コロナに負けない学力づくり① どの子も計算力をつける「さかのぼり」
コロナ明けで授業の遅れを取り戻すため、スピードを上げて授業を進めている先生も多いことでしょう。しかし、積み上げ型の教科である算数では、1か所つまずいてしまうと、その後もできないままになり、学力は身に付きません。特に基礎計算でつまずいていては、算数の理解は困難になります。既習の内容にまでさかのぼってくり返し学習し、苦手をつくらない算数授業を行っていきたいものです。withコロナでも短時間で無理なく取り組める学習法を紹介します。
大阪府公立小学校教諭・岡本美穂
目次
さかのぼり学習のススメ
コロナの影響を受けて算数の日々の授業をどうにか進めることだけで精一杯になってしまい、「学力づくり」にまで意識がいかないのが現状です。
算数で一番大切にすべきことーーそれは「できる」という実感です。他の教科に比べると、友達との差も感じやすく、学年が上がるにつれて苦手と感じる子どもが増えていくものです。だからこそ日々の授業のなかでいかに「さかのぼり」学習を無理なく行えるのか、またそれと並行して新しい単元をどう学習していくのかが問われていきます。
さかのぼり指導とは、前学年まで学習した計算問題で、苦手な課題のおさらいをして、できるようにしようとする取り組みです。
算数は、未習事項を、既習事項に置き換えて考えるという特質があります。例えば、整数のわり算が苦手な子は、小数のわり算も苦手です。
くり上がりの計算とかけ算九九ができないと、けた数の多いかけ算や、わる2けたの計算ができないのは当然のことです。学年にかかわらず、苦手なところからおさらいをすることが、計算力をつけることにつながります。
そこで、まずは子どもたちの実態調査を行います。
子どもたちの計算力を知るには、「計算実態調査」を行うのが有効です。「徹底反復・新計算さかのぼりプリント」(1年~6年/小学館・久保齋)の各学年10題のプリントがおすすめです。
※「徹底反復・新計算さかのぼりプリント」は在庫僅少です。
算数の”健康診断”から始めよう
子どもたちには、「今からする計算のプリントは『健康診断』ですよ」と言っています。さらに、次のように話します。
「体がしんどい時に、病院に行って、どこが悪いか診てもらいますね。悪いところが見つかったら、そこを治すために、治療をしたり、薬を飲んだりします。おなかが痛いのに、頭痛の薬を飲む人はいませんよね。勉強も同じです。苦手なところはどこかを自分自身が知ることは、大切なことです。何となく、よくわからないけど算数が苦手だ、計算が遅いと思うのではなく、自分がどの計算ができて、どの計算が苦手なのかを知ることが、算数を得意にすることにつながるのです。」
と伝えます。自分のできることとできないことを自覚し、できないことをできるようにすることが、学習の基本です。計算力の差が、授業のリズムやテンポを乱すことにもつながります。そして何よりも子ども自身が「できない」と理解し意欲が低下していってしまいます。
今すぐできる! さかのぼり指導の方法
子どもたちの実態がわかると、さかのぼり指導を始めます。方法は、大きく分けて2つあります。
さかのぼり指導方法① 基礎計算の習熟を授業の最初に行う
授業の最初5分は「基礎計算タイム」とします。
参考資料:学力研ホームページ 「基礎計算カリキュラム」「算数アクティブ授業術」(岸本ひとみ/図書啓展 フォーラムA)
正確に
「なぜ百ます計算をするのか?」
例えば3年生で考えてみましょう。3年生になると割り算の学習が始まります。ここでつまずく子どもたちに共通していること、それはかけ算でつまずいているということです。
毎時間算数の時間を使って百ます計算に取り組むことを説明します。子どもたちの納得は学習への意欲につながります。ただ単にタイムを伸ばせばよいのではく、正確に速く計算ができることが大事なのだと確認しながら指導を進めていきましょう。
そして、百ます計算をした後には必ず答え合わせをします。間違いのない子どもにはタイムを伸ばすように指導し、間違いのある子どもについては、苦手な計算の傾向を把握して、個人的に指導をするようにします。
「100マス計算指導の心得7カ条」
参考資料:学力研HP「100マス計算指導の心得7カ条」より
1. なぜ百ます計算をするのか、趣旨をしっかりと説明する
2. 全員でできるようにしてから鍛える
3. きのうの自分に勝つことをめざさせる
4. タイムが伸びない子の問題点を克服する援助をする
5. 目標を一つずつクリアーし、達成感を共有する
6. 評価の方法を進化させる
7. 親を巻き込んだ教育運動にする
比べない
子ども自身に自分の伸びが実感できるように、タイムを記録するように伝えます。これは、子ども達の小さな変化に気づき、しっかりほめてあげるための材料になります。
はやくできた子どもは、2回目、3回目にチャレンジし、みんなが5分以内にできることを目標に取り組みます。昨日の自分と比べながら、友達とは比べないことの良さを指導します。
期間限定で取り組む
子どもの伸びを教師と子ども全員で共有し、目標達成に向けて着実に前進していることをみんなで喜ぶ雰囲気を作っていくことが大切です。
百ます計算は、かけ算、たし算、ひき算の順にするのが、子どもたちの抵抗感がなくていいです。それぞれ、10回ずつ2週間で行うだけでも、かなりの効果があります。
コツコツ取り組む様子は、学級通信でも発信し、家庭に子どものがんばりを伝えるようにします。
学級で取り組む基礎計算は、学級の熱気を生み、頑張る子どもを励ます光景も見られます。学級づくりにつながります。
さかのぼり指導方法② つまずいた箇所の類似問題のおさらい
「ポイント練習」とも言います。
例えば、くり下がりのある引き算が苦手な子どもが多い時は、プリント学習だけで終わらないで、計算の仕方を一斉指導をします。そうすると、以前習ったときに、わかりにくかった子どもも、わかる可能性があります。
日々の授業を、こなすだけで終わってしまっていないでしょうか。ちょっとしたコツで子どもたちは「できる」ようになります。子どもたちを信じて今こそ教師も知恵を出し合いたいものです。
岡本美穂●「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(学力研)」の若きリーダーとして、「キラッキラッな子供たちの姿」を追い求めた学級経営を実践。著書に『子どもの力を引き出す板書・ノート指導の基本とアイデア』、『学び合い、支え合い、高め合い「あいの力」で子どものやる気を引き出す授業術』(ともにナツメ社)などがある。