中学年の質問指導「問いを広げる」指導のコツ|問いを生み出す「質問力」の育て方〈第3回〉
生成AIが普及していくこれからの時代では、「何を問うか」ということがますます重要になってきます。しかし、そもそも「問いの立て方」を十分に学ぶ機会がなかった私たちにとって、「問うことを教えること」は容易なことではありません。神戸大学附属小学校教諭の友永達也先生が、子どもの「問いを生み出す力」を育むための指導理論を解説する本企画、第3回は主に中学年の子どもを対象に、多くの質問ができるようになる、すなわち「問いを広げられるようにする」にはどうしたらよいか、について具体的な実践アイデアを交えながら紹介いただきます。
執筆/神戸大学附属小学校教諭・友永達也
シリーズ:問いを生み出す「質問力」の育て方
第1回:コミュニケーションに不可欠な3種類の問いとは?
第2回:低学年の質問指導「問いに親しむ」指導のコツ
教室のコミュニケーションを豊かにするためには、お互いに質問し合って考えを広げたり深めたりすることが必要不可欠です。多様な社会を生き抜くこの「質問力」は、どのようにすれば身に付けられるのでしょうか。本記事では、問いを生み出す力をどうすれば子どもたちに育むことができるのかという指導理論について、具体的な実践アイデアも交えながら紹介していきます。
よりたくさんの指導アイデア、より詳しい理論的な説明が知りたい方は、執筆者が2025年に刊行した『対話を深め・問う力が育つ 質問力アクティビティ40』(東洋館出版)をぜひ手に取っていただけると幸いです。
目次
中学年には「質問の『量』を確保する」「問いを広げる」ことを大切にした指導を
中学年の子どもたちは学校生活にも慣れ、お互いのコミュニケーションもどんどん活発になります。そのため中学年ではその活発さを生かして、たくさん質問できるようになるための指導を重点的に行います。つまり、質問の「量」を確保するということです。
低学年では、問いに親しむことを大切にした指導を行うことをおすすめしています。低学年での学びを踏まえ問うことに抵抗がない子どもたちだからこそ、スムーズに問いの量を確保する指導へと移行できるでしょう。
質問の量を確保する指導とは、すなわち「問いを広げる」指導です。質問するバリエーションを増やしたり、質問量そのものを増やしたりする指導を、この中学年では行います。
中学年向け実践アイデア「問い屋さんごっこ」
本稿では中学年の子どもたちの問いを広げるための指導を一つご紹介します。その名も「問い屋さんごっこ」です。
「○○屋さんごっこ」は小さな頃から慣れ親しんだ遊びですが、それを学習活動に位置付けます。「問い屋さんごっこ」は端的に言えば、個人で質問を売り買いしながら、質問のパターンを増やすゲームです。テーマが設定できればどのような教科でも活用できるので、定期的に行うとその効果や子どもの成長を実感できるでしょう。実施の手順は以下の通りです。
①問いを出して考えを広げたいテーマを設定する
②テーマに対する問いを小さなカードにできるだけ書き出す(裏には名前を書く)
③クラスを二つ(お客さんとお店屋さん)に分ける
④お店屋さんは机の上に自分のカード(問い)を並べる
⑤お客さんはお店屋さんのカードで気に入ったものがあれば自分のカードと交換する
⑥お客さんとお店屋さんの役割を交代し、もう一度売り買いを楽しむ
⑦最終的に手元に残ったカードから興味のある問いを選びそれについて考える

流れを順番に詳しく見ていきましょう。
◆①②では、問いをもとに考えを広げたいテーマを設定し、個人で問いをどんどん書き出させます。
例えば国語科で工芸品に関する説明文を読む単元であれば、「工芸品について知りたいこと」というテーマを設定することで、「そもそも工芸品ってなに?」「私の住んでいる地域にはどんな工芸品があるの?」「工芸品ってどうやって作るの?」「どこで工芸品は買えるのかな?」などの問いを書き出すことができるでしょう。
また、社会科で消防署について学習する単元であれば、「私たちの地域にはどこに消防署があるの?」「消防士になるにはどうすればいいの?」「消防士はどうやって火を消すの?」「消防士は役割分担ってするの?」などの問いを書き出すことができるでしょう。
これらの問いを解決することが、単元での学びを深めていくきっかけにもなるはずです。中学年ではとにかく問いを広げることが大切ですから、ここでは書き出すカードの枚数が重要です。子どもたちが問いの広がりを実感できるように、カードを書き出す姿を励ましてあげましょう。
◆③④⑤⑥では、お客さんとお店屋さんに子どもたちを分け、カードを売り買いする活動を行います。
カードの売り買いは個人で行います。お店屋さんは自分の机の上にカードを広げ、お客さんがお店屋さんの机を回りながら問いを品定めしていきます。お店屋さんにとって、机の上に並べるカードの品ぞろえが多いことは自信になります。初めて問い屋さんごっこに取り組むときはたくさんのカードを並べることができなくとも、回数を重ねるごとに意識的にカードをたくさん書き出そうとする子どもたちの姿が見られるはずです。
そして重要なのはカードを交換するときです。お客さんは、お店屋さんが並べている様々な問いのカードを見比べながら、お気に入りのものを選び、自分のカードと交換します。これは知らず知らずのうちに、問いの内容を吟味する活動へと変化していることをあらわしています。お客さんはお気に入りのカードを見つけ出したり、交換する自分の問いのカードを選んだりすることで、自分にとってその問いの価値が高いか低いかを考えているのです。楽しみながら問いへの認識を高めていくことができるというわけです。
◆最後に⑦では、手元に残ったカードを見て、答えたい問いを選び、一つずつそれに対する答えを考えていきます。
教科書から答えを探させるとするならば、目的をもって教科書を読み込むこととなります。図書館に連れていったり、タブレットで検索させたりすることで、調べ学習へと展開していくことも可能です。
AIへの注目が日々高まる昨今において、問いを立てる力は必須です。生成AIの利用において、素早く、たくさんの情報が出力される点に目がいく一方で、どのようなプロンプト(指示文)で質問するのかが、実は生成AIを使いこなすカギとなります。そしてこのプロンプトは、まさしく探究のための問いです。質問を指導するという切り口で、探究の問いを立てる力を身に付けさせていきましょう。
なお、後半のお店屋さんごっこで自分のお気に入りのカードが売れてしまうということもあるでしょう。そんなときは、そのカードに書かれた問いを思い出させ、それに答えていくことも認めます。そこまで大切にされる問いというのは、きっと子どもたちにとって何らかの理由があるはずですから、その問いになぜ価値を感じたのか、全体に説明させてみるとよいでしょう。その問いのカードを書き出した子どもにとっても大きな自信となるはずです。
さらに、より質問力を強化するために、問い屋さんごっこで扱われた問いの傾向をグループで調べてみるのもよいでしょう。問い屋さんごっこが終わった後に、机をつなげてその上に問いが書かれたカードを並べてグルーピングしてみるのです。そうすると、自分たちの問いの傾向が自然と分かります。「原因を聞く質問が多いね」「まずは言葉の意味を確かめる質問が大切だよね」というように、問うということについて一歩引いた目線で分析を加えることで、自分たちの質問力を客観的に把握することにつながります。学級の実態に応じて取り組んでみてもよいでしょう。
またカードに名前を書かせているので、最後に自分が書いたカードをもう一度集めさせることで、個人の問いを評価することもできます。主体的に学習に取り組む態度を評価する際の、具体的な根拠資料となることも期待できるでしょう。
