小1体育「マットを使った運動遊び」指導アイデア
国立教育政策研究所教育課程調査官の監修による、教科指導のアイディアと授業のヒントをまとめた指導計画例です。次時の授業にお役立てください。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・板垣賢司
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・高田彬成、神奈川県公立小学校校長・二宮昭夫
目次
授業づくりのポイント
マットを使った運動遊びは、子供たちがマットを使って遊びながら、いろいろな動きに楽しく取り組んで、自分の力にふさわしい動きを身に付けたときに、喜びを味わうことのできる運動遊びです。
授業では、運動遊びを通して子供が支持や逆さ姿勢、回転などの感覚を十分に味わい、基本的な動きを身に付けられるようにしましょう。適度な柔らかさのあるマットを活用して、背中や腹などをつけていろいろな方向へ転がったり、手や背中で支持しての逆立ちや、体を反る遊びなどをしたりする楽しさを意図的に取り入れた運動遊びを構成します。
また、子供たちが楽しく運動に取り組みながらいろいろな動きを自ら試したり、基本的な動きを身に付けたりすることができるように、条件を変えた場を複数設けるとよいでしょう。教師は、子供たちが活動している様子を見たり、一緒になって活動したりする中で、子供たちのよい動きを取り上げたり、友達のよい動きを伝えたりしながら学級全体に動きが広がっていくようにしましょう。
学習の進め方
※学校の設備や教具など、実態に合わせて活動内容を変更するようにしましょう。

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単元計画の留意点
子供が単元を通して意欲的に活動に取り組めるように、下り坂コースなどの易しく活動が行える場や、ジグザグコースなどの自由に活動に取り組める場を設定し、発展的な場として上り坂コースや、凸凹コースなどの場を追加していくことや、教師の肯定的な声かけによって子供たちの意欲が継続していくでしょう。場を工夫するときには、広さ、向き、高さを変えていくことが必要になります。
子供たちが学習に沿った動きをするために、教師の称讃とともに、学習を方向付ける具体的な言葉がけを行うようにしましょう。
オリエンテーション、はじめの運動例
オリエンテーションでは、単元を通して子供たちが楽しく学習に取り組めるように、約束や準備、片付けの仕方を全員で確認することが大切です。
授業のはじめには、毎時間身体感覚づくりの運動を取り入れましょう。ここでは回転感覚、腕支持感覚、逆さ感覚、反り感覚など、マット運動の基礎となる感覚を身に付けることがねらいとなります。
単元の前半では教師が提示した動きを一つひとつ確認しながら、丁寧に行うように言葉がけしていきましょう。教師は、子供の動きを見ながら、どのような動きができているのかを伝えるように心がけましょう。
はじめの運動の活動例

はじめは先生と一緒に、運動しましょう。 マットの上でいろいろな動物になってみましょう。動物になって、競争しても楽しいですよ。 次は、どんな生き物になってみたいですか?
【運動が苦手な子供への配慮の例】
はじめの運動は、感覚を身に付けることをねらいとして行うため、教師は、それぞれの動きのポイントを把握しておく必要があります。ねらいとしている動きができない子供に対しては、教師が補助をして、動きの感覚が身に付くようにしましょう。


友達と起き上がって、じゃんけんをしてみましょう。


足を何回、叩けるかな?

かえるさんになって、どれだけ止まっていられるか、やってみましょう。

【意欲の出ない子供への配慮の例】
意欲的に活動に取り組めない子供のために、それぞれの動きの中に競い合う場面を入れたり、自分の記録を伸ばしていけるように、声かけをしたりするようにしましょう。
マットを使った運動遊びをするときの約束



準備も片付けも、あらかじめ役割を決めておくと、スムーズにできます。約束を守ろうとしている子供がいたら、しっかりとほめてあげましょう。
楽しみ①「教師と一緒に、いろいろな運動遊びをしよう」での活動例
はじめは教師が手本となり、実際に動いてみせることで、子供たちも動きがイメージしやすくなります。ここでは、教師や友達と楽しく活動する中で、自然と単元で必要な動きが出てくるようにしていきます。易しい動きから提示していくことで、子供たちの「できた!」という実感を積み重ねられるようにしましょう。
学習を進めていく際、様々な場を用意することは、子供たちの動きを引き出すだけでなく、意欲の継続にもつながっていきます。また、教師は、子供の動きがねらいとしている動きになっているかをよく観察し、動きのこつを伝えたり、子供の動きを全体で共有したりすることが大切です。
いろいろな転がり方をしてみよう

後ろ回りは、手をしっかり着いておくと、回りやすいですよ。いろいろな場で、転がってみましょう。前や後ろ、横に転がっても楽しいですよ。


マットから落ちずに、続けて転がりましょう。友達に押して
もらっても、いいですね。

体を支えてみよう

川に落ちないように、マットに手を着いて反対側にジャンプしましょう。真ん中の丸に着地して、もう一度ジャンプしても大丈夫です。


いろいろな姿勢で、何秒止まっていられるかな?

手をパーにして、肘をまっすぐにしましょう。手と手の間を
見るようにしましょう。頭と肘を着いてやってみても、いいですよ。

トンネルになって、いろいろな生き物が通れるようにしましょう。
【運動が苦手な子供への配慮の例】
平地では転がることができない子供のために、坂道をつくったり、教師が補助をしたりしましょう。体を丸めて揺れる「ゆりかご」に多く取り組み、転がるための体の動かし方が身に付くようにしましょう。また、体を支える場では、どの子供も取り組めるように動きを簡単にしたり、手や足を着く場所や目線の先にマークを置くなどの配慮も効果的です。
【意欲の出ない子供への配慮の例】
子供の実態に応じて、マットの数や向き、高さを変えることや、目印や台などを置いて、動きを易しくしたりします。また、反対に、上り坂や凸凹の場などを工夫していくことで、意欲的に活動に取り組めるようになるだけでなく、子供から多様な動きが生まれてきます。
楽しみ②「友達と一緒に遊んだり、場を選んだりしよう」での活動例
「友達と一緒に遊んだり、場を選んだりしよう」では、子供が今までに経験してきた動きを基に、友達と一緒に様々な方向へ転がることができるように場を選んだり、動物に変身して腕で支えながら移動したりと、動きを広げられるようにしていきます。
教師は、子供が考えた新しい動きを認めながら、他の子供たちに紹介するなど、動きを広げていくことを意識しましょう。なかなか動きを見付けられない子供がいれば、「何の動物になりたいかな?」などと問いかけたり、「友達の動きの真似をしよう」と促したりすることで、誰もが楽しんで活動できるように心がけましょう。

同じ回り方だけでなく、前転がりと後ろ転がりのようにしても楽しいですよ。


片手で、できるかな?声でじゃんけんしても、いいですね。




いろいろな生き物になって、1周してみましょう。

何秒、止まっていられるかな?
楽しそうだね。
次はあっちで遊ぼう!
友達と一緒に、いろいろな場をローテーションして、遊んでみましょう。遊ぶときは、必ず前の人が合図を出してから、行うようにしましょう。
【運動が苦手な子供への配慮の例】
動きが十分に身に付いていない子供には、それぞれの場で必要な動きが身に付くように練習の場を設けたり、教師の補助や声かけをしたりしましょう。
【意欲の出ない子供への配慮の例】
事前に活動のペアやグループを決めたり、教師が一緒になって活動に取り組んだりすると、他者との関わりが生まれて、活動に意欲的になっていきます。また、友達の動きのよかったところを伝え合う場面を設定するという方法も、自分の動きに自信がもてるようになり、活動への意欲が高まっていきます。
〇評価のポイント
マットを使った運動遊びでは、約束を守って、進んで活動に取り組んでいるかを見取る必要があります。準備や片付けを進んで行うことや、安全に配慮して学習に取り組んでいるかも重要なポイントです。単元のはじめには、逆さ感覚や回転感覚、腕支持感覚など、日常生活では味わうことの少ない感覚を十分に味わえることを大切にしてください。動きが「できた」「できない」という観点で見るのではなく、子供の動きに変容が見られれば、その部分を大いに認めてあげることが大切です。また、子供たちが活動に取り組む中で、友達のよいと思った動きを真似たり、自分の考えを伝えたりすることができたときは、「友達と上手に遊べたね」などと、動き以外でも、細かく子供たちを見取っていくことが教師の役割です。
教育課程調査官からのアドバイス
国立教育政策研究所教育課程調査官・ 高田彬成
マットを使った運動遊びでは、前や後ろ、横など、いろいろな方向に様々な転がり方で繰り返し回ったり、手や背中で体を支持して逆さになったりして、マット遊びの特性にふれながら楽しさを味わうことを目指します。そのためには、子供のいろいろな動きを引き出すための場の工夫が大切です。
本稿で紹介されているように、様々なコースを設定するなど、思わずやってみたくなるような場の準備や動きの紹介があるかどうかで、子供の意欲や学習の成果は大きく変わってきます。「○○ランド」や「○○探検」などのように、テーマを設定して意欲を喚起する方法もあります。
安全面に留意しながら、上手な動きや工夫した楽しい動きなどを大いにほめ、子供たちの「楽しい」「もっとやりたい」「先生、見て見て」と言う声をたくさん引き出していきましょう
イラスト/栗原清・横井智美
『小一教育技術』2018年6月号より