学びの多様性を認める環境をつくる特別支援教育とは
特別支援教育と一言で言っても、とても幅が広く、奥が深いものです。ここでは、学校現場で何ができ、日常の授業でどんなことに配慮をしたらよいか、どんな工夫ができるのかを具体的に考えてみましょう。
執筆/福岡県公立小学校教諭・後藤和歌子
目次
どんなことに配慮すればよい?
①教師の気づき
- 同じことで友達とトラブルになっているな。
- 音読は得意なのに、書くことに強い抵抗があるな。
学校生活における子供の様子から、「あれっ」と気づくことがあります。その「気づき」が何より大切です。
②情報収集
様々な情報をもとに、子供が「どんな場面」で、「どんなこと」に困っているのかを多面的に探ります。
- 特別支援教育コーディネーターの情報
- 校内支援委員会の情報
- 担任やその他の職員の情報
- 保護者の情報
③共通理解
子供に関して収集された情報を、校内支援委員会で整理し、具体的な支援方法について共通理解を図ります。
・場面や相手によって対応が変わってしまうと、子供は戸惑ってしまいます。
・必要に応じて、保護者の了承を得て検査をしたり、専門家に助言を求めたりすることもあります。
④支援
子供たちをつなぎ、一人一人が安心できる「居場所」をつくることが大切です。つい、できないことばかりを意識しがちですが、その子の得意なことは何か、その子の強みは何かを見つけましょう。
その能力に着目した支援の工夫により、子供たちをつなぎ、安心できる居場所となる学級をつくっていきましょう。
⑤気をつけよう!
保護者に話をするときは、「○○障がいかもしれません」という言い方をしないようにします。「○○まではできていますが、△△の部分は苦手なようです」などのように、まず具体的にできていることを示して褒めた上で、気になる点について述べるようにしましょう。
教師は医者ではないので、診断はできません。保護者との意思疎通を図りながら話を進めることが大切です。
授業のユニバーサルデザインを進めてみよう
ユニバーサルデザインの考え方に基づいた授業を行うことも、日常の授業でできる配慮の1つです。
シンプル(焦点化)……何に注目したらよいか、そのための環境づくり
①教室環境の整備
- 教室内の美化や整理整頓
- 教室前面の掲示物は少なめに
②授業の構造化(パターン化)
- 授業ルールの明示
- 活動時間の提示(タイマー等)
- 活動の流れの提示
- 今日の授業のゴールを提示
構造化の具体的場面の例
③教材の工夫
- ワークシートなどの学習プリント作成
- 個別の手立ての準備
ビジュアル(視覚化)……教室で一斉に指導する中で、情報をわかりやすく伝える
①板書の工夫
- 文字の大きさ
- 色チョークの使い分け(基本は白と黄、赤は幅を太く使う)
- ルビを打つ
- 板書量を考慮する
- 板書スピードを考慮する
②聴覚情報の可視化や言語化
- 口頭での説明だけでなく、絵や文章で提示する
- 文字情報を示すだけでなく読み上げる
③教材の工夫
- 口頭指導を減らす(長い文章でなく、指示は端的に)
- 視覚教材の活用
- ICT教材の活用
シェア(共有化)
①安心できる学びの場の設定
- ルールやマナーの明示
- 子供を褒めることから始める
- 子供の発言を生かした授業づくり
②多様な学びの場の設定
- ペア学習や班学習などを取り入れる
- 発表は口頭だけに限定せず、ポスター発表やICTを活用してプレゼンテーションを取り入れる
- 評価の方法も多様にする(口頭試問、実技テストなど)
個別の指導計画
「個別の教育支援計画」等を踏まえ、個々の教育的ニーズに対応した指導内容や指導方法を具体化します。
個別の指導計画を立てることには、次のような有効性があります。
- どのように支援したり対応したりしていくかが明確になる
- 個々の成長の足跡がはっきりと把握できる
- 課題が明確になり、次の手立てが見える
- PDCAのサイクルで着実に個々の力を引き出すことができる
特別支援教育は、一人一人の可能性を引き出し、最大限に伸ばす支援であり、その対象はすべての子供たちとなります。学級の中に「困った子」はいません。「困っている子」にいち早く気づき、その子と保護者に寄り添える心を持った教師でありたいものです。
イラスト/北澤良枝
『教育技術 小五小六』2020年9月号より