小3道徳「希望と勇気、努力と強い意志」指導アイデア

大学教員

佐藤幸司

執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
イラスト/熊本大学教職大学院准教授・前田康裕

指導教材「マラソン練習での出来事」

今日、はじめてのマラソンの練習でした。ぼくは、だいじょうぶかなあと思いました。去年までのコースでも苦しかったのに、今年からもっと長くなって、あんなに長くて不安でした。

みんなは、どんどん先に行ってしまいました。「一人にはなりたくないなあ」と思いました。ゴールにだんだん近づいてはいるんだけど、なんかやりたくなくなってきました。

ぼくは、立ち止まって走るのをやめてしまいました。

ちょっと止まったままでいると、先生が来ていろいろ話をしました。その後、コースから外れてグラウンドに行くと、ゆうき君が心配してそばまで来てくれました。たけし君たちが、ぼくを見てちょっとわらっていたんだけど、ゆうき君が言い返してかばってくれました。

走っているときのことを思い出したら、「ああ~なさけないなあ」と思いました。

あのとき、そのまま走ればよかったと思いました。楽しようとばっかりして、だめだなあ。どうして、あのとき、「なさけない。がんばって走ろう」と思えなかったんだろうな。そう思って走っていれば、「ああ~なさけないなあ」なんて、今、思わなくてもよかったのに。

これは、小学三年生のしょうご君が書いた日記です(名前はすべて仮名)。この日記には、人間の弱さが正直に書き記されています。でも、弱さだけが書かれた文章ではありません。「ぼく」は、途中棄権してしまった自分をふり返って、次の目標に向かって進もうとしているはずです。

この日記を基にしたのが、下のワークシートです。学校生活にありがちな身近な内容が、イラストによってさらに印象深く子供たちの心に響きます。

道徳学習プリント
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実際の授業展開

タイトル
弱さを見つめて、弱さを乗り越えて
~マラソン練習での出来事~

指導目標
自分の弱さを乗り越えて、目標に向かって粘り強くやり遂げようとする意欲を育てる。

内容項目
A 希望と勇気、努力と強い意志

準備するもの
・場面ごとのイラスト5枚…黒板提示用(拡大コピー)
・ワークシート…児童配付用

指導の概略(板書計画例)

板書計画例
クリックすると別ウィンドウで開きます

参考/『心を育てる「道徳」の教材開発(21世紀型授業づくり』佐藤幸司 2002年(明治図書)

授業展開の補足説明

この教材は、実際の子供(小三)の日記を基に作成しました。教科書の生活教材にありがちな「道徳授業のために作成された話」ではありません。示されている状況や登場人物の心情が、子供たちの心に実感を伴って迫ってきます。

例えば、スタート前のしょうご君。風邪気味だったこともあり、不安でしかたありません。できれば逃げ出したい心境なのでしょう。途中、「一人にはなりたくないなあ」と思いながらも、みんなから離されていきます。そして、ゴール目前まで来たところで、「もうやめた…」とあきらめてしまいます。

そんなしょうご君を見て、非難する子がいます(非難せずにいたわりの言葉をかけてあげられる優しさを育てたいのはもちろんですが、非難したくなる気持ちも分かります。みんなが苦しかったのです。でも、実は、それも人間の弱さなのです)。

しかし、一方で非難する子たちに対して、言い返してかばってくれた友達(ゆうき君)もいます。そして、しょうご君は、あきらめてしまった自分を反省しながらも、次への目標に向かってがんばろうと心に誓ったはずです。

そこが、この日記のよいところです。分かっていても、ついやってしまうのが人間です。でも、それを乗り越え、次の目標に向かって進んでいけるのも人間なのです。

授業をするうえでの注意点・ポイント解説

マラソン大会(記録会)を実施しているかどうかは、各校でさまざまだと思います。けれども、運動会での徒競走は全員が経験していることでしょう。同じ小学三年生の日記を基にした教材ですので、自分の経験とたっぷり結び付けさせながら授業を展開してください。体育や学校行事で陸上競技に取り組むことが多くなる時期に扱うのが、実施時期として最適です。

前述した通り、この教材の内容は実話(ノンフィクション)です。けれども教材化において、イラストやふき出しを使って、フィクションの手法を取り入れています。フィクション教材のよさは、内容を柔らかく提示できることにあります。

主人公しょうご君の弱さや、しょうご君を非難してしまった周りの子の言動(これも弱さです)が、イラスト化によって、感情的な部分が優しく包まれて伝わってきます。 ノンフィクション教材の迫力とフィクション教材の温かみをバランスよく生かしながら、子供たちとの授業を楽しんでください。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

「道徳科は毎時間がメイク・ドラマ」

道徳科の授業は子供とともにつくり上げるもので、子供が主体となる授業をめざすことが大切です。それはもちろん、すべてを子供に任せるのではなく、教師が指導の明確な意図をもって授業に臨むことが大切です。子供の考えを尊重しながら、教師が子供の考えをうまくかかわらせ、ねらいに迫っていくことが望まれます。

しかしそれは、そう簡単にできるものではありません。教師の想定外の考えが子供から出されると、対応しきれなくなることもよくあることです。 こうならないようにするために、ねらいに迫るルートを決めて、ある程度の発問を用意して授業に臨む計画が、学習指導案です。

授業を見させていただくと、時々教師の目線で気になることがあります。せっかく子供が発言しているのに子供の顔に目線が行かずに、手元に置かれている授業のメモばかりに目が行き、自分のレールで授業を進めようとする姿です。おそらく次の発問のことを考えているのかもしれません。そうなると、ねらいに対して深く考えるきっかけを逃してしまうことも少なくありません。

授業が教師の敷いたレールに子供を乗せて進められれば、教師も安心して授業を進められるでしょう。しかし、道徳科の授業の醍醐味は、子供の素直な気持ちや豊かな発想にちょっとしたスリルを感じながら、教師も子供とともに学び、新たな気付きや変容を感じるところにあります。

そんな醍醐味に楽しさを感じられるゆとりをもって、授業に臨んでみませんか。道徳科は毎時間がメイク・ドラマです。

『教育技術 小三小四』2019年5月号より

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