ぬまっち流の実践を自分のクラスでも成功させるには?|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
「ダンシング掃除」「勝手に観光大使」など、斬新でユニークな授業が新聞やテレビでも取り上げられ、講演やイベント企画も精力的にこなす「ぬまっち」こと沼田晶弘先生。今回は、「ぬまっち流の実践を自分の学級に取り入れたいが、うまくいくかどうか自信がない。成功のポイントは?」という先生の質問に答えていただきました。
目次
他の人の実践を真似をしても、うまくいかない理由
ボクは講演なんかでもよく伝えていることなんだけど、ボクのやり方をそっくりそのまま自分の学校に持ち込んだら、失敗する確率は相当高いよ。
失敗の原因は、僕の実践を、アレンジなしで実践してしまうから。
ボクは著書や講演会の中で、ボクの実践を紹介しているけれど、それは、あくまでボクとボクのクラスの子供たちのストーリーであって、学校の環境も、子供たちもそれぞれ違うでしょう?
例えば、新しい実践を容易にできる環境が構築できていない学校も多いはず。
ボクの学校は、国立の実験校として、教育理論の実験的研究をしたり、先駆的な教育スタイルを模索してきた歴史がある。だから、ボクがいろいろな実践を試すことができるのは、勤めている学校のスタイルに救われている部分もある。
学校環境だけでなく、地域の環境も違うだろうし、子供たちの現状も保護者のタイプもさまざまだよね。
だから、ボクの実践を、環境や状況に合わせてアレンジすることが大事なんだ。
自分がいる環境や、向き合う相手にしか
通用しないことがある
日本で人気のレストランも、店舗の味をそのまま海外に持っていっても失敗することが多いよね。それぞれの国や地域にはその土地独特の文化が必ずある。だから、店舗の味のエッセンスを生かしながら、地域に合うような味にアレンジするほうが当然成功率が高くなるよね。ボクは講演で全国を回っているけれど、講演する地域によって話し方や話すこともアレンジしているよ。
例えば、関西以南では、参加者もゲラゲラ笑ったり、突っ込みもあるし、「本当に楽しかった!」と直接言ってくれることも多いけれど、北に行くと、やっぱりお客さんのリアクションが薄くなる特徴がある。
北の地方の参加者はあまり笑ったりしないし、反応が薄く感じてしまうから、最初ボクは焦って空回りをすることも多かった。
でも、アンケートが熱いんだよね。
講演後にアンケートを読んで「なんだ~。だったらもっと安心して講演できたのに」って思ったりしたけれど、リアクションが薄いのは、奥ゆかしいだけなんだって気付いた。その特徴が分かってからは、講演するとき、「北の方はいつもリアクションが薄くて、アンケートが熱いんですよ。ただ不安になっちゃうから笑ってくださいね」とかいってその場を温めてみたりしたわけ。
それでも、その時は笑ってくれるけれど、その後はやっぱりあまり笑わない(笑)。
やっぱりその土地の特徴ってあるし、そもそもその土地の人は自分たちの特徴を自覚しているんだよね。だからそう簡単には変わらないわけだよね。
だからこそ、アレンジすることが大事なんだ。
自分がいる環境や、自分が向き合う相手にしか通用しないことがあるのだから、状況や相手に合わせて、自分が変わるしかないよね。
成功のポイント1
環境や子供に合わせて「状況アレンジ」
授業実践をアレンジするときに大事なのは、「状況アレンジ」と「自分アレンジ」。
「状況アレンジ」とは、その環境や状況に合わせてアレンジするということ。
ボクの実践が別の学校ですぐに適合するかは分からないよね。実際ボクだって、本当はやりたいけれど、自分の学校の方針に合わないからできないことはいっぱいあるよ。残念だけれど、それはしかたがない。
でも諦めるのではなく、どうアレンジすればできるか考えればいいと思っているんだ。
その学校や子供たちの現状に合わせて、やり方やルール、実践の規模なども、細かくアレンジすることで、トライするハードルも下がるし、協力してくれる人も増えるだろう。
もし、どんなやり方が合っているのかわからなかったり、自分のクラスだけ新しい取り組みをすることが難しい環境であれば、同学年の先生に、「いっしょにやりませんか」とか「こんなふうにしませんか」と相談してみたらいいんじゃないかな。どうすればできるのか、絶対に無理なのか、いろいろな角度から考えるヒントが見つかるかもしれない。
成功のポイント2
「自分アレンジ」で自分流のキャラ設定
「自分アレンジ」というのは、自分のキャラに合わせてアレンジするということ。
ボクの授業は、「MC型授業」と言われているけれど、ボクは自分のキャラに合ったやり方でやっているし、子供たちもボクのキャラを知っているから、うまくいっているけれど、このキャラ設定が誰にでも当てはまるとは思わない。
自分に合わないキャラを演じるのは誰でも辛いし、子供たちにも見透かされてしまうだろう。
まずは自分の性格や長所・短所を把握すること。
そして自己開示しながら、子供の反応を見て、自分に合ったキャラ設定をするとよいと思う。
そして、ボクの実践でボクが大事にしている視点や思考法はぜひ参考にしてもらいながら、実際に取り組むときの語りかけ方や、子供たちとのコミュニケーションの取り方は、自分流にアレンジしてみよう。
学校や地域の環境、子供たちの状況もそれぞれ違うかもしれないけれど、教師として子供を支える立場であることや、子供のやる気を伸ばしたいという気持ちは同じはず。
自分がやりたいなと思ったら、ぜひボクの実践のエッセンスを抽出して、それがどうすれば自分の置かれた立場や環境でできるかを考えてみたらいいんじゃないかな。
ボクが自分で考えるボクのいいところは、何か面白いと思ったらすぐに動き出すこと。良いと思った実践は自分のクラスにどんどん取り入れたい。
たとえ失敗したとしても、自分がいいと思うこと、興味のあることに向かって動いてみることは、絶対に成長につながるはずだよ。
だからボクだけでなく、いろんな人の実践を試してみてほしい。
アレンジした授業を、SNSなどで
紹介するときの注意点
ただし、誰かのやり方を参考にした授業を、SNS等に投稿する場合には注意が必要だと思っている。あたかも自分の考えた実践のようにして書き込むことで、トラブルになることもあるかもしれない。
授業を真似をすること自体は全然悪くはないと思うよ。
でも、SNSや雑誌などで紹介する場合には、誰の実践を参考にしているのか、引用元は入れておいたほうがいいと思う。
そうしておかないと、もし最初にその実践を考えた先生がその投稿を読んだら、当然良くは思わないだろうし、結局フォロワーも誰が最初に紹介した実践なのか、そのうち気付くから、信頼を失うことにもなりかねないよね。
それに、SNSの場合は、アレンジ元を記すほうが、その人のファンも取り込めるからメリットは大きいと思うよ。
例えばボクの実践を試してみて、「ぬまっちの授業をやってみました」ってひと言添えながら投稿してくれたら、ボクがリツイートしたり、コメントを書き込んだりできるから、ボクのフォロワーも反応するし、お互いにフォロワーを伸ばすことができる。相乗効果が高いよね。
これは、ボク自身いつも気を付けようと思っている留意ポイントでもある。どんなときも、発案者へのリスペクトの気持ちは忘れずにいたいと思っているんだ。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。
取材・構成・文/出浦文絵