小5道徳授業レポート「ケンタの役割」心のものさしを使って考えよう
地域や家庭との連携を大切に子供の豊かな心を育む教育を推進し、評価方法の工夫や、学習内容の改善、カリキュラムマネジメントなどに重点を置いた授業づくりで道徳研究を進めている鳥取県の境港市立上道小学校の授業風景をご紹介します。
目次
教材
教材名「ケンタの役割」(出典『きみがいちばんひかるとき』光村図書出版)
内容項目 よりよい学校生活、集団生活の充実
導入
本時のねらい
2つの役割を同時に果たさなければならず悩むケンタの姿を通して、自分の行動を決断するときに必要なことについて考え、集団における自分の役割と責任を自覚し、集団生活の充実に努めるための判断力を育てる。
発問1
学校や学級のためにしている活動には、どんなことがありますか?
自分たちが取り組む学校や学級のための活動を再確認しながら、直近の行事や学校生活における6年生の役割と比較して、上級生のリーダー的な役割の多さにも気付かせます。
展開
「心のものさし」を使って、自分の考えを視覚化。双方の言い分をもとに、どちらも大切な役割であることを感じ取ります。
発問2
タクヤとミキ、どちらの言い分に納得できるか「心のものさし」を使って考えてみよう。
誰の言い分に納得できるか、クリップを動かしながら考えます。
「心のものさし」を使って考えよう
教材を読んだ後、ケンタの立場になって自分の考えを2分間で整理します。「心のものさし」を使うと、曖昧な気持ちも表現させることができます。どちらの言い分でも、その理由を挙げます。
リレーは優勝がかかっている!
リレーで優勝するのも、大切なことだと思う。どちらかというとリレーを優先させたい。
委員会は学校しかできないから。
リレーのバトン練習は学校だけでなく、どちらかの家のほかの場所でもできる。委員会は学校でしか終わらせられないのでミキさんの言い分に納得できます。
両方やればいい!
ミキさんの言い分もわかるけど、タクヤさんのバトン練習も大切。まずはタクヤさんとバトン練習をしてから、ミキさんを手伝えばよい。
どちらも気になる。
陸上大会で優勝をとりにいくのも大切。委員会の仕事も、学校全体のためだから大切。迷います。
「心のものさし」を活用
考えの変化もわかりやすく便利です
自分の意見を表現することが苦手な子が多いクラスです。そこで、本時ではミキとタクヤのどちらの主張に納得できるかを「心のものさし」を使って考えられるようにしました。それをもとに、「自分ならどうするか」をしっかり考えることができたと思います。
発問3
さて、ケンタはどう決断して何と言ったでしょう?
今まで出た様々な意見をもとに「決断するときに大切なこと」を考える。
最終的には、どちらを選ぶかではなく、「何を大切にしてそう思うか」を考えてほしかったので、その部分を強調して子供たちに伝えます。自分の意見を表現することが苦手な子が多いなかで少しでも発表しやすくするために、ノートに考えをまとめました。
委員会とリレーの練習、どちらを優先する?
子供たちの意見
委員会。
今までリレーを優先してきたから、今の状態になった。今日はポスターを優先したほうがよい。
委員会。
学校のためになる大切なことだから。
両方やったほうがいい。
どちらも大切。
委員会。
6年生に頼まれた大切な仕事。下級生のためにも今日ポスターを仕上げるべき。
リレー。
陸上大会は明日。バトンパスがうまくいかなかったら、メンバーに迷惑をかけてしまう。
選んだ理由からキーワードをまとめて子供たちと確認します。「リレー」は「メンバーの気持ち」を大切に「委員会」の仕事は「みんなのため」。「ミキの主張に納得できる」意見が多いとは事前に予想していましたが、予想以上に多くの子がミキの考えに寄っていたことに驚きました。高学年ならではの、責任感が働いたのでしょうか。
終末
自分との関わりで考え、ノートにまとめる。
自分が似たような状況になったとき、どんなことを大切にして決めるのかを改めて考えてノートにまとめます。はじめの考えからの変化、友達の意見を聞いてからの変化なども書くように促しました。
授業ノートより
自分の役割が重なったとき、人の気持ちを考えて決めることがわかりました。 友達の意見を聞いてみると、わたしは委員会だと思っていたけど、まわりが助けるという方法や、両方少しずつするという方法があるとわかりました。
わたしは、最初はどちらを優先すればいいかとても迷いました。これからは自分のことより、相手のことを考えてやろうと思いました。
「心のものさし」は自分のこととして考えたり、黒板掲示用クラスの考えを共有したりするのに有効でした。友達の意見で考えが変わったという感想も多く見られました。
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生 ワンポイントアドバイス
心に焦点を当てた授業づくりで、考えを深める
この教材では、リレーのバトン練習を優先させたほうがいいのか、委員会のポスターづくりを優先させたほうがいいのか、決まった答えが一つあるわけではありません。もちろん実際の生活では、何とかして両方実現するための手段を考えますが、いずれかを選択するにしても、そこでしっかりと考えること、つまり、心に焦点を当てるところに道徳科としての意義があるのです。特に菊池先生は、道徳的判断力を育てることをねらいとして授業を行い、「心のものさし」で自分の心を可視化できるようにしたことで、子供たちは、自分のことやみんなのこと、学級のことなど視野を広げて考え、様々な対象に対して自分の心を働かせていくことができました。
取材・文/ルル 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小五小六』 2021年1月号より