菊池省三の教師力UP道場:10秒間で子どもをつかむ方法とは
菊池省三先生が伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生となって、「生きた授業技術」を伝授してくれるお話の第3回。 今回は、最初の10秒間で子どもをぐっとつかむ構成力についての講義です。「スリルとサスペンス劇場」のような始まりの授業とは、どんなものなのでしょうか。
監修/菊池省三
きくち・しょうぞう。959年愛知県生まれ。2014年度まで福岡県北九州市の小学校教諭を務め、退職。現在、教育実践研究サークル「菊池道場」主催、高知県いの町教育特使、教育実践研究家。『菊池省三の学級づくり方程式』(小学館)ほか著書多数。
目次
「スモールステップで学ぶ 授業ライブ力」とは!?
みなさんは、今の授業に満足していますか?
大学や初任者研修などで学んだ教育技術だけでは不十分だと感じたことはありませんか?
もっと子どもたちを引きつける充実した授業をつくりたいと思いませんか?
ラビ子、ツネ夫、タヌ吉の3人、いえ3匹も、そんな思いをもっている教師のタマゴたちです。
この連載は、3匹が「森の大学」の伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生のもとで、大学では学びきれなかった「生きた授業技術」を悪戦苦闘しながら学んでいくお話です。
スリルとサスペンス
ライブ力=(事前準備+教室の空気を読む力+子供を引き出す力)× 教師の人間性
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
あ〜〜っ!!
ショーゾー先生、いきなりどうしたんですか!?
……という間に1か月が経ってしまったのう。さあ、今回も元気に「授業ライブ力」の特別講義を始めるぞい。
何だよ〜、寝ぼけてるのかと思っちゃったよ。
前回でも予告したが、今回の講義のテーマは、「最初の10 秒間で子どもをぐっとつかむ構成力」じゃ。みんなも考えてきたかの?
あ〜〜っ!!
何だ、何だ。ラビ子まで。
ショーゾー先生がいきなり叫んだのも、みんなをぐっとつかむ1つですね!
ふむふむ、まあそうじゃの。いつもの始業が「起立、礼」の号令をかけるおきまりの「水戸黄門」のドラマだとしたら、これから教えるのは、本題にいきなり入る「スリルとサスペンス劇場」のような始まりということじゃ。
何だか、ドキドキしちゃうなあ。
むほほ。それでは、さっそくつかみ方の基本を2つ、伝授いたそう。
- その時間の資料となる写真や物を提示して尋ねる。
突然、写真や物を授業開始と同時に示し、「これは何でしょうか?」と尋ねてみる。パッと見て少し考えればほとんどの子がわかるようなものがいいかのう。この問いかけは、どの子も参加でき、全員が集中して「わかった! よーし、この1時間、頑張るぞ!」と思えるようにするのがねらいじゃ。
それでも、なかなか手があがらない子へは、その子の近くに行き、ユーモアも含めながら、「今はわからないけれど、友だちに教えてもらって、早くわかるようになりたいと思う? このクラスのみんなはやさしいから教えてくれるだろうと信じている?」と尋ねたり、「3択問題。1番○○。2番○○。3番○○。さあどれでしょう?」 と尋ねてみるんじゃ。
3択問題では、必ず笑える「答え」を用意し、当たるようにしておくことが大切じゃぞ。問題を出す前に、「クマ太がこの3択問題で当たったら、拍手をしてあげよう」と、みんなの両手を前に出させて拍手の用意をしておけば、当たったら大きな拍手が起こるじゃろう。
そこでクマ太と握手をしながら、「さすがだなあ。わかっているんだったら最初から手をあげてね」などと言ってほめるんじゃ。
へー、その気にさせられちゃうわね!
そうじゃろう。写真や物じゃなくても、言葉1つでも同じことができるんじゃ。
- その時間のキーワードになる言葉を板書し、読み方を問う。
たとえば、「ディベート」について学ぶ授業の場合、チャイムが鳴ったら、教師は黙って「ディベート」と書き、
・「意味がわかる人?」
・「聞いたことがある人?」
と尋ねてみる。聞いた後に、子どもたちの中に入っていきながら、
・「意味がわかる人はビシッとした姿勢をしなさい」
・「これが四年生の最高だ、という姿勢をしなさい」
・「この時間も頭の中に汗をかくぐらいがんばるぞ、という顔をしなさい」
などと声をかけ、さらにやる気が出るようにさせると、なおいいのう。もちろん、やらせっ放しではなく、「すばらしい!」と拍手や握手、頭をなでながらほめることも忘れずにの。
さらに、「日本の小学生はほとんどができるらしいが、みんなも同じようにできるようになりたいと思う人?」などと尋ねてみるのもいいぞい。
もし手があがらなければ、その子に近づいていき、「じゃあ、手をあげていない人、起立。きみたちは、多くの小学生以上にできるようになりたいという人だね。やる気があってすばらしい!」と「以上」を強調して、より子どもたちをあおる方法もあるぞい。
何だかうまく乗せられちゃってる感じだなあ。タヌ吉なんて、すぐに乗せられちゃいそうだよ。
そ、そんなことないやい!
でも、やる気が出て、いい気持ちに乗せられるのならいいよね!
そうじゃろう。今あげたような基本のやり方を工夫すれば、多くの子どもは授業に参加してくるんじゃ。
それでも、タヌ吉みたいにぼーっとしてる子がいたらどうするんですか?
ツネ夫みたいに、そっぽを向いている子だっているぞっ!
ふむ。その場合はさらに「スリルとサスペンス」じゃ。基本を尋ねる前に、突然ある子を指して「やる気ある?」と問いかけてみるんじゃ。聞かれたクマ太は ドッキリ。クラスみんなもビックリじゃ。
迷っていたら、「1番は『やる気がある』。2番は、『やる気もなくて私はすたこらさっさと逃げていく情けないクマです』(笑)。さあ、クマ太はどっちだ?」と、たたみかけるように問いかけると……。当然クマ太は1 番と答えるじゃろう。
さらに、クラス全体を見ながら、「じゃあ、クマ太のように『自分もやる気がある』という人は手をビシッとあげて」と問いかけると、みんなの手がビシッとあがるじゃろう。
「さすが、目にも姿勢にもやる気が出ている。1時間でもっと賢くなるね。先生も気合いが入ってきたよ」などとほめてから、基本に入ればいいんじゃよ。
なーるほど。
このような方法でスタートし、授業の本題に入っていくときには、しっかりとほめて、「先生もがんばる」「みんなもがんばる」「だからいい1時間の勉強にしよう」ということを、教師がしっかりと端的に話すことが大切なんじゃ。
(しっかりとうなずく)
君たちも気合いが入ってきたようじゃの。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
しかし、今日の講義はこれでおしまいじゃ。もう力を抜いていいぞい。
もう、せっかくやる気が出てきたのにぃ〜!!!
構成:関原美和 イラスト:柴田亜樹子
「小四教育技術」2007年9月号~2009年3月号に掲載した記事を再録