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「総合的な学習の時間」はICT活用で授業時数確保へ

指導上、国語科、算数科最優先の学校現場。そのしわ寄せを受ける他の教科等もしっかりと指導するためには、さまざまな工夫が必要になります。授業実践例を基に、効果的な指導アイディアについて取材しました。

お話を伺ったのは…
神奈川県横浜市教育委員会指導主事 ・鈴木紀知先生

「総合的な学習の時間」効果的な授業ポイント
写真AC

ICTを活用した人との関わりと思考ツールによる整理・分析、表現活動の見直しによって大きく時間を圧縮

神奈川県横浜市は、総合的な学習の時間(以下、総合学習)の先進的な研究を行ってきた自治体として知られています。

その横浜市の研究校で長く研究主任を務めてきた、横浜市教育委員会の鈴木紀知指導主事に、過去の実践例を基に授業時数削減のポイントを聞きました。

「私は以前、横浜市立戸部小学校で三年生の担任をしていたときに、校区内の掃かもん部山公園の100周年にちなみ、そのよさを地域の人に伝える取り組みをしました。

最終的に『かもん山すごろく(以下、すごろく)』としてまとめ、地域に発信した、この実践に触れながら説明したいと思います。

総合学習の探究プロセスである『課題の設定』『情報の収集』『整理・分析』『まとめ・表現』に沿って、見ていきたいと思います。

いきなり趣旨に反するようなお話になりますが、『課題の設定』については、授業時数が削減されるとしても、しっかりと時間をかけて、大事にしたいところだと考えます。

私はこれまで、学級で学習対象を選定して単元を立ち上げる、学級総合に多く取り組んできました。その単元の立ち上げに際しては、一年を通してどんな力を身に付けたいか、そのために何をするかを子供たち自身が考えます。

『今、自分たちは、なんのために、何に取り組んでいるか』それを子供自身が自覚していることが、子供が主体的に活動を展開していくうえで欠かせないと考えてきたからです。

『すごろく』の実践は、『総合でも生活科のように地域とかかわって学びたい。掃部山公園は今年開園100周年を迎えるらしい。そのお祝いをしたい。掃部山公園が喜ぶことはなんだろう。たくさんの人が訪れることだ。そのために掃部山公園の魅力を発信しよう』そんなやりとりから活動が始まりました。

最初はカルタを作ろうという話からスタートし、カルタだと50音分だから、情報収集では掃部山公園について50個のいいところを見付ければよいと当面のゴールを設定しました。

しかし次第にカルタは札取りの巧拙もあり、みんなに楽しく遊んでもらうには、サイの目任せで小さい子と大人の差が出ない『すごろく』がよいのではないかという話が出ました。しかも『すごろく』だとカルタと異なり、公園を1枚の面で表せるわけです(下図参照)。

すごろく
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一方で『すごろく』だと伝えきれない内容があるという意見もあり、『それはカードにしたらいい』との意見が出て、止まった場所でカードを引いて、たくさんの種類のカードを集めた人の勝ちというゲームに決まったのです。

このように、表現方法は当初の想定と異なるものになりましたが、単元の立ち上げにあたって、子供の思考に沿って課題を明確にしたことで、真剣に追究する展開になったと考えます。

こうして子供たちが時間をかけて課題を設定し、試行錯誤しながら活動を展開していく一方で、教師の側はゴールに向かう最短距離をーメージしておくことが必要だと思います。学習の過程で育みたい資質・能力は何で、そのために最低限しなければならないことは何かを考えていくのです」

探究の各プロセスで時間の圧縮が可能

続く『情報の収集』『整理・分析』『まとめ・表現』についてはコロナ下という特殊性も考慮していくと、多くの時数削減が可能だと鈴木指導主事は話します。

「今年の特殊性があるからこそ可能なのは、情報収集のために人と関わる部分の時間圧縮です。もちろん人から話を聞くこと自体は大事なことなので、削ることはできません。

しかし例年なら2時間続きの時間で、話を聞く相手のもとに足を運んでいたところを、インターネット会議などの方法を活用してお話を聞くことができれば、大きく時間を圧縮できます。

あるいは街の人にアンケートをとるというとき、直接聞き取るのではなく、アンケートフォームを作って地区の回覧板にそのフォームにアクセスするためのQRコードを貼っておけば、子供たちが出かけて不特定多数の人と触れ合う危険性もなく、かつより多くの方に協力していただけるかもしれません。

そのようなツールの活用を検討することで、大きな時数削減が可能だと思います。

また『整理・分析』については、『すごろく』の実践では情報の中から何を選んで載せるかなどについて、繰り返し話し合っています。

ただし、そこも無尽蔵に時間を使ってよいわけではありませんから例えば、思考ツールを使ってシャープに議論をすることで、いくらかの時間圧縮が可能になると思います。

『まとめ・表現』は、最も時間の圧縮が可能な場面だと思います。これまで私が見てきた多くの実践では、例えば子供たちがペンを持って、模造紙に手がきで文章や絵をかいて表現する取り組みが多かったように思います。

しかしこの場面で育てたい力は何で、そのために何をすることが必要なのかの吟味が必要です。

例えば『すごろく』では、調べたことの中から何を選んで、いかに適切な文章を考えていくかということについては徹底して時間を使いました(下図参照)。

調べたことの中から何を選んで、いかに適切な文章を考えていくかということについては徹底して時間を使った
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しかし実際にすごろくやカードとして仕上げていく場面では、写真を活用したり、効率よく分担したりしました。

またイラストや字自体は手がきをスキャンしたものを使いましたが、それをパソコン上で加工し色付けなどもしています。もしこれを手書きで作ったら非常に長い時間がかかりますが、そこは削減可能です」

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