タブレットのカメラ機能活用アイデア10選〜郡山ザベリオ学園小学校・大和田伸也先生のICT実践例
2020年スタートのGIGAスクール構想が目指すタブレットやPCの1人1台体制。とはいえ、それが実現できている学校はまだ多くはありません。それでも、何人かに1台、あるいはクラスに1台タブレットがあれば、工夫次第で子どもたちの学びを進化させるICT活用が可能です。
例えば「カメラ機能」を使うだけでも、学びの幅が大きく広がります。郡山ザベリオ学園小学校の大和田伸也先生は、カメラで撮った写真や映像を生かした授業を実践しています。
同校の教育ICT活用の取り組みをYouTubeチャンネルiTeachersTVでのプレゼンテーションで紹介した大和田先生に、今回は特にタブレットの「カメラ機能」を使った授業実践について話していただきました。
大和田伸也(おおわだ・しんや) 郡山ザベリオ学園小学校教諭。卒業記念品として贈られた6台のiPadから、ICT教育の可能性を模索しはじめる。福島県郡山市から世界に飛び出す子どもたちを育てるために、世界のICT教育を日本の教育にどう取り入れていくか、未来を見据えた授業づくりの研究を続けている。Apple Distinguished Educatorとして2019年からより精力的に活動中。
目次
さまざまな授業で使える「カメラ機能活用アイデア10選」
郡山ザベリオ学園小学校では、各クラスにプロジェクタ、電子黒板、そしてPC1台とiPad1台が設置されています。また、共用iPadは、2020年度から全校で51台になりました。子どもたちはこのiPadを個人用のアカウントで利用しています。
カメラ機能は、タブレットが教室に1台でも1人1台使える状況でも活用できるので、低学年から高学年まで、さまざまな教科で利用しています。
アイデア1:動画でビブリオバトル
2年生 国語/1人1台利用
子どもたちが自分のオススメの本を紹介し合って一番読みたい本を決めるビブリオバトルを、動画を使って行いました。
きっかけは、いつもはペアでアドバイスし合って行っていた発表の練習を、密を避けるため1人で動画を撮りながら行ったことです。子どもたちがとても真剣にビデオ撮影に取り組むのを見て、ビブリオバトルの予選会を動画で行うことにしました。
まず何度も撮影した自分の本の紹介の映像から一番よいものを選んでもらい、それをグループで観て投票し、代表者を選出。そして、決戦は、広い部屋でスペースを空けて、ビデオで選ばれた子どもたちがリアルタイムの発表をしました。
アイデア2:図書館ビンゴゲーム
2年生 学活・国語/1人1台利用
まだICT機器を使い始めて日の浅い2年生にiPadの操作を習得してもらうという目的も兼ねて、カメラ機能を活用した図書館ビンゴゲームを行いました。子どもたちは、図書館に行って「主人公が男の子の本」や「アメリカの本」などのテーマに沿った本を探します。それをカメラで撮影して、あらかじめ教員がKeynoteで作ったビンゴのフォーマットに当てはめていきます。
子どもたちは協力して本を探したり、お互いに写真を撮り合ったりして楽しく学習しました。図書館についてさらに知ったり、本に親しむきっかけにもなりました。ビンゴのテーマはいろいろ考えられるので、国語以外の授業にも応用可能です。
アイデア3:マジックビデオ制作
2年生 プログラミング/1人1台〜複数人で1台
プログラミング的思考の基礎を学ぶために、カメラ機能とiPadアプリのClipsを使ってマジックビデオの作成に取り組みました。場面の一部が一瞬で変わってマジックのように見えるビデオです。
まず教員が、2つの映像をつないでサンプルビデオを作って見せます。子どもたちは、全体の流れをイメージし、どのような映像をどう撮ればマジックのように見えるのか試行錯誤して、ビデオを作成しました。
その結果、オリジナリティ溢れる「自分自身が消えるマジック」や「座っている椅子が消えるマジック」が誕生しました。
アイデア4:似顔絵で作るクラスの集合写真
2年生 学活/1人1台利用
写真を撮り、KeynoteとApple Pencilを使って、自画像作成に挑戦しました。低学年の児童が鏡を見て自画像を描くのは簡単ではありません。でも、写真の画像の色を薄くしてトレースすれば、自分にそっくりな自画像を作ることができます。
その自画像を集めて、クラスの集合写真を作りました。するとなんともいい味が出て、子どもたちはそれを見てチームとしての一体感を抱いたようです。作った自画像は、他でも使うことができます。例えば、みんなで意見を共有した時に「いいね!」マークの代わりに使ったりしています。
アイデア5:自分の考えをみんなと共有
2年生 国語・算数/1人1台〜複数人で1台
子どもたち一人ひとりがノートに書いた自分の考えをカメラで撮影すれば、一瞬でクラス全員と共有することができます。1人1台タブレットがない時も、例えば算数の授業では、子どもたちの問題の解き方のアイデアを教員が撮影し、ホワイトボードにミラーリングしました。そして、何人かの児童にタブレットを渡して、ノートの写真に書き込みながら発表してもらいました。
自分が書いたノートなのでスムーズに説明ができ、多くの児童の意見を聞くことができました。この発表方法は、子どもたちのモチベーションを高めます。また、自分の考えを見いだすのが苦手な児童も、友だちと意見を共有して授業に参加できるようになり、自信を持つことにもつながります。
アイデア6:朗読発表会を録画・合成技術で映像制作
2年生/クラスで1台
教員が、子どもたちの朗読発表会をグリーンスクリーンを使ってビデオ撮影します。その映像を、合成技術で物語の世界と組み合わせ、編集して子どもたちに見せました。
自分たちが朗読した世界が映像で見えたことで、内容の理解を深めることにつながりました。また、緑の布があれば簡単に合成ができることを知った子どもたちは、「あれもやりたい」「これもやってみたい」とどんどん自分たちでクリエイティブなアイデアを出してきました。次の段階では、子どもたちに映像の合成にも挑戦してもらうべく計画中です。
アイデア7:タイムラプス機能の活用
2年生/クラスで1台
カメラのタイムラプス機能もよく使います。今見ているものが、時間の経過とともにどのように変化していくかを確認するのが目的です。
例えば、クラスで育てているミニトマトが週末にどのように変化するかを見るため、カメラをタイムラプスに設定してオンにしておきました。その結果、26秒間でトマトの週末の変化を見ることができました。
インターネットにも同様のビデオはありますが、実際自分たちが育てている植物の変化を見るほうが自然な理解につながります。この他にも、生き物や雲、図工の作品作りの過程、朝から夕方までの様子など、タイムラプスを使ってさまざまなものの変化を観察できます。
アイデア8:ストーリーテリング・動画でメッセージを伝える
5年生 国語/グループで1台
高学年になると、自分の考えや意見を書く機会も多くなります。しかし意見文は身近なものではなく、堅苦しくてメッセージが伝わりにくいと感じる子どももいることに気づきました。そこで、グループで動画を制作し、自分たちのメッセージを伝えてもらうことにしました。
もちろん、書いて伝えることも大切なので、子どもたちはまず一人ひとり意見文を書きます。それをもとに、同じ考えを持つ同士が3人から5人のグループを作り、協力して自分たちの考えを伝える映像作品の制作に取り組みました。
まず本当に主張したいことを映像で伝えるために、意見文で書いた長い文章から必要最低限のことばを抽出していきます。長い作文に苦戦していた子どもたちにとって、短いことばで伝えることも難しいというのは、意外な気づきでした。自分たちのメッセージをどうしたらわかりやすく伝えられるか、子どもたちは試行錯誤して映像を完成させました。
文を書くことが苦手な児童も、新たな自己表現の方法を知り、国語の授業を新鮮に感じることができたようです。
アイデア9:詩の朗読の映像作品を作る
6年生 国語/グループで1台
国語の授業では、「詩を読んで味わう」活動がたびたび行われます。ただ高学年になると、人前で読むことに抵抗を感じたり、音読に目的意識を持つことが難しくなってきたりします。
そこで、この活動をより楽しんでもらうために、詩を朗読して録音し、その情景にあるような写真を自分たちで撮影して重ね合わせた映像作品を作るグループ活動を行いました。そして「作品鑑賞会」を開いて、作り上げた作品をみんなで見る場を設けました。
単に詩を音読するだけでなく、作品として仕上げる活動は子どもたちのやる気に火をつけ、みんなとても意欲的に創作活動に取り組みました。写真の持つ力にも気づき、自分の詩や俳句などを創作するときにも、作品の背景として写真を活用するようになりました。この活動を通じて、子どもたちは「創造」を本当に楽しめるようになったと思います。
アイデア10:古典芸能を体で表現する
6年生 国語/グループで1台
日本の古典芸能は、子どもたちにとって馴染み深いものではありません。聞きなれないことばがたくさん出てくるので抵抗を感じるようです。6年生で学ぶ狂言の「柿山伏」も、面白さが理解できない児童が多くいました。
そこで、音読するだけでなく、古典を体で表現する作品作りにグループで取り組みました。できあがった作品は鑑賞会を開いてみんなで見ることにしたので、子どもたちは少しでも完成度の高い作品を作ろうと、さまざまな工夫をしました。
その結果、古典への抵抗感が取り除かれ、面白さにも気づくことができたようです。鑑賞会でお互いの作品を見て、声を出して笑っている子どもたちが多かったのが印象的でした。
どんな端末にも必ずついているカメラ機能は、使い方次第で子どもたちの創造力を伸ばし、学びを深めるための強力なツールになります。これからもさまざまな活用方法を考えていきたいと思っています。
取材・文/石田早苗