リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #11 なにが見える?|中島征一郎先生(NPO法人 Grow Up)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第11回は、いじめ問題の専門家・中島征一郎さんにご執筆いただきました。

執筆/NPO法人 Grow Up 理事長・中島征一郎
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1.はじめに

みなさん、はじめまして。
このリレー連載のお話をいただいた時は、光栄でしたがとても驚きました。

肩書きの通り、私は教員ではありませんし、教員経験もありません。私は、個人でカウンセリングやコーチング、講座や研修とプロの講師をしています。
また、いじめをなくすことを目的として仲間と共に立ち上げた8期目となるNPO法人 Grow Upでは理事長をさせていただき、外部講師として授業や親子活動、職員研修の講師として活動しています。

今年度からいじめをなくすために、子供たちの相互理解を深める道徳授業について、教材文や指導案等を作成し、実際に先生方に授業していただいています。
相互理解を深めるために必要なのは、心理的な知識です。子供たちは、学校だけでなく保育園や幼稚園、家庭でも善悪を学んできています。ですが、どうすれば相手の立場に立って考えられるか、を教わっている子は多くありません。
そのため、些細なトラブルを主体的に解決する事ができず、そのトラブルが大きないじめへとつながってしまっていると考えています。

その知識を今回の内容にも盛り込んでいますので、他の先生方とは異なる部分が多いと思いますが、授業づくりや学級経営の新たな着想の一助となれば嬉しいです。

授業の内容については最後に説明しますので、まずは実際に授業を受けているようにお読みください。

2.「一枚画像道徳」の実践例

海と太陽の写真
(筆者撮影)

発問1 これは海と太陽の写真ですが、いつ頃だと思いますか?

夕方

「夕方」と答える子供たちが多いと思います。
実際に朝日を見た経験がある子供は「朝」と答えるかもしれません。

「なるほど、どうしてそう思うか理由も言えますか?」
「違う考えの人はいますか?」

と子供たちの考えを引き出します。

海に日が沈んでいるから
空が赤いから
空が青いから
実際に見たことがあるから
本で読んだから
そうだそうだ
違うよ

実際には、引き出す必要がなく話せる子供もいるでしょう。二択の問いですから、一方の意見が多くなったら思考を深めるために少数派の意見を取り上げるのも良いですね。

ある程度意見が出たところで、次の問いに進みます。

発問2 同じ写真を見ているのに、なぜ違う意見が出たと思いますか?

「え??」と教室は静かになると思います。

子供たちが考えたことのない質問ですから、首を傾げたり周りを見たりする等の深く考えている仕草を見せるでしょう。声かけは、子供たちから声があがるまで、もしくは子供たちからアイコンタクトしてくるまで待ってください。

だって太陽は海から昇る(沈む)に決まっている。
そう思ったから……。
経験したから……。

普段より自信がないように意見を言う子が多いと思います。一人の意見をきっかけに、同じ意見や違う意見を引き出して、まとめます。

「そうだね、同じものを見ていても、人は知識や経験により捉え方が違うんだよ。」
「だから、誰かと話していて話が合わない時は、お互いが見えているものが違うかもしれないね。」

と解説します。

「この写真以外にも、どんなことがあると思う?」
「今日は、同じものを見ているのに、捉え方が違うものには何があるか? 探してみようか。」

と促すと、学んだ知識を活用できるようになります。
まとめが終わった後に、子供たちが知りたい事を話します。

「この写真は、新潟県で撮影した夕日です。」

当たった! 外れた! との声が湧き上がる中で、続けます。

「でも、この写真は加工されています。元々は全て朱色だったのですが、上の部分を青く塗っています。」
「写真は加工されているかもしれない、と思わないと気付けないよね。」

えー! マジかー! との声が上がって、終わりになります。

(加工前画像 筆者撮影)

3.「一枚画像道徳」授業の解説と展開

対象:小学校高学年
主題名:なにが見える?
内容項目:B-11 相互理解、寛容

今回は、人の特性の一つである「見えているものの捉え方は、人により異なる」を実感し、日常に生かすための授業を考えました。
この内容は、写真は違いますが、私が実際に講座や研修で大人の方々に行っているワークです。

発問1で主体的で対話的な学びを促し、発問2で深い学びへと誘います。言葉だけで伝えるよりも、実感した方が学びが深まるのは、大人も子供も同じです。

写真を加工したのは、朝日か夕日か、子供たちに悩み考えてほしかったからです。
元の写真のままですと、「夕日!」と答える子ばかりでしょうから、空を青くし情報量を増やすことで、子供たちが考える余地を作りました。
その写真の加工について最後に子供たちに伝えることで、自分以外だけでなく、自分自身の中にも思い込みがあることを実感します。驚きを伴ったAha体験(「わかった!」と、未知の物事を突然理解できる体験。ひらめき体験。ドイツの心理学者による用語)が、深く記憶に残るきっかけとなります。

新しい考えを学び身に付けるには、今の自分の価値観をアップデートする必要があり、そのために今の自分を知り自分以外の価値観を知ることが大切です。

人は、知識だけでは変容しません。実感するだけでも不足しています。その知識を日常で活用してこその変容です。
道徳の授業で学んだことを授業内だけに留めるのではなく、いじめをなくすためにも日常で活用してもらえると嬉しいです。授業で行うことで学級での共通言語になりますから、トラブル時はもちろん学活等でも、「Aさんの主張は朝日で、Bさんの主張は夕日ってこと?」「この前の太陽と海で考えると、どうかな?」と子供たちに伝えるときの比喩として用いることで、感情的になることを抑制することもできます。

今回の授業は対象を高学年としましたが、中学年や低学年でも可能だと思います。

道徳や特活だけでなく、国語の授業時に行うのもよいと思います。
登場人物の心情に寄り添うきっかけとして、事前に本内容を行うことで、子供たちはよりスムーズに登場人物の視点を切り替える事ができるでしょう。

4.おわりに

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今までも学会で発表させていただいたり、指導案の作成を行ってきたりしましたが、今回の内容は初めてで、熟慮を重ねました。道徳授業と合っていない部分もあると思いますが、教員ではないからこそできた内容だと思います。

「いじめをなくすために相互理解を深める」ために、この内容をそのままでも、アレンジしていただいても、実際に子供たちに授業していただければこれに勝る喜びはありません。

これからもいじめをなくすための活動をしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

今後の連載予定
第12回 長谷泰昌(北海道鶴居村立幌呂中学校教諭)
第13回 工藤美希(北海道函館市立臼尻中学校教諭)
第14回 藤倉稔(北海道下川町立下川中学校教諭)
第15回 佐々木嘉彦(山形県酒田市立松原小学校教諭)
第16回 三浦将大(北海道函館市立大森浜小学校教諭)
第17回 倉内貞之(青森県五所川原市立栄小学校教諭)
第18回 古舘良純(岩手県花巻市立若葉小学校教諭)
第19回 有田雪花(神奈川県海老名市立中新田小学校教諭)
第20回 木村麻美(弘前大学教育学部附属小学校教諭)
第21回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

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第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で

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