「親による虐待がある」と感じたとき、学校・教師ができること

悲しんでいる子供のイメージ

子どもへの虐待による事件が相次ぎ、深刻化している今、虐待やいじめを防止し、子どもを守るために、学校や行政は何をすべきで、教員にはどのような意識をもつことが求められるのでしょう。虐待やいじめの防止に向けた講演や研修を中心に活動している、一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO理事長・島田妙子さんのインタビュー記事をお届けします。

島田妙子

島田妙子(しまだ・たえこ) (一財)児童虐待防止機構オレンジCAPO理事長、(株)イージェット代表取締役会長、兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー、アンガーマネジメントコンサルタント。虐待をはじめ、命、愛、子育て、障害、介護と幅広い内容で、中学生から大学生、保護者、行政職員、教員を対象に講演活動などを行っている。

保護者には感情教育の場を、教員には意識を高める環境を

虐待防止のために学校としてできることは、確実にあります。まずは、保護者に対して感情教育の場をつくること。虐待をしたくてする親はいないはずですから、第三者が客観的な視点から意見を言うことで、暴力・暴言がしてはいけないことだと気づくようにすることが有効です。

当然、保護者に学んでもらうということは、まずは教員が自ら学んで理解し、それをしっかりと実践できていることが前提となります。感情教育に関する教員研修などを活用して、しっかりと時間をかけて取り組むことが必要です。そして、自らが学んできたものを保護者に伝えていただきたいと考えています。

保護者全員がそろう場を設けるというのは難しいことでしょうから、入学式などの場を利用するのがよいかと思います。とはいえ、人間は忘れる生き物ですから、定期的にそういった感情教育の場を設けることが理想です。また、保護者向けに冊子を配ったり、ホームページで発信したりして啓発することも有効だと思いますし、「本校では暴力を許しません」と宣言するだけでも効果はあると思います。

私は教員研修で、最初に「ご自身の精神状態はどうですか」「ご自身の家庭はどうですか」と問いかけます。まずはわが子に普段どういう態度で接しているかを振り返っていただき、必要があれば叱るべきだけれど、決して機嫌で怒ってはいけないということ、さらにアンガーマネジメントを盛り込んで、怒りのメカニズムや、ついカッとなったときの対処法などを伝えます。そして、自身が学んだことを子どもや保護者にも伝えていただきたいと話しています。

また、虐待をしていて「これがわが家のしつけです」と主張するような保護者に対して、教員には「暴力はいけません」と、毅然と立ち向かってほしいです。そして、教員がそうした意識を高めることに自信をもてる環境を、管理職や教育委員会がつくることが望まれます。

子どもを保護することに迷いや罪悪感をもつ必要はない

虐待ではないかと感じたときも、その対処が難しいかと思います。子どもを保護しようと思っても、親子を引き裂いてしまってよいのかと躊躇してしまう場合があるでしょうし、実際にそう悩んでいる方もいらっしゃいます。

私を虐待から救ってくださった担任教員は、危険を感じて私を両親と離して保護してくださいました。今でも非常に感謝しています。ただ、その先生は、自分が親子を引き裂いたことが正しかったのだろうか、それで本当に幸せだったのだろうかと、ずっと悩んでいたそうです。しかし、そのように考えてほしくはありません。

虐待されている子どもを助けるということは、虐待している親を助けることにもなります。子どもを親からいったん離すということは、親が暴力を振るわない環境、暴言をしない状況をつくってあげるということです。子どもにとって親が少しでも尊い存在でいられるようにするためには、一日でも早くその暴力・暴言をする姿を見せないようにすることが大事なのです。

また、虐待された側にも傷は残りますが、私のように「過去を振り返らない」と思考を転換することも可能です。一方で、虐待をしたほうの心にも、癒えることのない傷が残ります。虐待をしていた私の父は、のちに後悔と罪悪感に苛まれ、私に謝罪の電話をした直後に自殺を図りました。

ですから、教員は虐待だとわかったら、迷わずに子どもをいったん安全な場所に保護してください。それは親子の一生の別れを意味するわけではありませんから、罪悪感をもつ必要はありません。私が行う教員研修でも、このように伝えると安心される方が多いです。

虐待の予防に向けて「大人の心を助ける」ことを目的とした講演活動を積極的に行っている島田妙子さん。教員向け、保護者向け、学生・生徒向けの研修や、アンガーマネジメント講座などを実施している。

また、虐待かもしれないと感じたときに、教員が保護する以外に対処法をもたない状態だと、罪悪感が生まれやすくなります。アンガーマネジメントなど何らかの対処法を知っていれば、保護者と対話をして、虐待を止めたり、防いだりするということもできるようになるはずです。

子どもが感情を出せる環境を学校につくることが有効

いじめ防止についていえば、少し乱暴だと感じる子や、何かをしそうだという子に対して、教員がどう関わるかということが重要になります。

「心」というのは目に見えないものですが、命の次に大事であるべきですし、誰もが大事にしたいと思っているはずです。心の器というのは容量が決まっていて、「疲れた」「暑い」といった些細なことでも、その器に負の感情が溜まっていきます。溜まった感情が抜けることもありますが、器に入りきらずにあふれてしまうことがあります。そうなると、普段だったら腹が立たないことでも腹が立つようになるなどして、暴力・暴言につながります。

子どもたちも同じです。いじめというのは、いっぱいいっぱいになった感情を、当たりやすい相手に当たっているだけなのだと考えています。最も身近な存在である親に当たれないと、当たりやすい友人にちょっかいを出すようになり、それが発展していくという構図です。

そこで適切な対処ができるかどうかにも、教員の心の余裕が関わってきます。心の余裕がないと、いじめている子をつい叱りつけてしまうものです。いじめをする子が悪い子だと決めつけるべきではありません。私は、いじめている、あるいはいじめにつながりそうな行動をしている子をとことん褒めることが有効だと考えています。

いじめが行われている場合、いじめられている子のフォローをすることは当然ですが、いじめている子のフォローもしてあげてほしいのです。悪いことをした事実を受け止めて反省させるのと同時に、「何があったの?」「どうしたの?」と優しく話を聞いてあげたうえで、「君が優しい子なのを知っているよ」などと褒めてあげるのです。そうすると、その子は嬉しくなり、溜まった感情が抜けていきます。いじめている子にも必ず事情があるはずですから、話をしっかりと聞いてあげて、心に溜まった膿を出してあげることが必要なのです。

虐待やいじめの防止のために、学校内で手軽にできることとしては、子どもたちが困ったことをいつでも自由に投函できる「何でもポスト」を設置することをおすすめします。暴力やいじめに関することのほか、何でもよいので、校長先生にしか中身を見ることのできないポストを校長室の前に設置し、子どもたちがいつでも気軽に誰かに悩みを打ち明けられる環境をつくるのです。

虐待されたり、いじめられたりしていても、子どもがその事実を自分の口で大人に伝えるというのは、とても勇気のいることです。いじめには、いじめをする子、される子、傍観している子といますが、傍観している子も、担任教員に言いたくてもなかなか言えるものではありません。ですから、そうした環境をつくることで、少しでも大人に言いやすいようにするのです。

いじめをしてしまう子にしても、溜まった感情をどこにもぶつけられずにいっぱいいっぱいになって友だちに当たってしまい、それがいじめに発展してしまうので、感情をぶつけられる場所があるとよいです。そうした場所をつくるという意味でも「何でもポスト」が有効だと思います。

取材・文/藤沢三毅(カラビナ)

『総合教育技術』2019年6月号より

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