小3道徳「イソップ童話に学ぶ授業」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
授業の設計図
「うそをついてはいけません」
子供たちが、よく言われている言葉です。けれども、どんなときでも絶対にうそをついてはいけないのかと問われれば、「そうです」とは言い切れない場合があります。「うそも方便」ということわざもあるくらいです。
では、そもそもなぜうそをついてはいけないのでしょうか。
それは、『○○』を失うからです。
その答え(○○に入る言葉)をイソップ童話の「オオカミがきた」を基に考えます。
チャート
○○には、「信用」または「信頼」という言葉が入ります。自分をごまかしたり相手を傷つけたりするうそは、絶対についてはいけないことを「なぜ?」に立ち返って考えます。
実際の授業展開
指導目標
なぜうそをついてはいけないのかを「信用・信頼」の視点から考え、正直に明るい心で生活しようとする態度を育てる。
内容項目
A 正直、誠実
準備するもの
黒板掲示用
・カード1と2、「うそも方べん」のカード
・イソップ童話「オオカミがきた」の挿絵
*カードと挿絵はクリックするとJPGがダウンロードできます
*カードは板書でも可
カード1を子供たちに見せて
これは、正しいですか。○(正しい)か、 ×(正しくない)で答えてください。
カード2を見せて、 ×(正しくない)の意見につなげて…
ついても許されるうそがあるとしたら、 それはどんなうそでしょうか。
目的をとげるためなら、
うそをつく必要のあることもある。
指導の概略(板書計画例)
【導入】
今日は『うそ』について勉強します
- 最初に学習のテーマを知らせる。
【展開1】
①
これ(うそは、ついてはいけない)は、正しいですか。
- ○(正しい)か、×(正しくない)で答え、理由を発表させる。
②
今度はどうでしょう。これは○(正しい)ですか、×(正しくない)ですか。
- ほとんどの子が×を選ぶと思われる。
③
ついても許されるうそがあるとしたら、それはどんなうそでしょうか。
- グループで話し合う。できるだけ具体的な場面について考えさせる。
④
ついてはいけないのは、どんなうそでしょうか。
- 発問③と対比させて意見を黒板にまとめる。
⑤
つまりそれは、どんなうそなのでしょうか。
- 子供たちの考えを基にまとめる。
【展開2】
- ことわざ「うそも方便」を知らせた後で、次のように問う。
⑥
そもそも、なぜうそをついてはいけないのでしょうか。
【終末】
うそは〇〇をうしなう
⑦
○○には、どんな言葉が入りますか。
- 「信用」「信頼」であることを確認する。
- イソップ童話から「オオカミがきた」を読み聞かせる。
参考 『とっておきの道徳授業3』2004年(日本標準)
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
授業は、子供たちに新しい何かを学ばせる時間です。すでに知っていることを何度も繰り返し教えられるような授業では、子供たちが退屈するのは当然です。
「うそをついてはいけない」ということは、幼い頃から周りの大人に言われてきています。そこで、発問②(うそは、絶対についてはいけないか)で、いったんこの既知(うそをついてはいけない)を崩します。
そして、自分の経験を想起しながら、どんなうそなら許されるのかを具体例を挙げながら話し合います。すると、自分ではない誰かほかの人のためのうそなら、必ずしも悪いとは限らないことに気付きます。
けれども、ここで終わってしまっては、「うそをついてもよいときもあるんだ」と単純に考えてしまう子も出てくるかもしれません。特別な場合を除き、やはりうそをついてはいけないのです。
うそをついてはいけないそもそもの理由はなんでしょうか。それは、うそは信用を失うからです。大人の社会であれば、いったん失った信用を取り戻すのは容易ではありません。
会社関係であれば、業績が悪化してしまうこともあります。子供たちの生活でも同じです。周りの友達から「うそつきだ」と思われ信用を失えば、「明るい心で生活すること」などできなくなります。
イソップ童話「オオカミがきた」は、うそは信用を失うことを考えさせるのに適した教材です。図書室に行けば、イソップ童話が置いてあるはずです。低学年向けのシリーズが多いかと思いますが、三年生にもじっくりと読ませてあげてください。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
どんなによい子(三年生)でも、これまでの9年ほどの人生のなかで、うそをついた(つかれた)経験があるはずです。授業では、うそをつくことの是非を問い、〇か×かで自分の立場をはっきりさせます。そして、全員に発表の機会を与え、そう考えた理由を自分の経験を基に話させます。
終末でイソップ童話を読み、最後にうそをついてはいけない理由を、「信用を失う」という端的な言葉で束ねることで、子供たちを授業の目標地点へと導きます。
※この授業は、野口芳宏先生がある教育セミナーで話された『なぜうそをついてはいけないのか』の内容に学んで構想しました。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「発問の工夫は授業のカギ」
道徳科の授業で「考え、議論する道徳」の実現を図るためには、さまざまな学習指導過程や指導方法の工夫が大切ですが、なんといってもその活動のきっかけをつくるのは教師の発問です。
何を問えば積極的な話合いが始まるのかという考え方も悪くはないですが、話合い活動自体は目的ではなく手段なので、何を問えば、そのねらいとする道徳的価値について深く考えることができるかを踏まえて発問することが大切です。
また、そこにたどり着くためには、子供が自分とのかかわりで考えられるような発問や、物事を多面的・多角的に考えられるような発問も頭のなかに用意しておきたいところです。
発問のしかたとしては、一般的には、読み物教材の登場人物に共感させながら、「○○(登場人物)はどんな気持ちでしょうか」と問うことが多いと思いますが、これは登場人物の気持ちを考えるのではなく、教材のなかの登場人物が立たされた状況を踏まえ、共感できるような自分の体験を想起して、そのときの自分の気持ちを考えるということです。
しかし、発問のしかたはその形にとらわれることなく、「そのとき、自分だったらどんな気持ちですか」と問うことも考えられます。この二つの発問の違いは、登場人物と子供の距離にあります。
前者は登場人物と子供が重なり、後者は登場人物を客観視して、子供が自分を見つめることになります。ぜひ、決め手となるような発問を考えて授業に臨み、その発問に時間をかけて話合いができるようにしてみてください。
イラスト/うえだ未知 横井智美
『教育技術 小三小四』2019年6月号より