プロが伝授! 失敗しない保護者との電話応対テクニック~「上手な話の聞き方編」~
電話応対のプロが、保護者との信頼関係を構築する電話テクニックを紹介する連載の第二弾。今回は保護者に好印象を与える話の聞き方のポイント、トラブルを避けつつ早く電話を切り上げるコツを解説します。

目次
「この先生は話を聞いてくれる」という印象が、安心感を与える
電話は特に初期対応が重要です。冒頭から丁寧に受け答えをし、保護者の気持ち・状況を想像しながら、相手に寄り添うつもりで話に耳を傾けましょう。
特に、保護者から「心配事があり担任に相談したい」といった電話を受けた場合には、「ご連絡いただきありがとうございます」とまず感謝の気持ちを伝え、どんな心配事を抱えているのかしっかりと話を聴く姿勢を見せることが大切です。
表情が見えないため相手の気持ちや状況はイメージしづらいと思いますが、例えば保護者は電話の向こうで、「パンパンに膨らんだ風船」を抱えていると考えるとよいでしょう。風船の中には、不安、心配、疑問など、さまざまな感情が入っています。保護者に寄り添い、じっくりと話を聴くことで、風船の中の空気(感情)が少しずつ抜けていきます。そしてそれまで抱えていた不安や心配といったネガティブな感情が小さくなり、「この先生は私の思っていることをしっかりと聞いてくれる」という安心感に変えることができたら、そこから大きなトラブルに発展することはほぼありません。
ところが、相手の話を最後まで聴かず、反論したり、学校の事情や自分自身の状況などをぶつけてしまうと、保護者が抱えていた風船、つまりネガティブな感情が破裂して、収拾がつかなくなってしまうのです。
保護者に好印象を与えつつ、上手に話を切り上げる3つのテクニック
「この先生は話をよく聞いてくれている」と思わせ、好印象を与えながら、上手に話を切り上げるためのテクニックが「相槌」「復唱」「質問」です。
①「相槌」を打つ
1つめが「相槌」です。電話では相手の表情が見えないため、「はい」「ええ」「承知しました」などの適切な相槌を挟むことで、相手に話を聞いてもらえているという安心感を与えられます。但し、「はい」「ええ」を繰り返すだけでは、冷たい印象を与えかねないので、「それは心配ですね」「おっしゃる通りですね」などと共感を示す表現を適宜加え、相手の話に応じた相槌を心がけることが重要です。
②「復唱」する
2つめが「復唱」です。相手の言葉を繰り返すのです。「心配なんです」と言われたら「心配なのですね」と繰り返す、「○〇で困っている」と言われたら「〇〇でお困りなのですね」と、教師としての意見や主観を加えずに、相手の言葉を復唱しながら話を聞くことで、保護者は自分の気持ちに寄り添ってくれていると感じ、信頼してくれるようになります。復唱する際、セリフが棒読みにならないよう、言葉に抑揚をつけて話すことを心がけましょう。
③「質問」して話の主導権を握る
電話で相槌と復唱を続けていく中で、保護者が安心し解決する場合もありますが、先生にもっと話を聞いてもらいたいと感じてしまうあまり、話題が逸れてしまったり、話が広がったりして電話が長引いてしまうこともあります。電話が長引きそうな時に、相手に不快感を与えず上手に話を切り上げるために有効なのが「質問」です。「質問」を投げかけ、話を聞く側から展開する側に回ることで、話の主導権を握るのです。
例えば、
「最近娘が自宅で泣いてばかりいるんです」
という相談を受けたら、
「自宅で泣いてばかりいるんですね。心配ですね」
と、相槌を打ち、復唱しながらしばらく話を聴きます。
保護者の気持ちが落ち着いてきたと感じたら、
「お母様、お父様も大変ですねご家庭で泣く姿を見るようになったのはいつごろからですか?」
などど質問を行います。
質問は1つだけでなく、
「この1週間では、何回くらいないていましたか?」
「昨夜はいかがでしたか?」
「泣きやんだあとは、どのような様子ですか?」
などと、2~3ほど用意するとよいでしょう。
ここでのポイントは、質問をすることにより、話の主導権を自分が握ることです。
保護者の方が自分の質問に答え終わったら、間髪入れずに
「ご事情は良くわかりました。いろいろお話くださりありがとうございます。私も学校で様子を見てまいりますので、1~2週間後にでもまたご家庭の様子をお聞かせいただけますか?」
と、あくまで今後も継続してつながりをもつ姿勢を見せながら、話を切り上げます。保護者も話を聞いてもらったことで落ち着きを取り戻しており、更に2週間後にまた相談できるという見通しをもつことができるので、安心して電話を切ることができるでしょう。
電話の最後には必ず「この度はご連絡いただきありがとうございました」と謝辞を伝えるようにしましょう。
会話はキャッチボール。しっかり気持ちを受け止めてから返すこと
話を聞いていると、保護者から質問を投げかけられることも多いでしょう。保護者からの質問に対して返答する際の注意点は、話のテンポを合わせること、そして相手の気持ちをしっかりと受け止めることです。
保護者から質問されると、緊張してしまいつい早口になってしまう人も多いものです。早口で話されると、相手は威圧的に感じ、印象が悪くなってしまいます。一方で、相手がテンポよく話しているのに、ゆっくり、おっとり返答すると、テンポが合わず「のんきな先生だ!」とイライラしてしまう人もいるので注意しましょう。
また保護者が質問する場合、常にYES・NOといった答えが欲しいわけではないということを理解しましょう。質問をしながら自分の不安な気持ちを知ってほしいというケースも多いものです。野球のキャッチボールのように、相手から投げられたボール(気持ち)を、キャッチしてから、注意深く返答する必要があります。
<悪い例①>
保護者「息子は気が弱いんでしょうか?」
教師「そんなことはないと思いますよ。大丈夫ですよ」
<悪い例②>
保護者「うちの子、成績がなかなか上がらないんです」
教師「もう少し授業中に集中して話を聞いてくれるとよいのですね」
これではどちらもボールを投げ合っている状態の会話です。保護者は自分の気持ちが教師に伝わっていると思えず、不安感が増すだけです。このままでは会話自体もすれ違ってしまうこともあるでしょう。いったんは相手の気持ちを受け取ってから、教師としての意見や見解を述べるようにしましょう。
<よい例①>
保護者「息子は気が弱いんでしょうか?」
教師「お子さんは気が弱いのではないかと心配なのですね。学校では元気にお友達たちと遊んでいますよ」
<よい例②>
保護者「うちの子、成績がなかなか上がらないんです」
教師「成績を心配なさっていらっしゃるんですね。ご心配かと思いますが、授業でも積極的に発言する姿も見られますし、もう少し様子を見てもよいと思っています」
「電話の一番の目的は何か」を考えながら聞く
電話で保護者の話を聞く際には、相手の気持ちに寄り添いつつも、電話をかけてきた目的を考えるようにしましょう。
しっかりと話を聞きながら、「何を一番訴えたいのか」「何を一番聞きたいのか」を探り、電話の目的が見えてきたら、その目的達成にできるだけ近づけてあげるようにしましょう。
但し、長くお話をなさる保護者ほど、電話の目的が見えなくなってしまう場合もあります。その場合は、冷静に、キャッチボールをして相手の気持ちを受け止めながら会話をし、さりげなく質問を繰り返して目的を明確にしましょう。
次回は、保護者に信頼される電話での「話し方」を解説します。

監修者:佐藤万里(サート企業株式会社 代表取締役 )
NTT入社、横浜のコールセンターに配属。
その後、秘書業務に従事。社内の研修部門に配属になりインストラクターとなる。
社内のコールセンター(番号案内、故障部門、116)営業、法人、料金、など社内の全部門の研修に携わる。各企業や官公庁、ホテル、病院、学校などの研修も担当。2010 年サート企業株式会社取締役 研修事業部長を経て、現在は、代表取締役社長。
もしもし検定、ビジネスマナー研修、CS 研修、リーダー研修、コミュニケーション研修やクレーム、ハラスメント研修など企業のご要望を取り入れ、ロールプレイング中心の研修を実施。30 年以上の研修経験を持つ。電話応対コンクールでは、地区や県大会、全国大会、企業応対コンテストの審査員を務める。
(公財)日本電信電話ユーザ協会の契約講師。電話応対技能検定指導者級を取得。
取材・構成・文/出浦文絵
