小4道徳「生き物と機械」指導アイデア
執筆/鹿児島県公立小学校教諭・吉田竜也
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
使用教材:「生き物と機械」(光村図書)
本校では、5月と11月を「道徳教育強調月間」として教育課程上に位置付け、学校全体で道徳教育の充実に取り組んでいます。その際、5月は「命を見つめよう」、11 月は「人との関わりについて考えよう」というテーマを設定し、複数時間の関連を図った重点的指導を行っています。
これまでの本校における道徳科の授業では、一つの内容項目を一単位時間で取り扱うことが多く、単発的な指導になりがちでした。しかし、新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、単元や題材など一定の時間や内容のまとまりの中での授業改善が求められています。教科化された道徳科においても、その視点が必要です。
そこで、児童の実態や学校の重点目標を基にしたテーマ学習を実施することで、テーマについて多面的・多角的に深く学ぶことができるのではないかと考えました。その際、児童が学習したことの意義や価値、自らの考えの成長を実感できる授業づくりを行うことで、主体的な道徳性の育成にもつながると考えました。
テーマ学習を実施する際には「道徳シート」を作成し、学習前と学習後の自己の考えの成長を捉えやすくする工夫を行いました。本稿では、5月に実施した「生命の尊さ」におけるテーマ学習の実践例について紹介します。
テーマ学習の概略
- 児童の実態や学校の重点目標、学校行事等の関連を基に、学習全体のテーマを設定する。
- 道徳シートを活用して、学習前のテーマに関する自己の考えを書く。
- テーマに関わる内容項目の授業を3時間程度連続して実施する。
- 道徳シートを活用して、学習後のテーマに関する自己の考えを書く。
- 学習前と学習後のテーマに関する考えを比較し、自己の成長や考えの深まりについて整理する。
▼第4学年 テーマ学習における指導計画
▼ワークシート
テーマ学習を実施するに当たり、堀哲夫氏が開発した一枚ポートフォリオ評価を改良した「道徳シート」を作成しました。道徳シートを構成する要素としては、次の4点です。
①「学習テーマ」
②「学習前のテーマに関わる問い」
③「学習後のテーマに関わる問い」
④「学習後のふり返り」
このような学習前後で同様の問いを設定することで、児童が自己の学習状況やテーマに関する考えの変容を客観的に捉えやすくなります。また、道徳科の評価の基本的な考え方の一つである「大くくりなまとまりを踏まえた評価」も可能になるのではないかと考えました。
▼第2時「生き物と機械」におけるワークシート
1単位時間における授業においても、本時の道徳テーマに対して、授業開始時と授業終了時における考えの変容が可視化できる工夫を行いました。また、テーマが抽象的で捉えにくい児童のために、補助発問も掲載しました。
第2時「生き物と機械」では、生き物と機械の違いを考えることを通して、生命の尊さに迫っていきます。その際、考える視点をあらかじめ2点示すことで、学習活動の見通しを明確にもたせることにしました。
また、残りの4点については、児童が考えた視点を記述できるように工夫しました。
実際の授業展開
主題名
命が教えてくれること
教材名
生き物と機械
指導目標
生き物と機械の違いを考える活動を通して、生き物の特徴である生命の尊さやすばらしさに気付き、命ある者として自己の生き方を見つめようとする態度を育てる。
内容項目
D 生命の尊さ
準備するもの
・マグネット式短冊(児童に一枚ずつ配付)
指導の概略(板書計画例)
導入
①命を大切にするとは、どういうことですか。(命を大切にするために意識していることはありますか)
- 前時の学習やこれまでの経験を想起させ、学習前の本時のテーマに対する自分なりの考えをもたせることで、授業を通して主体的に課題追究ができるようにする。
展開1
②ロボットの犬と本物の犬とでは、どのような違いがありますか。
- ロボットと生き物の違いを考える際の視点をあらかじめ示したり、視覚的に捉えやすい写真を活用したりすることで、その違いや特徴について多面的・多角的に考えることができるようにする。
展開2
③ロボットと生き物である人間とでは、どのような違いがありますか。
- ロボットの犬と生き物の犬の具体的な比較から、ロボットと生き物である人間の比較へとより一般化させることで、生き物の特徴である有限性や唯一性に気付くことができるようにする。
展開3
④ロボットと生き物を比較することで、人間のどんなすばらしさや特徴が見えてきましたか。
- 児童一人ひとりにマグネット式短冊を配付し、グループや全体で意見の交流を図ることで、自己の考えを深めたり広げたりすることができるようにする。
展開4
⑤意見の真ん中に言葉を入れるとしたら、どんな言葉を選びますか。理由も教えてください。
- 生命の本質、根源について捉えさせることで、本時のテーマについて深く迫ることができるようにする。
終末
⑥授業を通して、命を大切にするとは、どういうことだと考えましたか。
- 再度、本時のテーマに対する考えを問うことで、学習したことの意義や価値、自己の考えの変容を的確に捉えることができるようにする。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
テーマ学習で多面的・多角的に考え、学びを深める
生命の尊さについて学びを深めていくためには、家族や社会的な関わりの中での生命、自然の中での生命、生死や生き方に関わる生命など、さまざまな側面から指導していくことが大切です。
第1時で実施した「生きているしるし」は、心情面に重きを置いて「命の誕生や支えられている命」について考えました。本稿で紹介した「生き物と機械」は、これまでにない科学的な視点から生命の本質やその尊さに迫りました。
そして、第3時で実施した「おじいちゃんのごくらくごくらく」は、身近な人の「死」を基に「思いでつながる命」について考えました。道徳シートに記されたテーマに対する学習前の考えでは、「命はたった一つしかない」「命がないと生きることができない」といった一面的な見方でした。
しかし、学習後では、命を授かる者に備わるさまざまな能力や他者との関わりにも目を向けた記述が見られました。また、道徳シートを用いてそれらを比較することで、自己の考えの成長にも気付くことができました。
このように、テーマ学習を行うことで、学びの連続性を重視しながら、テーマについて多面的・多角的に考え、学びを深めることができました。
テーマ学習をするうえでの注意点・ポイント解説
学習指導要領解説には、テーマ学習に関わる指導事項として次のような明記があります。
これらの点を踏まえて、本校では以下のような順序、方法でテーマ学習を設定しました。
- 児童の実態や学校の重点目標を基に、学校全体として共通のテーマを設定しました。
- テーマに関わる内容項目を選出し、内容項目間の関連、児童の思考の連続性や発展性に留意した教材の配列を行いました。
- 学校行事などとの関連を図り、5月は「いじめ問題を考える週間」、11月は「人権週間」の取組の一環として教育課程に位置付けました。
今後の課題としては、内容項目「生命の尊さ」の授業を3週連続で実施したため、年間指導計画に偏りが出た点が挙げられます。今後は、さまざまな内容項目からバランスよくテーマ学習を構成する方法などについて追究していきます。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科では、各学年段階の内容項目について、相当する各学年において全て取り上げることとしているので、毎回の授業で内容項目に対する指導が単発になりやすくなるのも無理のないことです。
しかし、そのようにならないようにするためのさまざまな工夫があり、授業の事前や事後の各教科等や日常生活等も含めた全教育活動を通じて行う道徳教育の展開を意識した指導、また、吉田先生のように、道徳科の授業同士の関連、複数時間扱いで、ある一つのテーマについてじっくり考える指導などができます。
今回の道徳教育強調月間のテーマは、内容項目で言うと「生命の尊さ」になりますが、その「命」についてはさまざまな側面から捉え、考えていくことが重要であり、計画的、発展的に指導をすることで心に厚みと広がりをもたらします。
ワークシートの工夫により、毎時あるいはその期間の考えを記録していくことは、児童は自分自身の気付きを確認でき、教師は評価に生かしていくこともできます。正に強調月間の取組と言えるでしょう。
イラスト(ワークシート)/嵯峨根明日香(オーデザインチャンネルズ)
『教育技術 小三小四』2020年9月号より