「発達障害」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】

「発達障害」ではないかと思われる児童生徒は、すべての通常学級にいる可能性があります。そのような子どもの指導・支援をどのようにしていくか、学校現場の大きな課題になっています。

執筆/立正大学准教授・奥野誠一

みんなの教育用語

発達障害とは

発達障害は、法令等では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」「学習障害」「注意欠陥多動性障害」「言語の障害」「協調運動の障害」「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」と規定されています(発達障害者支援法、発達障害者支援法施行令、発達障害者支援法施行規則)。いずれも脳機能の障害で発症が通常低年齢のものですが、学齢期以降になってから明らかになることもあります。

文部科学省の調査では、通常学級に在籍する児童生徒の6.5%に、高機能自閉症(High-Functioning Autism) 、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)に類似した行動傾向のあることが示されました。全般的な知的発達に遅れはなく、障害が見えにくいため不利益を被っている場合も少なくありません。

各発達障害の用語や定義は、文部科学省が調査等のために使用しているものと医師が診断のために使用しているもので中身が異なるところがあるので注意が必要です。アメリカ精神医学会は『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』という国際的な診断基準を示しています。なお、世界保健機関(WHO)もICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)を示しています。ICDは国の統計調査などに使用されていますが、最新のICD-11が2022年以降に効力が発生する予定なので、発効後はICD-11に基づいて用語や定義などが変更となる可能性もあります。

以下、文部科学省が主な発達障害としている障害のうちの3つについて解説します。

高機能自閉症(High-Functioning Autism)

高機能自閉症(High-Functioning Autism)のある子どもの特徴の例は、次のようなものです。

●相手の視点に立つのが難しい
●感情や反応から相手の気持ちを理解するのが難しい
●暗黙のルールがわからない
●行間が読めない
●こだわりが強く融通が利かない
●予定の変更や変化を嫌がる

これらの特徴の背景には、他者の心の状態を推測する能力(心の理論)、他者と注意や視点を共有する能力(共同注意)、部分の情報をまとめて関連づけ全体を把握する能力(中枢性統合)に苦手さがあると考えられています。一方、特定の領域においては博識であったりするなどの高い能力を示すことがよくあります。

DSM-5では、高機能自閉症・アスペルガー症候群といった表現は用いられず、「自閉スペクトラム症」と表現されています。

学習障害(LD:Learning Disabilities)

LDのある子どもの特徴の例は、次のようなものです。

●読むときに同じ行を繰り返したり飛ばし読みしたりする
●一文字ずつの拾い読みで内容の理解がよくない
●似た形の漢字を読み間違うことが多い
●鏡文字を書く
●漢字の細かいパーツを間違える
●筆算の桁がずれる
●長音・促音・拗音が抜けたり、入る場所が違ったりする

得意・不得意が極端なため、実際の能力よりも過大評価や過小評価されたりします。背景には、情報処理能力・認知能力の極端なアンバランスがあると考えられています。こうしたアンバランスは、LD以外の発達障害でもしばしば見られます。

DSM-5では「限局性学習症」と表現され、読字・書字・計算技能の障害に限定されていて、対象となる範囲がだいぶ異なります。

注意欠陥/多動性障害(ADHD:Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)

ADHDのある子どもの特徴の例は、次のようなものです。

●忘れ物や物をなくすことが多い
●周りのことにすぐに気をとられる
●カッとなりやすい
●いきなり行動する
●順番を待てない
●落ち着きがない
●席に座っていても体を動かしている

背景には、目的を達成するために見通しを立てる、意思決定するなど行為の実行全般に関係する脳の機能(実行機能)や、情報を保持しながら作業するときに使う一時的な記憶(ワーキングメモリ)の苦手さが関係すると考えられています。一方で、ムードメーカー、活動的といった面もあります。

DSM-5では、日本語訳には注意欠如・多動症が用いられ、症状が現れるのは12歳以前となっています。

発達障害への対応と課題

発達障害のある子どもへの対応は、認知特性・能力に応じた情報提示、適切な行動の指導を行うことが中心になります。得意な能力を活用した情報提示を行い、学習活動や集団活動に取り組めるように支援します。また、できないことを叱責するのではなく、適切な行動をそのつど教えることが重要になります。

主治医から投薬治療を受けている場合でも、落ち着いているときに必要な指導を行います。自己評価が低下している場合には心理面のケアも重要です。

これらの対応を通常学級で行うために、ユニバーサルデザインによる教育支援(障害のある子どもにとってはないと困り、障害のない子どもにとってはあると便利な支援)が注目されています。

国際条約である障害者権利条約や関連法に基づいて、文部科学省は「インクルーシブ教育システム(発達障害に限らず障害のある子どももない子どももともに学ぶ仕組み)」を構築する方向性を示しています。こうした流れを受けて、特別支援学校・特別支援学級の教師だけでなく、すべての教師に障害の理解が求められています。しかし、これらを十分行うのに必須となる合理的配慮を十分に提供するには人的・物的な措置も不可欠で、大きな課題になっています。

▼参考文献
アメリカ精神医学会『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(高橋三郎・大野裕監訳)医学書院、2014年
鎌倉利光・藤本昌樹編『子どもの成長を支える発達教育相談』(第4版)北樹出版、2017年 
文部科学省「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)」2012年
文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」2012年
文部科学省(ウェブサイト)「特別支援教育について
厚生労働省(ウェブサイト)「疾病及び関連保健問題の国際統計分類 ICD-10(2013年版)準拠

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