小4道徳「世界に一つだけ株式会社『自分』」指導アイデア
執筆/神奈川県桐光学園小学校教諭・小林隆史
監修/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
授業づくりのきっかけとなった資料
若い子だけではない。子育て中の母親も、働き盛りのビジネスマンも、学校の先生も、講演会で「自分のことが好きですか?」と投げかけると、手を挙げる人は1割くらいしかいないのが常である。
『日本一心を揺るがす新聞の社説3』水谷 もりひと(ごま書房) 「自分のことを好きになるために」から一部抜粋
ところで、世の中にこんな社長さんがいたとしたら、どうだろう。自社の商品を、胸を張ってお客に薦められない。自社の商品に欠陥があると分かっているのに改善しようとしない。そして、その商品が売れないのを「不況だから」「ここは田舎だから」と周りのせいにしている。
おそらくその会社の景気がよくなることはないだろうし、その会社で働く人たちの幸福度はかなり低いだろう。先日聴いた、経営コンサルタントの桑原正守さんの話は非常に興味深かった。桑原さんは参加者にこう言った。
「紙に自分の名前を横書きで書いてください。その名前の後ろに『株式会社』と書いてください。そして、その下に生年月日を書いて、最後に『創業』と書いてください」
その紙には、世界にたった一つしかない「あなた」という社名が書かれている。創業は「あなた」が生まれた日だ。その会社の社長は「あなた」であり、その会社が生み出す商品は、あなたの時間、あなたの感性、あなたの経験、言ってみれば「あなた自身」。
その会社が伸びるかどうかは社長である「あなた」次第。その会社の商品が売れるかどうかは「あなた」がその商品価値をいかに高めるかにかかっている。そう説明した後、桑原さんは言う。
「車は、古くなったら買い替えができます。家も建て替えができます。でも、どんなに自分が嫌いだからといっても、誰かの人生に乗り換えることなんてできないんですよ」
「あなたは、一生あなたとしてしか生きられないんです。一生付き合っていく自分の悪口をまだ言っているんですか。一生付き合っていく自分を嫌いなままでいいですか。一生付き合っていく自分をどうして磨かないんですか」
ここまで言われると、自分を好きになってみようという気になる。
ある会社の社長の言葉
▼自分の短所をそのままにする社長
▼原因を自分以外のせいにする社長
▼自分の長所に自信をもてない社長
▼ワークシート
実際の授業展開
タイトル
世界に一つだけ 株式会社「自分」
指導目標
世界に一つしかない株式会社「自分」の特徴を友達と考える活動を通して、自己肯定感を高め、自らをよりよい方向に伸ばそうとする意欲をもたせる。
内容項目
A 個性の伸長
準備するもの
・教材(黒板掲示用)
・ワークシート(児童配付用・黒板掲示用)
指導の概略(板書計画例)
【導入1】
①三つの会社と、それぞれの社長の言葉を紹介します。みなさんはどの会社の商品を買いたいと思いますか。
- 前向きに買おうと思えない社長の言葉を聞いて、子供たちは悩む。その悩む理由をきちんと言葉で表現させることが②につながる。
【導入2】
②三人の社長は、自分の会社のことをどう思っているのでしょうか。
- 社長が自分の会社に肯定的な思いを抱いていないと、お客(周囲)の信頼を損ねてしまうということを感じ取らせたい。
【展開1】
③みんなは自分のことが「好き」ですか。それとも「好きではない」ですか。
- 自分を「好きではない」場合、先ほどの社長と同じになる。自分を好きな人は、自分のよさを理解し、より自らの価値を高めていける。子供たちに、自分を好きになることで今後の生活を充実させられるのだと感じさせたうえで④に進みたい。
【展開2】
- ワークシートに自分の名前、その後ろに「株式会社」と書く。そしてその下に自分の誕生日、さらに「創業」と書く。
④世界に一つしかない「あなた」という会社には、どんなよさがありますか。
- 自分→友達の順に書いていく(書き方はワークシート画像を参照)
【展開3】
⑤今度は、あなたの会社の直したいところを書きましょう。
⑥一人ひとりが会社の相談役になり、友達の会社をよい方向に向かわせるためのアドバイスを書きましょう。
- 直したいところに対してどのようなアドバイスができるのか、まず教師が示す例についてみんなで考え、その後、子供どうしでアドバイスし合う(書き方はワークシート画像を参照)
【終末】
⑦自分の会社のことを知ってもらうための文(自己PR文)を書きましょう。
- 自分の会社のよさや、直したいところに対するアドバイスを読むことで、活動前よりも自己肯定感が高まるようにしたい。授業の終わりには、自分のよさを知ってもらうための文を書く。この文は、次年度の学級で自分のよさを知ってもらう際にも使えるだろう。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
授業は、自分の会社のことをあまりよく思っていない社長の言葉を提示するところから始めます。自分を否定的に捉える言葉は、周りの人の信頼を損なう原因にもなります。このことをみんなで確認したうえで、子供たちに「自分のことが『好き』か、『好きではない』か」と問います。
学級によって挙手する比率は変わると思いますが、自分を好きになることに大きな価値があるということを、参考資料を生かしながらしっかり説明します。展開では、自分を株式会社に見立て、よさや直したいところを考えます。
見立てることにより、ふだんよりも客観的に自分を見つめられるようになります。直したいところへのアドバイスを考えることが難しい場合は、教師が例を提示してみんなで意見を出し合うとよいでしょう。
例えば、「失敗するのが怖くて、なかなか挑戦できない」という直したい例を挙げ、どうすればよい方向に向かうかを考えます。「成功したときのことを考えるといいよ」「失敗しても死ぬほど大変なことはないはずだよ」など、子供たちが挙げるアドバイスがよいお手本となります。
また、友達によさやアドバイスを書いてもらう際には二人までと決めるのではなく、時間の許す限り交流できるようにしましょう。その際に、男女さまざまな友達と関われるようにペアを組む工夫もしていきます。
終末では、自分に贈られた言葉を読みながら、自己PR 文を書きます。この文は、一年間の自分のよさをまとめるものであり、これから出会う友達に自分のことを知ってもらう(好きになってもらう)ものでもあります。一人ひとりが、じっくり考えながら書けるようにしましょう。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
【展開2】では、友達から自分のよさをいろいろと書いてもらえる子もいれば、同じものばかり書かれる子もいることでしょう。子供は同じものばかりだと、「自分のよさはあまりない」と考えてしまいがちです。
しかし、多くの友達が認めるそのよさは、その子自身を象徴するようなすばらしいものなのです。友達が書いたよさを見る際には、このようなことをきちんと伝えておくことが肝要です。
一年間、同じ学級で過ごしたこの時期だからこそ、自分のよさを友達から教えてもらったり、直したいところへのアドバイスをもらったりする活動に大きな意味があります。自分では気付かないよさや、親身になったアドバイスなど、互いをよく理解したうえで贈る言葉には温かみがあります。
この温かい言葉は自己肯定感を高めるとともに、さらに自分をよくしよう、好きになろうという思いも高めることでしょう。次年度に向かう自分への期待も高まるような授業で一年間の道徳のまとめとします。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「子供にとって一番の評価とは」
年度末を迎えて、子供たちの評価を記録に残す時期となりました。道徳にかかわる評価は二つあります。
まず、全教育活動を通じて行う道徳教育という範囲では、道徳の内容項目にかかわる指導を、道徳科の授業に限らず、各教科やさまざまな教育活動で行っているので、きっと子供たちにも豊かな心が培われ、学校のさまざまな場面でその心が行為となって表れていることでしょう。
誰に対しても優しく接している姿、最後まであきらめずに努力する姿など、このような姿は、例えば「行動の記録」や「総合所見」などで評価することができます。次に、道徳科の授業の範囲では、子供たちはどのような学びの姿を見せていたでしょうか。
道徳的価値のよさを感じていたり、いろいろな見方をしていたり、自分をふり返りながら考えていたり、学んだことを自分の生き方に生かそうとしていたりする姿を、大いに認め、励ます評価ができるとよいでしょう。
全教育活動を通じて行う道徳教育及び道徳科の授業での指導は、すべて子供たちの成長を願って行うもの。そして評価は、子供が自らの成長を実感できるように工夫するものです。子供たちにとって一番の成長につながる評価はなんでしょうか。
それは、信頼できる教師に認められることです。ぜひ、そのような評価を子供たちにプレゼントしてみてください。子供たちにしてみれば、きっと一生の宝物になることに間違いありません。
イラスト/うえだ未知
『教育技術 小三小四』2020年2月号より