日米でこんなに違う!不登校に悩む子の救い方
不登校で苦しむ子の多くが、何らかの心の病を患っていると言われます。そのため、不登校問題の解決にカウンセラーが早期から関わることが望ましいのですが、日本では 米国に比べ、専門家が介入して対処することに関してまだまだ遅れている面もあるようです。
心理学の本場であるアメリカで心理カウンセリングを提供し、不登校にも詳しいカリフォルニア州公認心理カウンセラーの荒川龍也さんに、自身の不登校・高校中退などの経験と専門家の見地から、アメリカにおける不登校対策を紹介してもらい、日本の学校でも活かせるアドバイスをいただきます。
執筆/カリフォルニア州公認心理カウンセラー・荒川龍也
目次
求人雑誌の「高卒以上」の文字が辛かった
「学校に行かなくても大丈夫」
「他の生き方があるよ」
私が中学2年生で美術のクラスを登校拒否していた時期に、そして高校中退後に学校へ行かず心の病に苦しんでいた時期に、本当に耳にタコができるんじゃないかというくらい周りの大人から聞いた言葉でした。
「わかってくれてない」
大人に言われるたびに、14歳と16歳の私は思いました。
社会を知らない私でも、「学校に行かない」という選択肢、「レールを外れる」という選択肢を取り続ける事が、将来を全く約束してくれてはいないことに、うっすらとわかっていました。
そして、その”うっすらとわかっていること”を体で感じる最初の出来事が、高校中退後に起こりました。
何もしていなかった私はこのままではダメだと思い、求人雑誌に手を伸ばしました。しかし、どの募集要項を見ても「高卒以上」という文字が実際の活字以上の存在感を誇示し続けました。そのため、求人雑誌に手を伸ばす気力をいつしか失ってしまいました。
無責任な発言が不登校児を困らせる
誤解していただきたくないのは、私は「学校に行きたくない」のではなく、「学校に行けない」のでした。そしてほとんどの不登校児も同じです。誰だって友達とワイワイ楽しい時間を過ごしたい、誰もが皆と同じでいたいのです。誰も、好き好んで違う人や変な人になりたいわけではありません。それでも、私を含む「悩みを抱える」子たちは、教室の隅で膝を抱え、ワイワイしているクラスメートたちを見ることしかできないのです。
こういった深い心情を知らず、何もわかってくれていない大人が、自らは経験していないのに「不登校でも幸せ」と主張する度、「あなたは、私が大人になった時、社会に貢献できない人間になっていたら責任をとってくれるのですか」と問いただしたいと何度思った事でしょう。
アメリカでは不登校は違法扱い
日本の場合、小学生・中学生の不登校がどれだけの期間続いていても、親が行政から問題視されることは、ほぼないでしょう。
高校生の場合は、不登校になったら休学か退学という選択肢をとることになります。これは私の体験談で前述したように、本人にとって非常に過酷なシステムです。なぜなら今の日本では、高卒以上の資格がなければ、人生の選択の幅を狭める社会になっているからです。
それに比べて、アメリカの不登校対応のシステムはだいぶ違います。
アメリカでは、子どもが義務教育である小学校・中学校・高等学校に行かないという状態は違法であり、親の責任が厳しく問われます(注: 州によって年齢の差異がある。筆者はカリフォルニア州でカウンセリングを提供しているため、カリフォルニア州での例を挙げる)。実際に私が診ていたクライアントの親には、子どもが学校に何日も行かないからという理由で裁判所から罰金を命じられたケースもありました。このように、不登校という事態は社会的に許されておらず、子どもがある程度の日数を学校に行かない場合、学校側の介入が迅速に始まります。
また、高校に関して言えば、不登校になってもホームスクールというオプションが可能な地域もあります。さらに、日本でいう定時制高校のようなものがあり、辞めさせるのではなく、転校させて高校卒業資格だけは必ず取らせるようなシステムになっています。
アメリカでの不登校児の助け方
日本では、小学校や中学校に行く事を拒否する子どもに対して、教師が本人を説得したり、親に働きかけたりという対処の仕方がほとんどのようです。また、最近では心理カウンセラーに診てもらう事もあるようですが、本人に面会する意志がなければ、それ以上は踏み込めません。たとえ心理カウンセラーに診てもらえたとしても、家族カウンセリングまで行うことは少なく、結局は根本の解決につながりません。
それに比べてアメリカでは、専門家が学校と家庭にかなりの部分まで介入します。
不登校の日数がある程度続くと、まず学校と親とのミーティング(可能なら子供も参加)が行われ、なぜ不登校になっているのか、また、どういったオプションがあるのか、お互いの理解を一致させます。そして学校は、親子で心理カウンセリングを受けるように保護者に勧めます。なぜなら、不登校児は必ずと言っていいほど心の病で苦しんでいるうえに、その子の心の病の原因は、ほとんどの場合が親のしつけ方と家庭環境に起因しているからです。このように、必ず心理カウンセラーに診てもらう道が、アメリカではできているのです。
オプションは様々な事情によって違ってきますが、アメリカでは大きく分けて次の二つがあります。
一つは、学校と契約を結んでいるメンタルヘルスの会社がある場合。会社に所属する心理カウンセラーと、ファミリースペシャリストと呼ばれる専門スタッフ、そして必要であれば薬を処方する精神科医が、対応に関わります。
(注・ファミリースペシャリストとは、心理カウンセラーの指導の下、心の病で苦しんでいる子どもとの接し方を熟知し、どう接すれば子どもの心のためになるか訓練を受けた従業員のこと。ビヘイビアースペシャリスト、メンタルヘルススペシャリストなどと呼ばれることも)
彼ら三者が一つのチームとなって不登校児の救出にあたります。このサービスの最大の特徴は、心理カウンセラーやファミリースペシャリストが、クライアントの自宅や学校に行ってサービスを提供することができることにあります。
このサービスは不登校児とその家族にとって、かなり重宝されます。なぜなら多くの場合、不登校児というのは学校に行けないだけではなく、そもそも外に出るのを嫌がる子どもが多いからです。また、心理カウンセラーやファミリースペシャリストが、担任やその他の学校関係者と話をして、心理的アドバイスをすることもできます。それによって、学校関係者による不登校児への心の病に良くない言動を防ぐことができ、どうしたら子どもの助けになるかを指導することができます。
もう一つのオプションは、心理カウンセリングのクリニックに行くことです。学校がメンタルヘルスの会社と契約していない場合はこの選択肢になります。
この場合、多くの心理カウンセラーは学校や自宅に行ってカウンセリングを提供するという事まではしませんが(注: 筆者はしている)、すでに資格を持ち何年もの経験を積んでいるという点がメリットとして挙げられます(前述したメンタルヘルスの会社に属する心理カウンセラーの多くは、まだ資格を持っていないことが多い)。
メンタルヘルスサービスの家族への介入が不可欠
私が今まで診てきた不登校児(日本人もアメリカ人も)の全ての子どもが、精神障害の診断名がつくほどの心の病に苦しんでいました。
例えば、ある小学生の女の子は、友達と教師との人間関係に苦しみ、パニック障害を患ってしまいました。また、別の小学校低学年の女の子は、分離不安に苦しんでいました(注:分離不安は、恐怖や不安が原因で親から離れることができず、保育園・幼稚園・学校に行けない状態で、特に保育園・幼稚園児や小学校低学年の子供に見られる心の病。日本では「無理に行かせなくてもいい」という傾向にありますが、実はこの方針では、非常に多くの場合、この病を悪化させてしまいます)。
そして、ある高校生の男の子の場合は、うつ病と不安障害に苦しんでいました。私自身も中学生の時、そして高校を辞めてから定時制高校に再入学するまでの間は、不安障害とうつ病を患っていました。
そのような場合、不登校と心の病をセットで考えます。心の病に目を向けそれを治療しない限り、不登校が解決し学校に行けるようにはなりません。つまり、心理カウンセラーによる治療が必要不可欠なのです。
また、前述した症例の全てにおいて、親による対処法、しつけの仕方、家でのルール、子どもへの接し方などが、不登校を生み出す原因となっていたり、問題をさらに悪化させたりしているのです。ここが変わらなければ、心の病も不登校も改善は見込めません。私は、子どものカウンセリングをする際に「親が変わらなければ子どもは変わりません」と最初にはっきりと保護者へ申し上げます。つまり、心理カウンセラーによる家族への介入と、それにともなった親自身の変容も、不登校解決の必要不可欠なファクターなのです。
ヒーローは何人いてもいい~教師の役割
ここまで読んでいただき理解していただきたいのは、不登校児に対してメンタルヘルスの専門家の介入は必要不可欠であり、それがなければ不登校を解決する事は非常に難しいという事です。とはいっても、教師が何もできないかと言えば、そうではありません。
まず、教師にできて、他のどの専門家にもできない事があります。
不登校は突如そうなるものではなく、なってしまう前に必ず兆候があります。児童生徒と毎日顔を合わせている教師なら、子どもたちの小さい変化に気づき、見逃すことなく、軽視することなく、心の病のサインを早期発見することができます。
そして、不登校と子どもの心の病の解決に欠かせないのは親が変わることですが、この親の成長を教師が手助けすることもできます。
さらに、心の病についての知識がなくても、教師ができる、シンプルそうで実はかなり難しい重要な事があります。それは、子どもの話を聞いてあげることです。専門的な言葉を使えば、「傾聴」と言われるものです。ただし、一口に傾聴といっても、実際は簡単な事ではありません(これら3点については、別の記事で後日解説いたします)。
良くも悪くも、教師にできることはこの3点のみです。ただし、この3点は非常に重要です。
まず、心の病の前兆をできるだけ早く発見し、心の専門家につなげることで、不登校になってしまう前に防ぐことができるかもしれません。また、家庭に介入し、親の子育て・しつけ方を変えさせるのは、見ず知らずの心理カウンセラーよりすでに信頼関係が築けている教師の方が、うまくいく可能性が高いのです。これもまた不登校防止につながります。
そして、教師は、味方であることをわかってもらうために話を聞くという姿を見せる事で、真っ暗な世界で孤独を感じ続ける子どもにとっての光輝くヒーローになってあげることができるのです。
実際、私が中学で不登校だった時に、「なぜ学校に行かなければいけないのか」を説明してくる大人の話は全く耳に入りませんでしたが、「なぜ学校に行きたくないのか」を尋ねて私の話をじっくり聞いてくれた先生には、たとえ同じ事を言われても心にしっかりと入ってきました。そして、何よりも「味方」であることを実感できました。その先生は私にとってのヒーローだったのです。
荒川龍也(あらかわたつや)
カリフォルニア州公認心理カウンセラー(LMFT #82425)。富山生まれ、名古屋育ち。10代でいじめや教師からの体罰に苦しむ。中学時にはいじめが原因で一部クラスを不登校。小学校高学年頃から精神的な病を患い、16歳で高校中退。2年間のカウンセリングのおかげで、定時制高校に入学。愛知県の大学院教授からアメリカの心理学は日本より100年先を進んでいると聞き、心理カウンセラーを目指して渡米。カリフォルニア州立フラトン校大学院カウンセリング専攻卒業。大学院卒業後、3000時間のインターン時間を終え、国家試験を二つ合格し、現在のカリフォルニア州公認心理カウンセラーの資格を取得。子どもとその家族、重度の精神障害者とその家族、薬物中毒のクライアント等、多岐にわたり経験を積む。現在はカリフォルニアのロサンゼルス近郊で開業し、カウンセリングを提供。専門は、子どもとその家族、不安とうつ病。
ウェブサイト japanlatorrancecounseling.com