小5国語科「手塚治虫」板書例&全時間の指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小5国語科「手塚治虫」(東京書籍)の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した全時間の授業実践例を紹介します。

監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/神奈川県相模原市立内郷小学校・堀 真之
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、伝記「手塚治虫」を読み、手塚治虫の人物像を捉える学習に取り組むことを通して、自分の生き方について考えまとめる力を育成します。
文章に書かれている手塚治虫の考え方や生き方から、まず手塚治虫の人物像を考えます。それを踏まえ、自分の経験や生活と結び付け、考えを子供同士で共有し合うことで、これからの自分の生き方について考えをもちます。
2. 単元の評価規準

3. 言語活動とその特徴
本単元は、伝記の主人公である手塚治虫の人物像について、「主体的・対話的で深い学び」を通して多面的な視点から考察することを目的とします。
言語活動としては、教科書の本文から読み取れる「偉業」の側面に加え、外部資料から得られる手塚治虫の「葛藤」や「苦悩」といった人間味あふれるエピソードや、自伝の一部から手塚治虫が作品を作る上で「生命の尊厳」を大切にしていたエピソードを結び付けることで、手塚治虫の人物像や生き方について友だちと対話したり、そこから考えた自分の生き方についてポスターにまとめたりする活動を位置づけます。
教材として三つの資料を用います。
一つ目は教科書にある伝記です。これは国松俊英さんからみた手塚治虫の「天才的な創造性」や「革新者としての功績」が主に描かれています。それと同時に本文には「いじめられっ子だった過去」、「戦争の地獄のような風景」、「医学とまんがの両立への苦悩」といった、苦しみや葛藤を示す叙述もちりばめられています。
これに加えて、二つ目の資料『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった』の手塚治虫のページ(大野正人著/文響社)から、「人間味のある性格」を読み解きます。
三つ目の資料『ぼくのまんが人生』(手塚治虫著/岩波新書)からは、手塚治虫が自身の戦争の体験から得た戦争に対する考えや自身の哲学、そこから自身のまんがに込めたテーマを読み解きます。
これらの三つの資料を用いることにより、手塚治虫=まんがというイメージに揺さぶりをかけることができます。複数の資料を読み進める中で、子供たちは手塚治虫の努力に感心したり、身近さを抱いたりするなど異なる印象を持つようになるでしょう。
第二次では、三つの資料から情報を抽出・整理して手塚治虫の人物像を考えます。三つの資料の比較を起点に、第一次で立てた問い「手塚治虫とはどんな人だったのか?」について改めて自分の考えを深く掘り下げます。
第三次では、友達と話し合ったうえで改めて考え直した手塚治虫の人物像を表出する手立てとして、自分の読み取った手塚治虫像をポスターに表現する活動を設定します。
ポスターに表現する際は、手塚治虫の人物像が深く読み取れた箇所を文章から選び、「○○な人、手塚治虫」というキャッチコピーを作り、書きます。
ポスターという形式は、複雑な情報を整理し、最も伝えたい結論と根拠(付箋で抽出した情報)を視覚的に結び付けることができ、思考の集約を促します。
また、他者へ伝達するための媒体であるからこそ、読み手に自分の深い解釈を理解してもらおうという意識が生まれ、分かりやすい表現で工夫しようという意欲を高めます。
さらに、そのポスターの解説文を書くことで、手塚治虫の人物像から得た普遍的な価値に基づき、「自分はこう生きたい・過ごしたい」という自己の生き方に関する記述も加えます。
このポスターとその解説文を作ったり書いたりすることで、多角的に掘り下げた自分の考えや思いを、効果的かつ明確に他者に伝達できるようにします。
これらの言語活動を通して、子供たちには各自の考えをより深め、根拠に基づきながらまとめ上げる力を身に付けてほしいと願っています。
4. 指導のアイデア
「主体的・対話的で深い学び」を実現するため、本単元では以下の三つのステップを重視し、異なる種類の資料を比較検討するプロセスを学習の中心に据えます。
①興味・関心を抱き、情報を読み取る: 学習材や友達の考えから自分に必要な情報を見つける。
②深く考える: 得た情報を結び付けたり、新たな視点を創造したりする。
③表現・共有する: 考えたことを言葉や文章などで表現し、友達と伝え合う。
本単元では、子供たちが手塚治虫について、三つの異なる資料を基に、人物像を多角的に捉え、それを自分ごととして深く考えられるように、こうした三つの学びのステップを重視します。
単元の導入では、まず伝記の存在を知ったうえで、教科書本文から手塚治虫の人物像や生き方を捉えます。児童間に手塚治虫の人物に対する既有の知識や抱いているイメージの差があることを踏まえたものです。全員が学習の出発点となる基本的な生き方や人物像を共有し、その後の多角的な探究への学習意欲を喚起します。
子供たちが自分の考えの根拠を整理し共有する際に、FigJamのような思考整理ツールが役立ちます。キーワードや短文で付箋を書き出し、自由にメモを配置したり、友達と同じ意見や異なる意見を視覚的に確認したりすることで、議論の土台をしっかりと固めることができます。特に、友達とボード全体を共有しておくことで、相手の意見に質問したいことや深めたいことを決めておくことができます。
教師も子供たちがどのようなことを考えているのかを把握できるとともに、データとして残るのでいつでも確認することができます。
また、理由づくりに自信がない子供も、友達のアイデアを参考にできます。
こうした事前準備があれば、話合いの場では、根拠を読み上げるのではなく、自分で作成した付箋を基に、友達の意見に賛同したり、質問したりするといった活発な対話が自然と生まれてくるでしょう。
手塚治虫の人物像や生き方について触れたうえで、子供とともに「手塚治虫という人物はどんな人だったのか?」という単元全体を貫く大きな問いを設定します。
この問いに対する最初の考えをワードクラウドなどのツールで集約・提示し、クラス全体の意見を可視化します。これにより、初期イメージが一人一人異なっていることを認識でき、単元の最終段階で考えの変容を確かめる貴重なデータとなります。
資料①(教科書本文):本文の叙述をもとに、「偉業」の裏にあるエピソードから手塚治虫の人物像や生き方について捉えます。
資料②(人間味):人間味のあるエピソードを読み込み、教科書本文の「偉大な人物」像との対比ができるようにします。
資料③(信念):「生命の尊厳」に関する自伝の記述の一部から、戦争体験と創作信念の強い繋がりを捉えられるようにします。
第1時で作ったFigJamのボード全体を共有し、根拠となる付箋を参照しながら意見に賛同したり、質問したりする対話を行います。友達と共有することで、「手塚治虫という人物はどんな人だったのか?」という問いについて、自分の考えを広げたり深めたりし、自己の考えの再構築を促します。
最後に、三つの資料を基に多角的な議論を通して深めた考えや、資料の叙述を基に、「○○な人、手塚治虫」をテーマにポスターとその解説文を作成します。
ポスターに表すことで、「他者に明確に伝達する」という必然性をもつことができます。
また、ポスターの解説文には、手塚治虫の生き方から得た普遍的な価値に基づき、「自分はこう生きたい・過ごしたい」という自己の生き方に関する記述も加えることで、学習成果を表現できるようにします。
ポスター制作には、テンプレートが豊富で共同編集機能を持つCanvaの活用を想定しています。複雑な人物像や概念を表現することが苦手な児童でも、Canvaならテンプレートや視覚要素を容易に活用できます。デザインの力を使って分かりやすく表現でき、思考の視覚化スキルの育成に繋げることができるでしょう。
5. 単元の展開(5時間扱い)
単元名: 伝記に登場する登場人物の話を読み、自分の考えを表そう
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時、3時)
① 伝記の存在を知る。「手塚治虫(教科書)」を読み、手塚治虫の生き方と人物像について捉える。本時の学習からイメージする「手塚治虫はどんな人だったのか」という問いに対して考える。
〈 端末活用(1)〉FigJam 〈 端末活用(2)〉Googleフォーム 〈端末活用(3)〉ワードクラウド
②「手塚治虫のエピソード(人間味のあるエピソード)」を読み、手塚治虫の人物像や生き方について捉える。
〈 端末活用(1)〉FigJam
③「手塚治虫の自伝(一部抜粋)」を読み、手塚治虫の人物像や生き方について捉える。
〈 端末活用(1)〉FigJam
・第二次(4時、5時)
④ 3種類の資料をもとに、手塚治虫について友達と自分の考えを共有したり、友達の考えに対し質問したりすることで、自分の考えを広げたり深めたりする。
〈 端末活用(1)〉FigJam 〈 端末活用(2)〉Googleフォーム 〈端末活用(3)〉ワードクラウド
⑤ 話合いを通して深めた考えや叙述をもとに、「○○な人、手塚治虫」をテーマにポスターを作り、なぜこのポスターにしたのかについて解説を書く。
〈端末活用(3)〉Canva
6. 全時間の板書例と指導アイデア
イラスト/横井智美
令和6年度からの国語科新教材を使った授業アイデア、続々公開中です!

