「ファカルティ・ディベロップメント(FD)」とは?【知っておきたい教育用語】
ファカルティ・ディベロップメント(FD / Faculty Development)とは、大学の教員が授業の内容や方法を改善し、向上させるために実施する組織的な取組のこと。いま、その考え方や進め方を小・中学校の授業改革などにも利用しようという動きがあります。
執筆/茨城大学教授・加藤崇英
目次
ファカルティ・ディベロップメント(FD)の必要性
FDの具体的な例としては、大学において教員が講義や演習の方法について学内で研修会を行ったり、新任教員のための研修会を開催したりすることなどがあります。
大学の中からFDの必要性が唱えられることも少なくありませんが、いままでは主として国の高等教育政策全般の中でその必要性が指摘され、求められてきました。
大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改善方策について」(1998年10月)には、「各大学は、個々の教員の教育内容・方法の改善のため、全学的にあるいは学部・学科全体で、それぞれの大学等の理念・目標や教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)の実施に努めるものとする旨を大学設置基準において明確にすることが必要」と明記されています。
ファカルティ・ディベロップメント(FD)の義務化
このような流れを受けて、「大学設置基準」「大学院設置基準」では、大学および大学院は「教育内容等の改善のための組織的な研修等」を実施する義務があるとされています。
- 大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。(「大学設置基準」第25条の3)
- 大学院は、当該大学院の授業及び研究指導の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。(「大学院設置基準」第14条の3)
そして、その取組が適切になされているかどうかは各種調査で明らかにされるだけではなく、第三者から外部評価を受けることになっています。なかでもFDが適切に実施されているかどうかは、重要なチェックポイントです。
なお、FDが主に大学の教員を対象とした取組を指すのに対し、大学の事務職員や技術職員を対象とした取組として、スタッフ・ディベロップメント(SD)があります。
ファカルティ・ディベロップメント(FD)の具体的な内容
では、FDの具体的な内容にはどのようなものがあるでしょうか。文部科学省が2018年度に実施した「大学における教育内容等の改革状況」の調査によれば、主なものは次のとおりです。カッコ内の数字は、国立・公立・私立を合わせた全体の実施率です。
- 教員相互の授業参観(54.8%)
- 教員相互による授業評価(21.0%)
- 自大学の学生や自大学への入学志願者に対する理解を深めるワークショップ(17.0%)
- プログラムとしての学士課程教育の構築を目的としたワークショップまたは授業検討会(17.7%)
- 教育方法改善のためのワークショップまたは授業検討会(上記を除く)(47.6%)
- 講演会、シンポジウム等(上記を除く)(64.5%)
- 研究倫理に関する研修会(47.6%)
- 新任教員を対象とした研修会等(53.5%)
この調査結果の資料では、4年前(2014年度)の同様の調査との比較を行っています。それを見ると、「研究倫理に関する研修会」(27.9%→47.6%)や「新任教員を対象とした研修会等」(45.5%→53.5%)の実施率が上がっていることが指摘できます。特に前者は、研究費の適切な使用やハラスメント防止など、大学における喫緊の課題への対策として取り組まれていることが実施率の増加につながっていると推察されます。
小・中・高での授業改革のために
以上のように、FDは大学における取り組みですが、小・中学校や高等学校等における授業改革や授業改善の取組の参考になる点がいろいろあります。特に、次の2点には着目すべきでしょう。
第1に、アクティブラーニングにおける「主体的・対話的で深い学び」の推進には大いに参考になることです。大学でも学生が講義形式ばかりで受け身にならないように工夫する必要性が指摘され、授業に関わるワークショップや授業検討会、またこれらに関する講演会やシンポジウムを実施する取組がなされています。小学校から大学まで、学校段階にかかわらず、授業における児童・生徒・学生の主体的で積極的な参画の意欲を高めることは共通の課題となっていますが、FDはその課題解決に役立ちます。
第2に、ICT教育、とりわけオンライン教育との関連です。ICT教育ないしデジタル教育の重要性は、大学においても従来から唱えられてきましたが、特に今般のコロナ禍において、ICT教育・オンライン教育に取り組むべき優先度は飛躍的に高まりました。この間、多くの大学はオンライン教育の方法に関して、急速にそのノウハウを蓄積しており、さらに極めて頻繁にFDを重ねることで各教職員がこれを吸収しようとしていることです。大学の取組では、パソコン等の機材やアプリの活用は小・中学校に比べてはるかに多様であり、授業も数人のゼミから数百人を対象とする講義までありますが、その本質においては小・中学校での取組と共通する点もあります。
今後は、これらの取組の内容や成果をもとに、大学と小・中・高等学校等が連携を進めていくことで、例えば授業改革の可能性がいっそう広がっていくと思われます。とりわけ直接のつながりのあるところ、すなわち高等学校と大学の連携においてICT・オンラインの活用はスタンダードになっていくはずです。こうした意味からも、小・中・高等学校の教員も大学のFDやその成果に関心をもつ必要があると思います。
▼参考文献
文部科学省高等教育局・大学振興課・大学改革推進室「平成30年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)」2020年10月
絹川正吉・舘昭編著『学士課程教育の改革』(講座「21世紀の大学・高等教育を考える」第3巻)東信堂、2004年
文部科学省ホームページ「大学教員及びファカルティ・ディベロップメント等に関する参考資料」