子どもたちの「生きる力」が育つ機会を生成AIに奪われないために

英語のことわざに”No pain,No gain(ノーペイン、ノーゲイン)”というのがあります。『痛み(苦労)なくして得るものなし』という意味です。これは、生活の隅々までAIが浸透してきている現代人にとって、特に重要となるキーワードではないでしょうか。ともすればAIは、人が努力したり傷ついたりして学びを得、成長するプロセスをショートカットしてしまうからです。今回は、コミュニケーションの観点から、教育現場におけるAIの位置づけを考えていきたいと思います。
執筆/株式会社電通総研 研究員・慶應義塾大学SDM研究所 研究員・元横浜市公立小学校教諭
岡田芳樹
シン・コミュニケーション#9
目次
AIは模倣にすぎない
マッチングアプリで見つけた生成AIの「妻」 魅力は「人間らしさ」
AIと「結婚」した女性、空いた時間はほぼ彼と会話「私は幸せです」
この2文は何だと思いますか?
これは両方とも朝日新聞(2025年8月18日)に掲載された記事のタイトルです。
AIと対話することで、これらの人々は、あたかも人間と関係するかのような精神的充足感を得、AIに対して生涯の伴侶となるに足る「人格」を認めた、ということでしょう。
この事例を善し悪しで判断するつもりはありません。人が求める高度な人間関係にAIが応えることができた、ということですから。そこまで生成AIが進化したことに感嘆すら覚えます。
しかし、ここで1つ、皆さんと確認しておきたいことがあります。
それは、AIの回答は人間の模倣であり、相手の望む答えを精緻に分析して出力しているのだ、ということです。
人間の質問や発言の文脈を判断し、その中から抽出される孤独感や不安感、あるいは幸福感などの感情に対して、寄り添うような回答文章を、さまざまな単語を組み合わせることで生成しているのです。つまり、AIの言葉は計算結果なのです。
人間には過去の経験からの学びがあり、それに基づいて相手の気持ちを想像したり、共感したりします。
肉体を持たず、人として人生経験を積んだこともないAIが、膨大な数の人間の発した言葉を学習し、分析して、人間に対して感情の共有をしてくれたと感じさせ、信頼感と心理的安全性を与えるような文章を作り出す。これは恐るべき計算能力と言えます。そして、これが計算である以上、AIとしては理論上の想定内の返答をしているに過ぎないのです。
人間とのコミュニケーションには、常に想定外の、不確実な要素がつきまといます。
なぜなら相手にも自分と同様、感情というものがあるからです。
お互いの心の状態次第では、言ってほしい言葉をもらえなかったり、傷つく言葉をもらったり。あるいは相手に本心とは異なる言葉を返したり、傷つけたりすることもあるでしょう。
人間とAIのコミュニケーションの違い、それは不確実性の有無だと筆者は思います。
その不確実なところに、人と人とのコミュニケーションの醍醐味があり、人間としての成長のチャンスがあるのですが、どうも現代の人々は、そんな醍醐味より「手早く理想の答え(感情)を求める」傾向にあるようです。
これは言い換えれば、成長する機会を失っている、と考えられないでしょうか。

生成AIで変わった私たちのコミュニケーション
今の時代、私たちはコミュニケーションの場面で、すぐに答えを求める傾向にあります。これは、
①チャットを中心としたスマホのコミュニケーションでは、「イエスかノーか」といった結論重視の対話が中心だから。
②ネット(AIや検索エンジン)が提供する最適解に慣れ、調べたり、思考したりする手間をかけないから。
といった風潮によるものでしょう。過度に人と関わることが少なくなりますから、コミュニケーションで心に傷を受ける可能性が減り、それゆえに現代人は全体的に、心が傷つくような体験を回避するような傾向があるのではないかと考えます。
子どもたちとの会話を思い出しても、私はこれらに共通する部分を感じていました。授業中、子どもたちは真っ先に「答え」を探しに行きます。「答え」に自信がないと挙手しません。また、「答え」がないような課題には、一生懸命に取り組まない子どもが、かなりの数いました。
こうした子どもたちは、学力的には優れていたりもします。問題を素早く解き、答えを見いだし、解答用紙に記入することができます。しかしそこには、どこかもろさも感じたことを今でも覚えています。社会に出れば「答え」がないことだらけです。その曖昧な世界でこの子たちは耐えられるのだろうか?と。
