子供が自ら意欲的に取り組む持久走(マラソン)指導〔Part2〕ダウンロードプリント付
長年、体育科、陸上競技の指導を行ってきた栃木県公立小学校校長・平塚昭仁先生に持久走の指導について教えていただく実践編の〔Part2〕です。今回の〔Part2〕では、発達段階に合わせたいろいろな持久走の具体例や持久走の指導案などを伝えます。子供たちがわくわくするような指導を紹介します。ダウンロードプリントも活用してください。
執筆/栃木県公立小学校校長・平塚昭仁
目次
個別最適な授業を目指す実践編
体育で持久走をいつ、どのように取り入れていくか
持久走に適した時期は、10~2月くらいと考えます。
ただし、暑すぎると熱中症の心配があります。また、寒すぎても体のポテンシャルを存分に発揮できませんので、この時期であってもその日の天気や気温を考慮して実施することをおすすめします。
また、実施時期に関しては、自分で判断せずその学校の年間指導計画に従って授業をしていくとよいでしょう。やむを得ず年間計画と違う時期に実施する場合には、どうして違う時期に実施したのか理由をはっきりしておくことが大切です。これは、事故が起きた場合に「どうして違う時期に実施したのか」が必ず問われるからです。
体育の授業に持久走をどのように取り入れていくかについては、「1時間かけて持久走を行うパターン」「他の種目と組み合わせて持久走を行うパターン」の2通りがあります。なかには、毎時間、体育の前に必ず校庭を2周させているので、あえて持久走という授業の時間は取らないという教師もいました。ただ、走る楽しさを味わわせたいのであれば、持久走を体育の前の義務的な運動に位置付けるのではなく、自らが走りたくなるような授業を仕組んでいきたいと私は考えます。
低学年~中学年の時期は、体力があまり付いていない発達階段です。私の授業では、持久走で1時間かけるというよりは、準備運動の後、体を温める意味も含めて持久走をし、その後、違った種目を行うといったパターンを多くとっていました。
高学年では、自分で練習方法を考えたり走る距離を選んだりする授業の形態も取り入れてきました。そうなると、1時間かけて持久走に取り組むことが多く、まとまって何時間か持久走の授業をしたこともありました。
持久走の授業の約束事
持久走を始める前には、子供たちと約束事を確認しておくことが大切です。
安全面では、自分の体調が悪いときや限界を超えそうなときに決して無理をしないということです。これを子供たちに伝えると、「子供は自分に甘くなり、すぐにあきらめてしまうのではないか」と考える人がいます。しかし、子供たちが夢中になったり目標を達成しようとチャレンジしたりしているときには、逆に無理をしすぎることのほうが多いのです。命に関わることですので、十分配慮していくことが必要です。
児童指導面では、持久走が苦手な友達に対して陰口を言ったりからかったりしないということです。学級経営全般を通して、互いに認め合える雰囲気ができあがっている学級にはこの必要はありませんが、そうでない学級の場合はきちんとこのことを全体で確認し、どの子も安心して持久走に取り組めるようにしていけることが大切です。
その他、服装の確認、持ち物(筆記具、タオルなど)の確認、開始時刻を守ることなど、持久走の単元前に確認するとよいでしょう。私は、寒い時期の体育では、上下学校指定の長袖を着ているのであればジャンパーなどの上着を着たり手袋をしたり防寒具の着用を許可していました。寒い時期は防寒着を着て運動を始め、体が温まってきたら脱いでいくことで事故を少なくすることができるからです。体育主任をしていることが多かったので、このルールは学校全体に広げました。
準備運動
普段体育で行っている準備運動に加え、アキレス腱、足首など持久走でよく使う体の部分をほぐす運動を補っていきます。そのときに、「持久走でよく使うところだからよく伸ばしておこうね」と子供たちに伝えてから行うと、子供たちが大人になって自分でスポーツをするときにこのことを思い出すかもしれません。
準備運動が終わり、いよいよ持久走です。
他の種目と組み合わせて、体を温める意味で先に持久走をするのであれば、急激に負荷がかからないよう軽めの内容を工夫する必要があります。
持久走を1時間かけて行う場合でも、すぐに競走というような急激な負荷のかけ方はおすすめできません。鬼ごっこをしたり軽くランニングをしたりして十分体が温まってから本時の持久走に入っていくようにします。
高学年の場合は、学級全体ではなくグループでの準備運動にチャレンジさせてもよいと思います。1人ずつ順番に好きな準備運動をしていき、それを周りの人がまねをするというまねっこ準備運動は子供たちに人気があります。誰かが行った準備運動と同じことはしないことがルールです。
また、1人で準備運動をする経験もさせるとよいでしょう。「自分だけの準備運動」をもっていると、学校を離れ自分1人でマラソン大会や地域のスポーツ大会に出たときなどに大変役立ちます。
発達段階に合わせた持久走
発達段階に合わせた持久走というと、低学年は短い距離・時間、高学年にいくにしたがって長い距離・時間といった体力的な発達段階を想像する方が多いと思います。確かに、現行の学習指導要領では無理のない速さで低学年では2~3分、中学年では3~4分、高学年では5~6分程度の持久走と示されており、発達段階に合わせて時間が長くなっています。
ただ、発達段階に合わせたというのは、それだけではありません。
子供たちの持久走に対する苦手意識をなくすために、精神的な発達段階に合わせた指導が必要になってきます。発達段階の特性に合わせ内容を工夫していくことで、子供たちが持久走に対して苦手意識をもつことなく意欲的に取り組んでいくことができます。
以下その実践例を紹介します。
発達段階の特性に合わせた「低学年の指導例」
低学年の時期は、ゲーム的要素を強くすることで、気が付いたら長い距離・時間を走っていたという授業を仕組んでいきます。じゃんけんの要素を取り入れたりチーム対抗戦にしたり、とにかく「おもしろい」と思わせることで持久走と感じさせず走らせることが大切です。「先生、また、あのゲームやって!」と子供に言わせたらしめたものです。低学年の子供たちは、熱しやすく冷めやすい特徴をもっています。そのため、毎回同じパターンのゲームではなくバリエーションを増やしておきましょう。
○ついてけマラソン
1 5~6人グループをつくり、1列に並ぶ。
2 先頭は、自分が走りたいところを走る。
3 教師は30秒ごとに笛を吹き、その合図で先頭は一番後ろにいき、2番目の子が先頭を走る。この繰り返し。
指導ポイント
・先頭は、滑り台を滑ったりタイヤを跳んだりしてもOK。
・先頭は、必ず全員が離れない速さで走ること。これをきちんと言わないと大変速いスピードで走る子供が出てきてしまう。
・危険なところ、教師が目の届かないところには行かないようあらかじめ子供に伝える。
○じゃんけんマラソン
1 2つのチーム(A、B)に分かれる。Aチームはトラックの周りをじゃんけんしながら走る。Bチームは、アイウエのポイントに分かれて立ち、走ってきたAチームの人とじゃんけんをする。
2 Aチームは、ア→イ→ウ→エの順番でトラックを走る。
3 Aチームはじゃんけんに勝ったら次に進める。負けたら1つ前の場所に戻る。1周できたら赤玉をゲットし再スタート(赤玉の代わりに帽子の色を変えるなどでもOK)。
4 時間は2~3分。赤玉を多くゲットしたチームの勝ち。
1周できたら赤玉ゲット! 歩いたらだめだよ!
指導ポイント
・アイウエでポイントに立っている子供は、じゃんけんに負けたら「ももあげ10回」「スクワット5回」など、体を動かすことで体を冷やさないようにする。
・ゆっくりでもよいから走ることを全体に伝える。
・負けたにもかかわらず、次へ行ってしまう子供が出てくるため、子供たちの動きをよく見て声をかけていく。
・トラックではなく、カラーコーンを4つ置いてその周りを走ってもOK。実態に合わせて距離を調整する。
チャレンジ精神をくすぐる「中学年の指導例」
中学年の子供たちは、好奇心旺盛です。友達と競走したい、何かにチャレンジしたいという思いが大変強くなってきます。その意欲を満たすような内容の授業を仕組んでいきます。リレー形式にしたり自分がどれだけ走れるかにチャレンジしたり、とにかく、「好奇心を満たす」ことで長い距離を走っても「いやだな」という気持ちをもたせないようにしていくことが大切です。ただ、このころから苦手意識をもち始める子供が出てきますので、リレー形式など競走をさせるときには配慮が必要です。
○駅伝
1 5~6人のチームに分かれる。持久走の力ができるだけ同じになるようにチームを編成する。
2 校庭大回りのトラックを1人1周ずつ走り、リレーをする。
指導ポイント
・バトンの代わりにたすきやタオルを使ってもOK。
・校庭にカラーコーンを4か所置き、大回りのトラックを作っておく。
・チームの走力差が大きい場合は、スタートを時間差にする、競走ではなくチームとして4分間でどれだけ走れるかにチャレンジさせるなど、学級の実態に合わせてやり方を工夫する。
○シャトルランリレー
1 シャトルランをリレー形式で行う。チームの人数は子供たちが自分で決める。運動量のことを考えると、人数は多くても4人までが適当である。もちろん2人でもOK。
2 シャトルランを交互に行う。1往復交代、1回交代など、どのタイミングで交代するかは子供に考えさせる。
指導ポイント
・テストではないため、セルフジャッジで行う。あくまで持久走の意欲付けの1つとして、1人では達成できなかった回数を体験できればよい程度に捉える。
・一度失格しても復活することができる。
自分が目指す持久走が選択できる「高学年の指導例」
高学年になると、ある程度自分の走力が分かってきて全力で取り組まなくなってくる子供、体を動かすことに苦手意識をもち始める子供など、持久走に対するモチベーションがかなり低い子供が出てきます。そのため、学級全体で同じ距離・時間を走らせるといった内容ではなく、個人差に応じた内容を工夫していくことが大切です。個人差に応じたとは、自分が目指す持久走を選択できることです。友達と競走をしたい子供、一定の時間で自分が走れる距離を伸ばしていきたい子供、ゆっくりだけど止まらずに長い時間走ってみたい子供など、子供たちの目指す持久走は様々です。そのニーズに応えられるような授業を仕組んでいけば、子供たちは意欲的に取り組んでいきます。
また、高学年は理解力が高まってくる時期です。そこで、持久走のメリットを調べさせてもおもしろいです。自分が今走っている意味が分かり、持久走への意欲が増していきます。
○選択型持久走
1 子供たちは3つのチャレンジコースから自分に合った持久走を選ぶ。
ア ジョギングにチャレンジ
校庭Aコースを6分間歩かず走ることにチャレンジする。
イ タイムにチャレンジ
校庭Bコースを4周(5~6分間程度走れる周回数にする)のタイムにチャレンジする。
ウ 距離にチャレンジ
校庭Cコースを6分間で何周できるかにチャレンジする。
2 全体で一斉にスタートし、6分経ったら笛で合図をする。
3つからどのコースを選ぶか迷うな〜。
指導ポイント
・1時間ごとに違うコースにチャレンジしてもよいこと、友達と話しながら走ってよいことを伝える。
○距離が選べるシャトルラン
1 シャトルランの距離を10m、15m、20mのなかから選び、シャトルランを行う。
自分は15mが一番合っていると思う!
指導ポイント
・テストではないため、セルフジャッジで行う。あくまで持久走の意欲付けの1つとして、これまで達成できなかった回数を体験できればよい程度に捉える。
・一度失格しても復活することができる。違うコースで復活することもOK。
・10mを一番短い距離としたが、この距離だと100回くらいまでは走らなくてもクリアできる。また、200回程度までチャレンジできることを考え、距離をどのくらいにするかは学級の実態によって変えるとよい。
「子供たちの自由度が高い持久走」の実践
子供たちが意欲的に取り組む持久走の1つとして、子供たちの自由度が高い持久走の授業を実践しました。
単元の前に「持久走は心と体にどんないいことがあるか」を調べさせました。
担任していたクラスの子供たちのアンケートでは、あまり人気がなかった持久走ですが、こうして調べていくと心と体にいい点がたくさん見つかりました。調べた子供たちもびっくりしていました。
次に、この単元では、自分で目標を決め自分で練習方法を考えていくことを伝え、どんな練習方法があるのかを調べさせました。
この結果をもとに、自分はどんな持久走を目指し、どんな練習方法を試していくのかを考えさせました。
例えば、「5分間で走ることができる距離を伸ばす」といった課題をもった子供は、どうしたら距離を伸ばすことができるか、人に聞いたり本やインターネットを使って調べたりした情報のなかから、自分に合った練習方法を選択し、実践しました。
目指す方向性が同じ友達同士でグループを組み、グループごとに練習をしました。子供たちは、準備運動後、縄跳びをしたり鬼ごっこをしたりして体を温めてから主運動の持久走にチャレンジするなど、それぞれのグループで考えながら授業を進めていました。
練習方法を考えられないグループのために、ヒントカードも何枚か用意しておきました。
○ヒントカード例
いろいろな練習方法を試すグループ、1つの練習方法を続けタイムや距離の伸びを感じるグループなど様々でしたが、どのグループも試行錯誤しながら自分たちで進めていく楽しさを味わっているようでした。
最後の「チャレンジ大会」の場では、自分たちがどれだけ長い時間歩かずに走れるかにチャレンジしたり、自分の最高タイムにチャレンジしたりするなど、これまでの授業の成果を試しました。
また、チャレンジ大会の運営もすべて子供たちが行いました。
こうした学習のなかで、運動の必要性や行い方を知り、自分に合った体力づくりが自らできるようになるとともに、子供たち自身に自ら走りたいという気持ちをもたせることができました。
以下、この授業の指導案です。
「5年 体つくり運動 持久走の実践」指導案
1 本単元の指導観
持久走は、子供たちにとって「つらい」「苦しい」など、マイナスのイメージが強く敬遠される傾向にある。これは、長い距離を走ること自体に子供たちが苦痛を感じることが要因となっている。また、教師が「マラソン大会」「持久走大会」などの学校行事との関係で、過度の競走に子供たちを追い込んだり、体力を高めるために必要以上の負荷がかかった指導を行ったりしてきたことも要因の1つとなっている。
学習指導要領の昭和52年の改訂で持久走は、自己記録の短縮や競走の楽しさを味わうことがねらいとされている陸上運動領域から、体力の向上を直接の目的として一定のねらいをもった動き(長く走り続けること)に主眼を置く体操領域に位置付けられた。
現行の学習指導要領では、全学年の体つくり運動に位置付けられており、高学年では「体力を高める運動」の1つとして、動きを持続する能力を高めることに主眼を置きながらの5~6分程度の持久走と示されている。これは、体力の必要性や体力を高めるための運動の行い方を理解し、自己の体力に応じて体力づくりが実践できることをねらいとしている。
しかし、実際には、記録の短縮や競走することをめあてとした授業が今も行われていることが多い。前述したような子供を過度の競走に追い込む教師の指導が、学習指導要領が改訂された今でも依然として続けられているからである。これは、持久走の好き嫌いの2極化を生み出すことにつながる。体育科の目標に掲げられている「生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を培う」という観点から考えると、一時の記録の短縮や体力の高まりを過度に目指すあまり、持久走嫌いな子を増やすことは小学生段階では避けるべきであると考える。
そこで、本単元では、子供が持久走の必要性を理解し自ら走ろうとする意欲を高める活動を教師が工夫したり、生涯学習につながるような学習方法を身に付けることができるような指導計画を工夫したりしていきたい。
2 子供の実態
本学級の子供たちは、4年生までの持久走の授業で「4分間で走れる距離にチャレンジする4分間走」「長い距離をリレー形式で走る駅伝」「グループで無理のない速さで走るついてけマラソン」などを経験してきている。
事前のアンケートでは、体育を好きな子どもが94%(37名中35名)であるのに対し、持久走を好きな子どもは62%(37名中23名)と、持久走への関心・意欲は低いことが分かる。
持久走を好きな理由としては、「気持ちがいい」が一番多く、全体の半数を占めている。それ以外は、「体力がつく」「自分のペースで走ることが楽しい」「友達と競走することが楽しい」「自分の記録が上がることがうれしい」など、多岐に分かれた。持久走を嫌いな理由としては、「疲れる」が一番多く、次いで「走るのが遅い」「苦手」「つらい」の順になっており、持久走に対してマイナスイメージが強い。
授業前のレディネステストでは、17mの折り返し走を5分間行い、その回数を調べた。持久走を「好き」と答えている子供たちの平均は49.2回(約836m)であるのに対し、「嫌い」と答えている子供たちの平均は45.6回(約775m)であった。しかし、記録が上位であっても嫌いと答えている子供たちや記録が下位であっても好きと答えている子供たちもいる。前者は、嫌いな理由として「疲れる」を挙げている。後者は好きな理由として「自分のペースで走ることが楽しい」「体力がつく」を挙げており、単純に記録の良し悪しで持久走の好き嫌いが決まるわけではないことが分かった。
「自分がチャレンジしたいことは?」の問いには、「友達と競走する(8名)」「走る距離を伸ばす(8人)」「同じペースで走る(6人)」「長い距離を自分のペースで走る(13名)」と4つに分かれた。大きく分けると、「記録の向上・競走を目指すグループ」と「自分のペースで走りたいグループ」の2つになる。この2つのグループと持久走の好き嫌いはあまり関係性がなく、どちらのグループにも好きな子供と嫌いな子供が半数ずついる。
これらのことから、友達との競走や自己記録の短縮を好む子供から、自分のペースで長く走ることを好む子供まで、それぞれの子供によって目指すものが違い、その欲求を充足させるかどうかが持久走の好き嫌いにつながるのではないかと予想される。
そこで、本単元では、子供たちの思いを生かしながら、自分に合った方法で走ることができるよう授業を進めていきたい。
3 指導の構え
上記のことを踏まえ、本単元では、子供が自ら走りたいという気持ちを高める授業を展開していく。そのためには、子供が主体となって活動を創り出していく授業を目指していきたい。そこで、次の3点に重点を置いて指導に当たっていく。
1つ目は、持久走の必要性が理解できる活動を設定することである。持久走の必要性を理解することは、大人になっても走ろうとする態度を培う素地になると考える。また、今まで持久走に受け身だった子供たちのマイナスイメージを少しでも取り除ければと考える。具体的には、単元が始まる前に「持久走は、どんな心と体によいことがあるだろう」という課題を出し、それぞれ調べる活動を設定する。その調べをもとに、1時間目のオリエンテーションで発表する場をつくり、全員で持久走の必要性を確認していく。2時間目より実際に自分で走ってみてその必要性を実感として理解できるようにしていきたい。
2つ目は、個人の思いを生かすことができる授業形態を工夫することである。前述のように、子供たちによってチャレンジしたいことが違っている。この思いを生かすことができれば、自ら走りたいという気持ちを高めることができると考える。そこで、全員で記録の向上を目指すといった一斉授業の形態ではなく、自分がチャレンジしたい課題ごとにグループをつくり、それぞれのグループで達成目標を決め練習していく、グループ課題達成型の形態で授業を進めていきたい。これは、後述する研究内容(2)のアと関連する。
3つ目は、子供が自ら調べ、解決していく活動を取り入れた指導計画を工夫することである。自分で調べ解決していくことで、持久走の授業を「自分たちの力で創っているんだ」という気持ちをもたせ、自ら走りたいという意欲を高めたい。これは、後述する研究内容(1)と関連する。
4 研究内容との関連
(1)自分で体育の学び方を見付けることができる学習展開
ア 実験体育の提案と実践
持久走が今まで子供たちにとって受け身的な教材であった背景には、場や活動、課題をあらかじめ教師が設定してきたこと、ボール運動や器械運動等の他領域に比べ、子供たちが作戦を考えたりポイントを発見したりする活動が難しいことが挙げられる。例えば、教師が設定した「5分間でどれだけ走ることができるか」という課題について、子供たちがひたすら毎時間走る授業であったり、「決められたペースで走る」という課題について、子供たちがゲーム感覚でペースを当てる授業であったりすることが多い。そうした授業のなかで、体つくりの目標である「体力の必要性や体力を高めるための運動の行い方を理解し、自分の体力に応じて体力つくりが実践できること」を達成することは難しいと考える。
そこで、本単元では、自分で課題をつくり練習方法を調べたり考えたりしながら、実際に走って試すといった実験型の学習方法で実践していく。具体的には、はじめに、持久走の必要性を調べる。その必要性を理解した上で、自分の課題をつくる。さらに、その課題を達成するためにはどのような練習方法があるのか調べ、試してみる。
例えば、「5分間で走ることができる距離を伸ばす」といった課題をもった子どもは、どうしたら距離を伸ばすことができるか、人に聞いたり本やインターネットを使って調べたりする。その多くの情報のなかから、自分に合った練習方法を選択し実践していく。そして、最後に「チャレンジ大会」の場で、その成果を試し、結果を確かめる。こうした実験型の学習のなかで、運動の必要性や行い方を知り、自分に合った体力づくりが自らできるようになるとともに、子供たち自身に自ら走りたいという気持ちをもたせることができると考える。
(2)仲間との一体感が高まる学習活動
ア グループ競争型とグループ達成型の有効的な活用
持久走は、個人の走るペースが違うため、個人で課題達成を目指し、それぞれが取り組んでいくことが多い。そうした授業では、自分で苦しくなったらペースを落としたり全力で取り組まなくても友達に影響を与えたりすることはない。また、友達と走る楽しさや課題を達成する喜びを共有する場面も少ない。そのため、積極的に取り組む子供とそうでない子供との2極化が生まれる。
そこで、本単元では、グループ達成型を活用することによって、友達と走る楽しさや課題を達成する喜びを共有できる場面を増やしていきたいと考えた。具体的には、持久走で「自分がチャレンジしてみたい」課題を決める。その課題ごとにグループを組み、グループの達成課題を決める。その課題を達成するために練習方法を考え、グループで練習に取り組んでいく。例えば、「同じペースで走りたい」という課題をもった子供たちが集まり、グループを組む。グループ全員で「1周1分のペースで5周続ける」というグループの達成課題を決め、そのペースで走れるような練習方法を話し合ったりアドバイスをし合ったりする。そして、チャレンジ大会でそのペースにチャレンジし、互いを励まし合ったり応援し合ったりする。こうしたなかで、子供たちは、1人で走っているときには得られなかった仲間との一体感を感じることができると考える。
5 単元の目標
⑴ 課題達成に向け、自分から進んで持久走の必要性や練習方法を調べたり、学習したことを振り返ったりしようとしている。また、友達と協力したり励まし合ったりしながら、場の安全に気を付け練習や大会に取り組もうとしている(運動への関心・意欲・態度)。
⑵ 自分の体力に応じた課題を設定したり、課題を達成するための練習方法を調べ適切な練習方法を選択したりしている(運動に関する思考・判断)。
⑶ 自分に合った速さで5~10分程度の持久走をすることができる(運動の技能)。
6 題材の評価計画
7 本時の指導
(1) 題材名 「持久走チャレンジ大会でグループの課題を達成しよう!」
(2)目 標
○チャレンジ大会の結果をもとに、自分の課題達成についてこれまでの学習と結び付けて考えている(運動に関する思考・判断)。
(3)授業の観点
○全体提案の「学びの楽しさを自ら求めていく授業を創る」を受け、「自分で体育の学び方を見つけることができる学習展開」を工夫しようと実験型体育を実践してきた。単元の終末に当たる本時では、これまで単元で学習したことを整理することによって、自分で方法を考え練習してきたこと、課題達成に向けてグループで協力してきたことに対しての達成感をもたせたいと考えた。
そこで、グループで課題にチャレンジする「持久走チャレンジ大会」を設定することによって、その結果をもとにこれまでの学習を振り返ることができるようにしたが、この手立ては達成感をもたせる上で有効であったか。
(4)展開(晴天時)
(4) 展開(雨天時)
○自分で練習方法を調べるカード
構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ