【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯21 ―通級指導教室で指導する学習方略-学び方を学ぶ

通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。情熱とアイデアに満ちた実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。
執筆/北海道公立小学校通級指導教室担当・高田保則
目次
はじめに
北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当している高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。
通級指導教室で子どもたちと向き合っていると、「自由にやっていい」ことの難しさを痛感することがあります。
一人ひとりのニーズに応じて指導を組み立てられる一方で、「今、自分は何を指導しているのだろう」と立ち止まってしまう瞬間があるのです。
私自身、子どもの願いを丁寧に聞き取り、観察や検査結果をもとに、その子に合った学習方法を考え、前例に捉われずに実践を重ねてきました。子どもと共有する学びの時間は刺激的で、確かな手応えを感じる場面も多くありました。
それでも、ときどき言いようのない不安に襲われます。
「この支援は、どこに向かっているのだろうか」
「指導の軸が、いつの間にかずれてはいないだろうか」
自立活動は、個別最適な学びを実現できる一方で、指導の拠りどころを見失いやすい側面を併せ持っています。自由度の高い実践は、ときに羅針盤のない船を操縦しているような心もとなさを伴います。
そんな中で、私にとって一つの羅針盤になったのが、認知心理学の知見に基づく「学習方略」という視点でした。子どもの学びを「努力」や「やる気」の問題としてではなく、「学び方」という観点から捉え直すこと。そこから、これまで点在していた支援の手だてが、一本の線としてつながり始めました。
今回は、通級指導の実践を「学習方略」というレンズを通して見つめ直しながら、「学び方を学ぶ」指導について考えていきます
1.子どもに合わせた実践を重ねるほどに募る不安
通級指導の担当教員である私の第一の仕事は、子どもの特徴を捉えることです。観察や検査結果を手がかりに、その子に合った学習方法を考え、提案することを教室運営の柱にしてきました。
例えば、形を捉えることは得意なのに、字を書くことが苦手な子の漢字練習では、タブレットアプリを活用しました。注意の選択が苦手で目移りしてしまう子には、問題用紙を半分に折って取り組む方法を勧めました。算数が苦手で料理が好きな子には、お菓子作りの作業学習を提案したこともあります。
こうした実践は、前例にこだわらず、子どもの願いに合わせて積み重ねてきたものです。その場では確かな手応えがあり、子どもが前向きに学ぶ姿を見ることができました。
一方で、実践を重ねるほど、別の思いも芽生えてきました。
「ほんとうにこれでよいのだろうか」
「子どもに合わせているつもりで、指導の軸がぶれてはいないだろうか」
子どものニーズに寄り添えば寄り添うほど、指導の全体像が見えなくなる瞬間があります。自立活動の指導は、自由であるがゆえに、羅針盤のない船を操縦しているような不安を内包しているのだと感じました。
2.実践を整理する羅針盤としての「学習方略」
これまで行ってきた支援は、私自身の知識や経験に基づくものでした。それらの実践を、認知心理学の「学習方略」という視点で整理し直してみると、ばらばらに見えていた支援に共通点があることに気づきました。
例えば、丸暗記が難しい子に対して、意味を考えながら覚える方法を勧めてきたこと。情報を図や表にまとめて整理する学習を取り入れてきたこと。作業を繰り返す中で理解を深めていく学びを支えてきたこと。こうした取組は、あとから振り返ると、いずれも学習方略として整理できるものでした。
私にとって重要だったのは、学習方略という言葉そのものではありませんでした。これまで感覚的に行ってきた実践に、「なぜその支援を行うのか」を説明できる視点が与えられたことでした。
学び方を言葉にすると、子どもの振り返りが変わります。「できた・できなかった」という感想から、「どのやり方が合っていたか」を考えるようになります。また、指導する側にとっても、迷ったときに立ち戻る拠りどころが生まれました。
学習方略は、すべての困りを解決する万能な答えではありません。しかし、通級指導における日々の実践を整理し、指導の軸を確かめるための一つの羅針盤にはなり得ると感じています。
ここで、学習方略と学び方について、実践者の立場から整理しておきます。
学習方略とは、学習目標を達成するために、学習者が意図的に選ぶ「具体的な手立て」のことです。どのように覚えるか、どう整理するか、どの順序で取り組むかといった、学習を進めるための具体的な方法がこれに当たります。本稿では、その中でも、理解や記憶に直接関わる手立てに焦点を当てています。
一方、学び方とは、そうした手だてを自分に合う形で選び、組み合わせ、振り返りながら使っていく姿勢や構えを指しています。学習方略をどう使うかという、より広い枠組みが学び方である、と私は整理しています。言い換えれば、学習方略は学び方を形づくる具体的な構成要素であり、学び方はその上位に位置する考え方だという理解です。
私は、子どもに多くの方法を教えること以上に、自分に合うやり方を見つけられるようになることを大切にしたいと考えています。学習方略は、そのための具体的な足がかりであり、それらを使いながら学びを調整していくことこそが、「学び方を学ぶ」ということだと捉えています。

3.学習方略を意識した通級指導の実践
【歴史が苦手なAさん】(体制化)
小学6年生のAさんは、おしゃれが大好きな女の子でした。一方で、勉強全般に苦手意識があり、とりわけ社会科の歴史を「わからない教科」と感じていました。年号や人物名を覚えようとしても、知識がつながらず、「わからないまま置いていかれる」感覚が強かったのだと思われます。
そこで私は、Aさんに社会科資料集を渡し、「おしゃれ女子の歴史」をまとめてみる学習方法を提案しました。資料集に載っている女性の髪型や服装に注目し、時代ごとの変化をスライドに整理していく学習です。
Aさんは楽しそうに資料をめくりながら、「この時代の服は袖が長い」「髪型が面白い」「ここから急に洋服っぽくなる」と、次々に気づいたことを語り始めました。歴史は、暗記する対象から、自分の興味と結び付いた「意味のある情報」へと変わっていきました。
Aさんは、日本の歴史を「おしゃれ」という視点で整理し直していたのです。ばらばらに見えていた出来事や時代の変化が、一つの見方によってつながり始めました。
認知心理学では、このように情報を一つの枠組みや視点で整理する学び方を「体制化方略」と呼びます。Aさんの場合、おしゃれという関心を軸にすることで、歴史を自分なりに理解する道筋を見いだしていきました。
イラスト2/おしゃれ女子の歴史を学ぶAさん by高田保則 (生成AIを使用して作成)
【すぐに忘れるBさん】(即時フィードバック/即時強化)
小学3年生のBさんは、「三歩歩くと忘れてしまう」と自分で話すほど、覚えたことが抜け落ちやすい子でした。新出漢字を何度練習しても、翌日には思い出せないことが多く、まじめに取り組んでいるからこそ、「どうして覚えられないのだろう」という不安を抱くようになりました。そうした思いから、通級指導を希望するようになったのです。
通級指導では、Bさんが楽しみながら記憶を強化できる手立てとして、一問一答形式の学習方法を取り入れました。生成AIを活用し、Bさん専用の漢字練習問題をその場で作成しました。実際に取り組んでみる中で、Bさんと相談しながら、答えやすい三択問題に修正するなど、内容を調整していきました。教材を即座に修正できる点は、生成AIの大きな利点でもあります。
問題に答えると、すぐに正誤がわかります。「合っていた」「間違っていた」がその場で確認できることで、Bさんは次の問題にも意欲的に取り組むようになりました。苦手意識の強かった漢字練習に、楽しそうに向き合う姿が見られるようになりました。
後から振り返ると、この学習には、解答直後に正誤を確認する「即時フィードバック」と、次の行動を促す「即時強化」が自然に組み込まれていました。覚えることに苦手さのあるBさんにとって、一問一答という学習方法は、記憶を支える有効な手立ての一つになったと感じています。
イラスト3/一問一答に答えるBさん by高田保則 (生成AIを使用して作成)
まとめ
これらの実践を振り返ると、子どもの学びを支える手立ては、「頑張らせる」ことでも、「量をこなす」ことでもないと感じます。どのような視点で情報を整理するか、どのタイミングで確かめるか。学び方に少し手を入れるだけで、子どもの学習の手応えは大きく変わります。
現在、次の学習指導要領の策定に向けた議論の中で、通級指導において教科の補充指導を柔軟に行えるよう明記する検討が進められています。学習の困りを抱える子どもが支援を受けやすくなるのであれば、それは喜ばしいことです。一方で、通級指導教室が「できなかったところを埋める場」だけとして捉えられてしまわないかという不安も、現場にはあります。
だからこそ、通級指導教室で「学び方を学ぶ」学習方略の指導は、自立活動の柱になり得ると感じています。教科の内容を教える前に、学びを支える視点を整えること。その価値を、これからも実践を通して考え続けていきたいと思います。
〇参考文献
『まんがで知る学習方略―学び方を学ぶ』 前田康裕 著 さくら社 刊

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師。特別支援教育士。開設された通級指導教室の運営を任され、新たな指導スタイルを模索している。趣味はバンド演奏。


