プログラミングの知識を使って作文学習〜関西大学初等部・堀力斗先生のICT実践例
2020年度から小学校のプログラミング教育が必修化されました。プログラミングを教えることに不安を抱えたまま新年度を迎えてしまった先生や、コロナ休業の影響でまだプログラミング授業を本格スタートできていない学校も少なくないと思われます。
一方で学校によっては、すでに数年前からプログラミング授業を導入しているところもあります。関西大学初等部では、1年生から6年生まで全学年の子どもたちが、総合的な学習の時間などを使って、プログラミング学習に取り組んできました。
今回は関西大学初等部の堀力斗先生に、プログラミングで学んだ概念を小一国語の作文の学習に活かす実践について、YouTubeチャンネルiTeachersTVでのプレゼン動画および追加取材をもとに紹介します。
※iTeachersTVは、教育ICTを通じて新しい学びを提案する“iTeachers”のYouTubeチャンネルです。ICTを活用して授業に取り組む先生たちがその実践を紹介しています。
目次
アンプラグドでプログラミングの概念を理解し、身につけた思考方法を他の教科に応用する
関西大学初等部では、プログラミング的思考と各教科の学習との関係について、「教科の内容があって、そこにプログラミング学習を組み込んでいく」のではなく、「プログラミング学習を通して汎用的な思考スキルが獲得されて、それが教科の内容に活かされる」と考えています。本校では、「思考スキル」の習得を大切にしていますが、「プログラミング的思考」も同じく「考えるわざ」だと捉えているのです。
子どもたちはプログラミング学習で「デバッグ」(コンピュータプログラムのバグ・欠陥を発見し修正すること)、「シーケンス」(手順)、「ファンクション」(機能)、「条件分岐」(プログラムにおける処理の分類のひとつ)など、さまざまな概念を学びます。その概念を具体的にイメージしてもらうために、授業ではアンプラグド(電子機器を使用しない)な体験的な活動を行います。
例えば、「デバッグ」の概念を理解するには、自分たちが持っているものすべてを使って23センチぴったりの高さを作るグループ活動を行います。問題を解決するために、うまくいかない何かがあり、それを取り除きながら試行錯誤してゴールに近づくという体験で子どもたちは「デバッグ」の意味を理解していきます。
このアンプラグドの活動では、子どもたちがよりクリエイティブに考え、オリジナルな何かを作り出せるようになることを重視しています。
プログラミング的思考が身につくと、それを他の教科の授業に応用することができます。総合的な学習の時間で学校近くの川の環境改善運動に取り組んだ6年生は、地域の人の協力を得るためにポスターを作りました。
このポスターを商店街で貼ってもらうための計画書を作成するにあたり、子どもたちは、「条件分岐」の考え方を活用。「もし直接許可を取りに来るように言われたら」「もし許可がもらえなかったら」などさまざまな条件を設定して、どんな状況にも対応できるプランを考えることができました。
「朝起きてから学校に来るまで」という「シーケンス作文」の書き方を学ぶ
また1年生の作文の授業では、プログラミング学習で「シーケンス」という概念を習得した子どもたちが、その考え方を使って順序立ててものごとを説明する文を書く学習を行っています。
小学校1年生の段階で、まず作文として書き始めるのは、トピック型の作文です。これは、「一番たのしかったのは、○○です。どうしてかというと ……」という、書きたいことを一つにしぼって、その理由を挙げていく作文です。絵日記も、この形にあたります。
しかし1年生の子どもたちにとって、トピック型より高度な思考が求められるのは、経験したできごとを切り取って、順序にそって説明していく形の作文です。私はこれを「シーケンス作文」と名付けています。
「シーケンス作文」の授業で、子どもたちは「朝起きてから学校に来るまで」というテーマで作文を書くことに取り組みました。
まず、作文を書き始める前に、「はみがきをする」という体験を例に、それをどう書くかについて考えます。子どもたちは、それぞれの動作を細かく書くことはできます。そこで、何を書けばわかりやすく伝わるか、その切り分けと、「つぎに」「そして」「そのあとに」「さいごに」などの順序を表す言葉を組み合わせることを確認します。プログラミングで「シーケンス」を学んでいるので、子どもたちは、この流れをスムーズに理解することができました。
ここで、子どもたちに「朝起きてから学校に来るまで」という題を提示します。そして、この作文の目的は、体験したできごとを、「順序通りに体験を書いていくこと」だと伝えました。
この時、自分が体験したことをシーケンスとして分けていきます。その一つ一つが「だんらく」であることも押さえます。1年生にとっては、段落の概念をつかむのはとても難しいのですが、プログラミングでシーケンスを学んだことが役に立ちました。
さらに、イメージマップを使って自分の体験を書き出していくことも教えます。
シーケンス作文はどんなふうに書けばよいかについては、ルーブリック(評価基準)で示して共有しました。
自分の体験したことを広げていって、順番をつける。それを組み合わせることで作文が仕上がるということを子どもたちは学びました。「シーケンス」の学習で身につけた思考方法を、国語の授業で活かして学ぶことができたと思っています。
コロナ休業体験を活かして、よりクリエイティブな学びの実現へ
新型コロナによる休校という形で始まった2020年度、関西大学初等部では、Zoomやロイロノート、iTunes Uを使いながら、双方向・同時につながる授業、動画によるオンデマンド授業、オンラインで課題を提出してフィードバックするなど、さまざまな方法を組み合わせ、ICTを活用して授業を行いました。
主要教科の学習を優先させたため、プログラミング授業は、今回の遠隔授業では実施していません。ただ、第二波への備えも含めて、今後は家庭でも取り組める方法を検討しています。
オンライン授業に取り組んでみて、遠隔だからこそできることは、一人一人の子どもに合わせた「学びの個別最適化」であると感じています。これからは、デバイスを活用しながら、よりクリエイティブな学びを実現する授業デザインを学校一丸となって作っていきたいと考えています。
* * *
以上、関西大学初等部で堀先生が行なっている、「シーケンス」というプログラミングの概念を作文の学習に活かす実践について紹介しました。数年前はプログラミング未経験で「自分がわからないものをどうやって小学生に教えるのか」不安だったという堀先生ですが、今はプログラミング的思考を活用して、子どもたちの学びの幅を広げています。
関西大学初等部で行われているアンプラグドのプログラミング学習、コーディングの実践、プログラミングのさまざまな概念の習得、それを他教科の学習で活かしている様子などについては、iTeachersTVの動画をチェックしてみてください。
取材・文/石田早苗