7.隠れた宿題を出しています。この二つはもっと意識されていいでしょう。

私は、「作って学ぶ」ということを研究テーマにしています。学生たちには、授業では、教材作り、学習材作りで、実際にたくさんの教材や学習材を作らせています。自分のプレゼンを3分間の動画にまとめてYouTubeに限定公開させたもので発表させるとか、ICTの活用と著作権の理解のために「間違い探し」を作らせるとか、子供の興味に即した漢字の学習材を作らせるなどの指導をしています。それができていないと、授業に参加できません。

教師は学生が作ってきたものをその場で評価してコメントをするという力量が求められます。これは実は、教師の方に負担のかかる授業デザインです。野口芳宏先生は、「授業は、計画と対応と二つの側面があるが、計画の方は準備できても、対応のほうは難しい」と「教育と笑いの会」のパネルディスカッションで話されたことがあります。まさに、このコメントは授業の対応の部分です。教師の用意した土俵の上で授業を進めるのであれば、準備もそれなりにできます。しかし、授業で突然学生が提示したものを、その場で評価して適切なコメントをするというのは、相手の土俵の上で授業を進めることになり大変だということです。

しかし、それだからこそ、授業にライブ感が出て、よい授業になっていくのだと私は理解しています。「終わらなかったら宿題」の授業とは比べ物にならない授業になるでしょう。

宿題の問題点

最後に、宿題の問題点をあげておきましょう。

今ある宿題の問題点は、宿題の代行業者が存在することと、インターネットで「正解」を探して貼り付けておしまいにするというものです。前者は、法律違反というよりは、倫理違反なので難しいです。例えば、中学受験を予定していて、夏休みに猛勉強をする子供にとっては、夏休みの宿題は時間がかかって大変なわけです。そこで「課金」をして処理をしようとする親が出てきて……ということになっているのだとすると、一筋縄では解決できないなあと思います。

インターネットを検索して、出てきた「正解」を貼り付ける。これもあるでしょう。最近では調べ学習は、下手をすると「考えない学習」になっていますから。こちらの方は、まだ授業者の工夫で解決できるのではないかと考えています。

例えば、正解の前に、自分の仮説を書かせる。私は学生たちにこの方法を指導しています。調べる前に、仮説を立てる。そうすれば、ネットでの検索は「検証」になりますから。また、インターネットで調べても出てこない問いの宿題、被った答えは認めないという条件、答えではなく問いを作るという宿題などがあるでしょう。

ただし、学習指導要領が求めているのは、「家庭との連携を図りながら、児童の学習習慣が確立するよう配慮すること」ですので、その目的に応じた宿題を設定する。これを大事にして設定することです。

「そうだそうだ!」
とは、私の中に住んでいるイケダ少年の言葉です。

現場教師によるキャッチボール解説by 藤原友和

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