夏休みから準備! 低学年算数「教材研究」メソッド
夏休みの間に、教材研究に取り組もうと考えている先生は多いのではないでしょうか。若い先生に向けて、低学年の算数を例にして、教材研究の基礎について解説します。
執筆/富山県公立小学校教諭・前田正秀
目次
身に付けたい力を明確に!
①授業をずばり一言で
物事は、ゴールから考えたほうがうまくいくことが多いものです。授業も同じです。教材研究で最初にすべきことは、子供に「身に付けたい力」を明確に描くことだと思います。その単元や授業で大切なことを、ずばり一言で言えるようになっておくとよいでしょう。
「この単元(授業)で大切にしたいことは○○です。そのために、○○という教材を設け、○○という手立てを講じます」
そんなふうにすっきりと説明できるときは、授業もうまくいくことが多いもの。ゴールの姿が明確だと、子供から予想外の反応が出ても、落ち着いて対応できるからです。
例えば、二年「三角形と四角形」の導入なら、「今日の授業で大切にしたいことは、三角形と四角形の特徴を観察し、言葉で表すことです」といったように、すっきりと説明できるようにしておきましょう。
②具体の姿を思い描く
自分では、子供に「身に付けたい力」を明確にしたつもりで臨んでも、実際に授業をしてみると、曖昧だったことに気付くことがあります。そうならないためには、ゴールの姿を「子供の具体の姿」で思い描いておくことが大切です。
・話合いの中で、子供がどんな発言をすれば、身に付けたい力が付いたと言えるのか
・活動の中で、どんな動きが見られれば、身に付いたと言えるのか
・授業後に、どんな感想を書けば、身に付いたと言えるのか
このように、具体の姿で思い描くのです。例えば、授業後の子供の理想の感想文を自分で書いてみるのも、教材研究の一つです。

③ 領域を貫く考えを踏まえる
算数において、身に付けるべき知識や技能は、明確に決まっています。しかし、その単元で成長させたい「見方・考え方」は、なかなか明確に描くのが難しいものです。明確に描くための手がかりとして、「その領域を貫く基本となる考え方」を参考にするのもよいでしょう。
坪田耕三先生は、著書『算数科 授業づくりの基礎・基本』(東洋館出版社)の中で、次のようにまとめておられます。
【数と計算】の領域…十進位取り記数法の原理
【量と測定】の領域…単位を決めて、そのいくつ分かで数量化する
【図形】の領域…概念の形成過程を体験すること
【数量関係】の領域…きまり発見
現行の学習指導要領とは少し領域が異なりますが、参考になると思います。
例えば、一年「どちらがおおい(体積)」学習であれば、量と測定の領域なので、「単位を決めて、そのいくつ分かで数量化する」が基本となる考え方です。数量化とは、ひらたく言えば、数で表すことです。長さなら1㎝がいくつ分の長さかを調べれば、長さを数で表せます。重さなら1gがいくつ分の重さかを調べれば、数で表せます。
「どちらがおおい」の学習では、クラスの中で共通の容器を決め、そのいくつ分かを数に表せばよいわけです。単位を決める際に大切なのが、そろえるということです。単位となる容器がばらばらだと、比べられません。この単元では、「そろえる」ということがキーワードになることが分かります。
あるいは、二年「三角形と四角形」の学習であれば、図形の領域なので、「図形の概念の形成過程を体験すること」が基本の考え方です。概念とは一般に「比較(比べる)」「抽象(特徴を抜き出す)」「概括(言葉でまとめる)」という過程で形成されると言われます。
まずは、いろいろな形を見比べて、似ている仲間同士に分ける活動が必要になるでしょう。具体的には、三角形と四角形に分けることになります。そして、三角形(あるいは四角形)の仲間に共通していえる特徴を見付け、それを言葉でまとめる活動が必要になるでしょう。三角形なら「3本の直線で囲まれた形」と定義付けることになります。
こうした「比べる」「特徴を抜き出す」「言葉でまとめる」という概念形成の過程は、三年「いろいろな三角形」、四年「垂直・平行と四角形」、六年「対称な図形」などにおいても大切にしていく考えです。
「いろいろな三角形」なら辺の長さ、「垂直・平行と四角形」なら垂直と平行という観点で、形を比べ、特徴を抜き出し、言葉でまとめていきます。
そうした学習の第一歩となるのが、「三角形と四角形」です。子供にとって初めての本格的な図形の学習ですから、概念形成の過程を、かなりていねいに扱わないといけないことが分かります。
④ 先輩の意見などを参考にする
ここまで読まれて、身に付けたい力を明確にするのって大変だなと感じた方もいるかもしれません。確かにこうした教材研究を毎日できるわけではありません。時間がないときには、教師用の教科書に記してある「本時のねらい」を読むだけでもよいでしょう。その際、そこに書かれて いる言葉を子供の具体の姿で捉えるだけでも、大きく授業が変わっていきます。
私は、先輩の先生から、「一番教えたいことを教師が言うのではなく、子供に発見させるようにしなさい」と教わったことがあります。
例えば、「『三角形の意味を知る』って、具体的にどういうこと?」とか、「『図形の感覚を豊かにする』って、具体的にどんな姿?」など、分からないと思ったことを、近くの先輩に尋ねてみるのも、よい教材研究と言えます。