小6道徳「手品師」指導アイデア 誠実な生き方について合意形成を目指す

小6道徳|教材「手品師」における対話的な道徳の授業づくりのイメージ画像
写真AC

執筆/大阪府公立小学校・金大竜

教材名:「手品師」(日本文教出版「新・生きる力」)

内容項目:誠実に、明るい心で生活すること A[正直、誠実]

授業の設計をする前に、内容項目について考える

道徳の授業を考える際には、授業の中身を考える前に、まずは内容項目について考えるようにしています。「手品師」の内容項目は、「誠実に、明るい心で生活すること。(A 正直、誠実)」です。

では、「誠実」とはなんでしょうか。辞書を引くと「偽りがなく、まじめなこと。真心が感じられるさま」とありました。さらに、「真心」を引くと「偽りや飾りのない心。真剣につくす心」とありました。

「手品師」の主人公の行動は確かに誠実です。それは間違いありません。しかし僕は、手品師の行動とは反対に、たとえ人との約束を破ってしまったとしても、自分の夢を追うことは、「誠実」で「真心」がある行為なのではないのかと考えます。

僕個人は、日本の道徳の教科書には、「自己犠牲、他者愛」を促すような教材が多いように感じています。だからこそ、そのような教材については特に、「本当にそうなのか?」と考え直すようにしています。そうして、様々な角度、立場からできる限りの考えを出します。

そうしたことを十分にした後、授業の最後にどのような話合いをすればそのような考えが出るのか、その話合いをしたくなるには教材とどのように出合い、どの部分をメインに扱うのかを考えます。

つまり、本時の内容項目に関して自分で考えた後、授業のゴールからスタートに戻っていきながら考えるイメージです。

思考が続くよう、授業をすっきり終わらせない

僕の考えた「手品師」の授業の展開では、子供たちが「手品師が選ばなかった行動は誠実ではないのか」と考えますが、それに答えはありません。答えを出さないまま授業を終えるので、子供たちはモヤモヤします。

こうして一見、当たり前だと思うことも、本当にそうなのかと考えることで思考が深まり、理解が深まります。大切なことは、そのことに問いを持ち続けることではないでしょうか。

すっきり終えるとそこで思考は止まります。モヤモヤすると、休み時間に友達と、家では家族と話す姿が見られるでしょう。このように思考が続くようにするのが深い思考のスタートだと考えています。

さらに自分とは違う考え方が、一定数は存在することを度も体験することで、世の中の問題は答えが一つではないこと、多様な面から常に考えることが求められること、考え・議論する必要があることを子供自身が感じ取れるようにしていきたいのです。

教材文をどこで扱うのかを考える

道徳科になり、教科書を使う必要が出てきたことで悩んでいる先生方が多いと聞きます。僕自身は次の5つのパターンで道徳の授業を考えています。

▼道徳の授業で用いる5つのパターン

①教科書を45分で扱う。
②導入で教科書を扱い、その後は自主教材などで他の活動をする。
③中盤で教科書を扱い、その前後は他の活動を行う。
④終盤で説話的に教科書を扱い、それまでは他の活動を行う。
⑤45分間、自主教材で行う。

今回紹介する授業は③です。授業の始まりでは、「『誠実な行動』とは何か?」と子供に問います。ここで子供たちから出てくる意見は、他人に対しての誠実な行動ばかりです。それらを板書しておきます。

授業の展開

1.『誠実な行動』とは何か?を子どもに問います。この時、子供たちの意見を板書しておきます。

2.「では、今から読むお話の主人公は、『誠実』かどうかを考えながら聞いてくださいね」と話し、「手品師」を読みます。

3.読み終えたら、さっとあらすじを確認し、「この手品師は誠実ですか?」と問います。

4.子供たちは「誠実です」と答えます。数名、そうではないと言う子がいた場合も、「多くの人は誠実だと感じるんですね」と言い、次に進みます。

一人一人の考えを大切にすることはもちろん重要ですが、その必要がない場面では、あえてこのように深く話し合わず、流すことも必要です。

この授業では、この話の結末には、他にはどのようなパターンが考えられるのかを話し合います。子供たちに考えてもらい、発表してもらいますが、発表されたどの結末も、以下の4つのどれかに分類します。

▼4つに分類された他の結末

①少年との約束◯……夢×
②少年との約束×……夢◯
③少年との約束△……夢◯
④少年との約束×……夢×

「少年に置き手紙を残す」「知人にお願いし、少年に伝えてもらう」など、少年に伝える努力をするが、伝わるかどうか確実ではないものは、全て△に当てはまることを確認して③ということにします。

ここまできたところで、これまで自分の外側、自分とは距離のある話と考えていたことを、子供自身が自分ごととして引き寄せて考えられるようにします。

5.「自分なら、どれを選択すれば、その後、気持ちよく生きていけるのか考えて、①~④を並び換えましょう」と問い、個人で5分程度考える時間をとります。

個人で考えた後は、グループ4人で話し合います。その際には、個人での考えを聞きます。

6.「一番を①にした人?」と順に聞きます。

挙手してもらうことで、自分の考えと違う人がいることを知り、その後のグループでの話合いへの意欲を高めます。

7.「『人として、どのように生きるのがよいか?』ということに対して合意形成をしてください。まずは、一人一人の考えを発表してください。この時には、まだ反論や質問はなしです。その後、4人で合意形成に向かって話合いを進めてください。早く終わったグループは、他の班を説得できる理由を考えてください」と、4人での話合いで伝えます

話合いでは10~15分の時間をとります。話合いが終わったら、それぞれのグループの意見を発表してもらいます。

授業の終末に向けて

この話合いは、合意形成に向けて子供たちそれぞれの価値観が表出し、ぶつかり合うことを狙っています。他者との交流により、各々の価値観によって選択が違うこと、それらに対しては簡単にどちらがよいと判断できないことを感じられるようにします。 

合意形成は、大人でも難しいと思います。ですから、この1回でできるわけではありません。道徳に限らず、様々な教科で合意形成に至るまでの技術を指導しながら、経験を積んでいくことが大切です。下の写真は、話合いの振り返りの視点を子供に提示する時に使っているものです。

▼学びの振り返りの視点

振り返りの視点

この授業の最後には、「自分の選択と違う友達の選択は、誠実な行動だと思いますか」と問います。この話合いでは、「②少年との約束× 夢◯」が焦点となります。

ここでは、子供たちから「やはりこの行動は誠実ではない」という考えと、「自分に対して誠実だ」という考えが出てきます。この時間内で決着がつかなくても構いません。

それぞれの考えにそれぞれの誠実さがあること、そして、その考えを尊重し合うことで、それぞれが誠実に、明るい心で生活できることに気付けるようになればいいなと思いながら、教師は特にどちらがいいとは話すことなく授業を終えます。

▼板書例

板書例
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子供たちの評価について

この授業のはじめには、のように考えている子供が多くいます。それがこの授業を通して、自分の考えとは異なる考えと出合い、のように変容していくことが考えられます。

▼考えの変容


・誠実とは、他者のことを思いやる行動だ。
・人とした約束は、どんなことがあっても守った方がよい。

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・誠実さを考える際には、他者を思いやりつつ、自分も納得できる行動であるかを考えることが大切だ。
・誠実には、いろいろな形があり、それぞれの理由や考えがあるんだな。

子供たちのワークシートからこのような変容が分かった場合、通知表の所見には以下のように記入します。

▼通知表の所見

「誠実な行動」とは何かを話し合う中で、他人だけでなく自分に対しても誠実だという視点があることを知りました。
また、自分と考えが違ってもそれぞれの考えに根拠があり、そこを大切にして話し合うことの重要性を感じることができました。

この授業の指導案はこちらよりダウンロードできます

【執筆者プロフィール】

大阪府公立小学校・金大竜
キム・テリョン。1980年大阪府生まれ。日本一ハッピーな学校をつくることを夢見る小学校教員。「ハッピー先生」と呼ばれる。教育サークル「教育会」代表。著書に 『「気になる子」「苦しんでいる子」の育て方』(小学館) 『日本一ハッピーなクラスのつくり方』 『「学級通信」にのせたい 子どもの心を揺さぶるメッセージ』 (明治図書出版)など。

『小六教育技術』2018年12月号より

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