字形が整う「ひらがなスキャン」【ぬまっち流】

国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

斬新な授業で、子供のやる気をグングン引き出すカリスマ教師「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生が、一年生担任必見のスゴ技「ひらがなスキャン」の技を伝授します!

低学年の担任なんて無理・・・
そう感じた年こそ転機の年だった

皆さんは、今年度、低学年を担任すると決まったとき、どんな気持ちでしたか? 「やった~!」と思いましたか? 僕は、これまで主に高学年を担任してきたので、昨年度初めて一年生の担任になったときには、「僕には無理だろう・・・」と正直ショックでした。

なぜなら、僕の得意とする実践がほとんど通用しないと思ったからです。僕の実践は、子どもたちに授業をさせたり、プレゼン力コンテストをしたりといった、言葉を通して伝え、子どもに自分で考えさせ、あとは自主性に任せて伸ばしていくというものがほとんどだったのです。

しかし入学したばかりの一年生には、「考える」ということがどこまできるのだろうと想像したとき、「僕の必殺技の八割がなくなった」と思いました。でも、考えてみると、数年前に二年生の担任になった時も、最初は同じ感覚でした。結果、それまで使っていた実践がそのまま使えなくなる代わりに、ブラッシュアップされたり、新たに生まれたりした実践もあったのです。

そのことを思い出し、「ここは勝負の一年。ターニングポイントになる」と考え、覚悟を決めました。今回は、やや型破りではありますが、僕なりに工夫して成果を感じた、低学年向けのユニークな実践を紹介します。

子どもたちに期待することと
学級を支えるルールを伝える

僕は、新学期の最初のあいさつで、名前、年齢を言った後、いつも「このクラスでは何でも自分たちでやってもらいます。これから一年間先生と一緒に世界一のクラスを作りましょう」と宣言します

この「世界一のクラス」というキーワードは、一年を通して、何度も使います。子どもたちが大人になって、クラスメイトと会って小学校時代の話になった時、「私たちのクラスって本当に楽しかったね」「世界一のクラスだったね」と語り合えるクラスにしたいという気持ちがあるからです。

次に、「先生は、次の二つのことで怒ります。一つは危ないことをした時、二つ目は嘘をついた時です」とはっきり伝えます。「失敗することに関しては仕方がない。誰も最初から失敗しようとは思ってないから。でもその失敗を隠したり、ごまかしたり、嘘をついたりすることはダメです」と説明をするのです。

こうした、一年間の学級運営を支えるキーワードやルールは、学級びらきのできるだけ早い段階で伝えておくとよいでしょう。

ひらがなの基礎を楽しく学ぶ
「ひらがなスキャン」

低学年は、新しいことを知りたい、やってみたいという意欲が高いのですが、その場限りのことが好きで、見通しを持って行動することが苦手です。例えば、学習面でも、しっかりゴールを伝え、「ここまでやればOK」という見通しを見せてあげること、そして飽きさせない工夫が重要です。

例えば、ひらがなの学習。僕は、一年生で「ひらがなスキャン」、二年生で「ひらがなプロフェッショナル」という、ひらがなの学習が楽しくなるようなネーミングをつけて取り組みました。「ひらがなスキャン」は、「いかに一年生にきちんと正しくひらがなを書かせるか」を考えて生み出した実践です。

まず僕が、一文字分のマスを十字リーダーで四分割したミニ黒板を使い、その文字が、十字リーダーのどこで始まり、どんなふうに線が曲がり、どこで止まるのか、スタートからゴールまで子どもたちと確認しながらゆっくり書いてみせます。

さらに、その文字をスキャンするように正確に書き写す際、どこに気をつけるべきか、スキャンポイントを発表させ、共有します。そして「スキャン開始!」と言ってひらがな学習帳に、僕が書いたお手本通りにその文字を写させます。

その後、ノートを提出させ、その場でチェック。完璧にスキャンできていたら、花丸。まあまあできていれば、三重丸。ギリギリ合格は二重丸。一つ丸の場合は、家で練習してきてもらいます。

事前に保護者会で、「ひらがなスキャン」について保護者に話し、「花丸の時にはたくさんほめてあげてください。一つ丸の場合は、家でやり直しというサインです」と伝えておくとよいでしょう。

「ひらがなスキャン」の方法

お手本
 撮影/出浦文絵

1.十字リーダーで四分割したミニ黒板を使って、どの部分を、どの線が、どのように通るのか、具体的に解説しながら文字を書く。

文字を書く

2.「スキャン開始!」と言ったら、十字リーダーのついたひらがな練習帳を使ってくり返し練習。黒板に書いた文字そっくりに写させる。

採点する
 撮影/出浦文絵

3.練習帳を担任に提出し、その場でチェック。スキャンの正確さによって、花丸、三重丸、二重丸、ひとつ丸とランク分けして評価する。

チョークの色を変える
 撮影/出浦文絵

線のスタートとゴール位置は点をプロット。書き順別にチョークの色を変えるとわかりやすい 。

達成感と自信を与える
「ひらがなプロフェッショナル」

二年生の「ひらがなプロフェッショナル」は、「ある一文字のひらがなについて、誰よりも美しく書けるようになろう」というプロジェクト。自分が選んだ一文字のひらがなについて、徹底的に研究し、どうすれば正しく、そして美しく書けるのか考え、くり返し練習します。

一文字だけ研究するので、字のきれいな子、下手な子に関係なく、誰でも驚くほど上手になります。さらに、自分の得意な字を友達同士で教えてあげることで、自信につながります。

このように低学年では、目の前のゴールを明確に示し、達成感と成功体験を与えながら指導をすることがポイントです。

取材・文/出浦文絵

沼田晶弘先生
沼田晶弘先生 撮影/下重修

沼田晶弘先生
1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に、『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)等がある。

『教育技術 小一小二』2019年4月号より

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