卒業へのカウントダウン! 目指そう、卒業式への自主的参加を【6年3組学級経営物語21】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「卒業へのカウントダウン」にトライします。

最高の卒業を目指す、子どもたちの主体的な活動―その適切な指導は、子どもたちの発想を生かしてよりよい方向に導くこと。カウントダウンカレンダーを活かして、見通しを立てて計画的に様々な自主的活動に取り組んでいきましょう。さあ、「卒業へのカウントダウン」にレッツ トライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

2月① 「卒業へのカウントダウン」にレッツトライだ!

<登場人物>

渡来先生

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。


高杉先生

しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


鬼塚先生

オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。


ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職5年目。2年担任。2年後輩のトライ先生を励ましつつも一歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。


イワオジ先生(大河内巌/おおこうちいわお)
教職20余年の経験豊富な教務主任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。


カウントダウン始まる

カウントダウンカレンダーを作成する6年3組

「カウントダウンか、遂に卒業モードに突入ね」

用務で教室に入ってきた葵ゆめ先生が、作業中の子どもたちに声をかけました。1月下旬、カウントダウンカレンダー作りを始めた6年3組。作業を止めて、ハジメが葵先生に応じます。・・・ポイント1

「残りの登校日数と学級の人数が同じになる日から、カウントダウンを始めよう。みんなでそう決めて、作り出したんですよ。その目的は…」

「残された時間の中で、最高の思い出をつくろう。その思いを込め、一人一枚分担して描くの」

笑顔で説明するマリに、感傷的になる葵先生。子どもたちを見守る渡来勉先生に声をかけます。

「最高の卒業になるわ。羨ましいな、渡来先生が」

「元担任の葵先生に褒められると、感無量です」

感動の涙が滲む渡来先生に、意見をするヒデ。

「泣くの早過ぎ…、まだカウントダウン前だよ」

涙を拭う渡来先生。用件を伝えようと近づいた葵先生が、話の最後に寂しそうに呟きました。

「でも6年生だけじゃない、…かもしれない。…終わるのは。知っている、大河内先生の噂?」

その言葉にギクリとする渡来先生。問い返そうとした時、子どもたちから声がかかりました。

「カウントダウンの最後は、先生の担当だからね」

「感動させてね!」

応じている間に、葵先生の姿が消えていました。噂を確かめることが、できませんでした。

ポイント1 【カウントダウンカレンダー】
行事等が終わりに向かう時、カウントダウンカレンダーがよく作られます。そこでは、見通しを持ち、計画を立てて進める力を育てるチャンスだと、教師は自覚しなければなりません。具体的にはゴールから逆算した作業予定の作成、スモールステップの取り組みの立案、実践等を円滑に行うための効果的な支援が必要です。これらが上手く機能すれば、子どもたちの主体的な活動を促進する有効なツールになるでしょう。

噂の真相は…

数日後の会議室―「6年を送る会」の打ち合わせが終わった後、渡来先生は大河内巌先生に噂について尋ねてみました。じっと聞いていた大河内先生は、暫く考えた後で語り始めました。

「伝えなかったが噂は本当だ。今年度末に転勤を希望する。その様に、校長先生にお伝えした」

混乱する思いを、恩師にぶつける渡来先生。

「でも先生にご指導いただかなければ、我々は…」

「本校の未来は、君たちで築くんだ。君たちに負けないよう、私も夢や希望に溢れた学校づくりを目指す。…新しい学校で、一担任としてな」

動揺する渡来先生に、優しく語る大河内先生。

「君は、この三年間で大きく成長した。高杉先生、鬼塚先生、望月先生。それに神崎先生や若手、君が育ててくれた最上先生もいる。この新しいチーム学校に、私はバトンを渡すつもりだ」

「まだまだたくさんあります、教わりたいことが…」

最後の言葉が、渡来先生に告げられました、

「互いが目指す有終の美。その実現を目指して、最後まで全力を尽くそう。…それが私の思いだ」

そう言いきると、大河内先生は渡来先生からゆっくりと離れていきました。卒業だけでなく、教職に就いて以来の心の拠り所だった大河内先生との別れ。--堪えきれない心の痛みを抱え、渡来先生もフラフラと歩き始めました。

大河内先生の”思い”

翌日、顔色の良くない渡来先生を心配する鬼塚先生。その心遣いに、渡来先生は、昨日の出来事を全て打ち明けてしまいました。

「噂は聞いていたが、…やはり本当だったのか」

呟く鬼塚学先生に、無言で頷く渡来先生。圧し掛かる静寂を、高杉静先生がはね退けました。

「バトンを我々に渡す、…そう決意されたんだ」

その意味が理解できずに、ポカンとする2人。

「5年主任になった頃、聞かせていただいた。本校に赴任されてからの、大河内先生の心の内を…」

遠くを見つめ、記憶の封印を解き始めました。

「昔の本校には、学級の荒れやイジメが蔓延。大河内先生は孤軍奮闘、他学年の課題にも進んで取り組まれた。しかし、よりよい学校は築けなかった。先生は悩まれ…、そして決断された」

言葉もない2人に、熱く語り続ける高杉先生。

「教職員集団の育成だ。改善に尽力されていた当時の学校長に全面協力し、人材育成に邁進。誰一人不幸にしないと誓い、御自身の在校期間中に成し遂げる計画を立て、実践されてきた」

考え込む渡来先生と、不思議そうな鬼塚先生。

「初耳だ、そんな話。どうして話してくれなかったんだ、大河内先生や前からいた先生たちは」

「子どもたちが幸せに過ごせる学校づくりが喫緊の課題だ。過去の経緯等に拘る暇はない…、と先生はよく言われていたそうだ」

その言葉が、渡来先生の心に刺さりました。

カウントダウンの意義

「考え直しました。…カウントダウンの意義を」

数日後の朝。出勤してきたばかりの高杉先生に、職員室で待っていた渡来先生が伝えました。

「子どもたちの自主的活動に、舞い上がっていただけです。6年をさらに育む指導…、その必要性に気付けませんでした。大河内先生が取り組まれた人材育成計画のように、カウントダウンカレンダーの有効活用を進めていきます!」

荷物を置いて、渡来先生の話に頷く高杉先生。

「子どもの発想を生かし、より良い方向に導く。それが最高の卒業だと、オレもやっと気づけた」・・・ポイント2

出勤してきた鬼塚先生が、話に加わります。素直に頷く渡来先生に、問いかける高杉先生。

「で、具体案は。卒業までの指導についての…」

メモ帳を出して、渡来先生が説明を始めます。

「学年は、卒業行事等を実行委員会形式で実践。よく行われる活動ですが、我々は子どもたちの主体性重視でいきます。学級は、…3組はカウントダウンカレンダーを活用し、子どもたちの自主的活動を効果的に支援する工夫をします」

「1組も始めたぞカウントダウン。…影響だな」

「その動きは2組には無い。だからオレがリードする。自主的活動は、無理に揃えなくていい」・・・ポイント3

頷いた高杉先生が、2人に決意を告げました。

「さあ、学年で始めよう。カウントダウンを!」

ポイント2【最高の卒業とは】
卒業関連行事の指導では、子ども達の主体的な参加意欲を低下させることが少なくありません。私も苦い経験があります。儀式的な事柄の教え込み指導、時間の制約等の様々な課題はありますが、まずは子どもたちが納得して参加できるよう話し合う必要があります。そして子どもたちの発想を生かし、より良い成果が得られるよう導く指導姿勢が重要です。それが主体的な参加態度を育て、最高の卒業を実現するために不可欠、と私は考えます。

ポイント3【各学級の自主的活動と学年との関わり】
「何事も学年で揃えよう」という発想は大切です。しかし、子どもたちの自主的活動は揃える必要はありません。各学級により活動内容が異なることもある―「学級自治」を認める弾力的な捉え方が学年経営に無ければ、折角生まれつつある自主的活動の芽を摘み取る結果となります。その様な場合、遠慮せずしっかり説明することが大切です。

最高の卒業へのカウントダウン

「夢を見るから人生は輝く、か。心にしみるな」

教室のカレンダーを眺め、呟く渡来先生。モーツァルトの格言を用いたミホが、微笑みます。

翌日の朝の会、新たな提案をする渡来先生。

「カレンダーは、クラスの宝物。だけど、もう少し工夫したい。最高の卒業に役立てたい…」

「先生、もう少し具体的に説明してください」

ハジメの発言に頷くと、話を始める渡来先生。

「卒業式までに、6年を送る会や茶話会等いろんな行事がある。それらを6年生が自主的に運営していけば、最高の思い出がつくれると考える。それらを実行するには、計画が必要になる」

昨日、学年に語った実行委員会形式を説明する渡来先生。脳裏で大河内先生が過去に尽力された人材育成の話と重なり、体が熱くなります。

「確かに。前の6年は、送る会も茶話会も楽しそうじゃなかった。やる気ゼロ状態が長くて…」

昨年を思い出すタカ、大きく頷く子どもたち。

「あんなのダメだ、楽しい思い出にしようよ!」

ヒデの発言に続き、ハジメが話をまとめます。

「自分たちで卒業行事に取り組む。その計画づくりにカウントダウンカレンダーを活用。…ですよね。僕は賛成だけど、みんなはどうですか」

教室に沸き起こる拍手。それは、最高の卒業へのカウントダウンが始まった瞬間でした。

(次回へ続く)

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