プロが伝授! 失敗しない保護者との電話応対テクニック~「電話をこじらせる人の特徴」
電話は、連絡帳と並び、保護者との貴重な連絡手段であり、信頼関係を大きく左右する重要なツールです。しかし教師の場合、電話応対についてきちんと学ぶ機会のないまま実践に臨まなければならず、苦手意識を持っている方もいるのではないでしょうか。
そこで、電話応対のプロが、保護者との信頼関係を構築する電話テクニックを紹介する連載をお届けします。永年企業や教育機関における電話応対の研修等に携わり、現在は電話応対コンクールの審査員も務める佐藤万里さんが、保護者との電話をこじらせてしまう人の特徴から、好印象を与える電話応対のポイント、トラブル時の対応法まで具体的に解説します。

目次
電話応対の善し悪しは、保護者にとって教師を判断する材料になる
保護者との電話応対は緊張が伴うため、苦手意識を持ってしまう先生方もいるでしょう。しかし、教師だからこそ、できるだけ早く感じが良い対応法を身につけていただきたいものです。
なぜ電話応対が重要なのでしょうか。それは保護者にとって一本の電話が、良くも悪くも教師を判断する材料になってしまうからです。
もし電話応対で保護者に悪い印象を与えてしまうと、その後子供が家庭内でクラスや先生の話をするとき、保護者は先入観を持って聞いてしまうでしょう。更に電話で感じた悪い印象を他の保護者に共有されてしまうことにもなりかねません。一方で、よい印象を与えることができれば、保護者は教師を信頼し、心強い味方になってくれるでしょう。
つまり、感じが良い電話応対を身につけることは、無駄な保護者対応の時間を減らし、学級経営をスムーズに進めるための大きな武器となるのです。
教師は、電話応対の指導を受ける機会が圧倒的に少ない
電話は、文章よりも気軽に会話を交わすことができる反面、相手の表情が見えないため、予想もしない相手の言葉や反応に対して感情的になってしまったり、会話を切り上げるタイミングが難しく長時間の対応を余儀なくされたりといったリスクもあります。
こうしたリスクを回避するためにも、電話でやりとりをする場合の話の聞き方、話し方のポイントを押さえる必要があります。
通常、企業では新入社員向けの研修の際、電話応対に多くの時間を割くのが一般的です。様々な状況をイメージしたトレーニングを積み、それぞれ「表現力」を身につけて実践に臨むのです。但し、先生方の初任者研修では、電話応対について学ぶ時間が圧倒的に少なく、経験不足の状態で対応を迫られることになります。そして注意点や解決方法も知らず、表現力も身についていない状態で保護者からの難しい相談内容を電話で受け、結果的に長時間拘束されたり、相手を怒らせたりすることで、苦手意識をもってしまうという人も多いのではないでしょうか。
そもそも先生方は、自分が電話で話している姿を見る機会は少ないのではないでしょうか? そのため自分の電話での声や話し方が、相手にどう伝わっているのか想像できないのです。自分では丁寧に話をしているつもりでも、なぜか保護者を怒らせてしまうという人は、自分の電話応対の様子をボイスレコーダーで録音したり、ビデオで撮影したり、第三者に聞いてもらったりすることをお勧めします。そして自分自身の電話応対の仕方をふり返ってみましょう。
保護者との電話をこじらせがちな人の5つの特徴
電話での初期対応に躓き、つい保護者を怒らせてしまう、という先生もいれば、難しい保護者からの電話も上手に対応し、早々に電話を切り上げ、しかも信頼関係も築いている、という先生もいるでしょう。その違いはどこにあるのか。まず、電話をこじらせがちな人の特徴を紹介します。
①「何を話すのか」に注力し、「どのように話すか」を考えない人
保護者と電話で話す場合、「伝えるべきこと」を事前にメモを取ったり、上司に相談したりして、事前に準備を行う人も多いでしょう。しかし、実は電話は顔が見えないからこそ、「何を話すか」だけでなく、「どのように話すのか」に注意を向ける必要があります。同じ内容の話であっても、「話し方」によって相手の印象、受け取り方は大きく変わってしまうからです。
「どのように話すのか」という点に着目して考えると、話す順序、話し出しの声のトーンも変わってくるでしょう。例えば、表情が見えない電話応対では、声で相手の印象が決まってしまうといっても過言ではありません。そのため、第一声がとても重要です。たとえ急いでいても、通常よりも一段トーンを上げて、明るく、はっきりした声を出すことを心がけましょう。更に、「抑揚をつけてゆっくりと話す」ということも意識したいものです。この話し方にはコツがあるため、後半の回で詳しく解説します。
②正直すぎる人
正直な人は、よい人であると思われがちですが、相手に自分の感じていることをすべて正直に伝えてしまうことにはリスクが伴います。
例えば、保護者が「うちの子、最近乱暴になってきた気がするんです」と相談をしてきた場合、学校での様子を振り返り、「確かに、学校でも時々少し乱暴な言動が見られるときもありますね」と伝えたとしましょう。
保護者の困りごとを受け、正直に学校での様子を伝えているつもりかもしれません。しかしこれでは保護者の不安を煽ってしまうだけです。保護者は、自分では自分の子供に対してネガティブな言葉を使うことがあるものの、第三者から言われるとものすごく深刻に捉えて傷ついてしまうものなのです。ショックを受けるだけでなく、「気づいているなら、なぜ学校で改善してくれないのか」と逆に怒りを買うことにもなりかねません。
そもそも保護者から「子供が乱暴になってきたように感じる」と電話で相談を受けたとしても、その場で子供が乱暴な子なのかどうかをジャッジする必要はないのです。まず、保護者が不安を感じている、ということに着目し、なぜそう感じているのかその背景について質問をしてみましょう。家庭でのどのような言動からそう感じるのか、いつごろからそうした言動が見られるのかなど、具体的に話を聞くことで、保護者は教師が自分の不安に対し寄り添ってくれていると感じ、好印象を持ちます。家庭での様子をしっかりと聞いた上で、「お子様のそうした言動が不安なのですね。学校でも注意してみていきますね」と伝えればよいのです。
そして、学校の様子を伝える際には、「正直に事実をそのまま伝えることで、相手を傷つけることがある」ということを認識した上で、「相手がどう感じるのか」を考えながら、できるだけネガティブな言葉は上手にポジティブなワードに言い換えるなど、伝え方を工夫しましょう。
③保護者の話を最後まで聴かない人
保護者からの電話は、時に要領を得ない相談事だったり、とりとめもない話であったりするものです。その際、できるだけ早く電話を切り上げようとして、相手の話を遮って結論を言ってしまったり、自分から具体的に説明することで納得してもらおうとしたりすることがあります。しかし、まずは相手の話をしっかり聴く、ということが大切です。
特に電話でトラブルが多い人の場合は、自分では十分相手の話を傾聴しているつもりでも、実は想像以上に自分から話してしまっていると捉え直したほうがよいでしょう。
保護者が子供について不安に感じていることを電話で教師に相談する場合、毎日学校で子供と接している先生の中には、話の途中でどんなことが気になっているのか大方想像できてしまうことがあるかもしれません。また、他の保護者から同じような悩みについて相談を受けることも多く、敢えて最後まで聞かなくても話の内容がわかってしまうこともあるでしょう。しかし、話の全体像や解決策が想像できる、もしくは学校では解決済みの話題であっても、口を挟まずに、最後まで聞くことを心がけましょう。保護者は、不安な気持ちを聞いてほしいのです。「この先生は、しっかりと保護者の話を聴いてくれる」と思ってもらうことが信頼関係の第一歩と考えましょう。
一般的にも、電話応対に関しては、早く解決させよう、話を早く切り上げようとすればするほど、話はもつれやすく、相手の話をしっかり聴いたほうが、スムーズにトラブルを回避できることが多いものなのです。
④自分の感情が声に出てしまう人
電話でありがちなトラブルの一つが、保護者は単純に疑問に感じていることを質問したり、普通の会話をしたりしているつもりなのに、教師側が必要以上に身構えてしまうあまり、会話がギクシャクして不快感を与え、結果的に相手を怒らせてしまう、というものです。
保護者としては善意で学校に電話をしているだけであり、まして文句を言うつもりは全くなかったのに、まるで口うるさい保護者のように扱われたことに対してイライラが募り、怒りだしてしまうというケースもよくあります。
恐らく先生には、その時たまたまとても忙しくて電話を長引かせたくないと感じていたり、担任として責められていると感じてしまっていたり、以前から電話に苦手意識があったりと、いろいろな原因があるのかもしれません。
いずれにしても、電話は顔が見えないからこそ、相手にネガティブな感情が伝わってしまうとこじれてしまうことが多いということを理解しておきましょう。特に無言になってしまうと、相手に不安感を与えるので注意が必要です。
声にも「表情」があるのです。疲れている、忙しい、悲しい、といった感情は相手に悟られないように、電話の前でも口角を上げて笑顔を作り、常に明るく対応することで、無駄なトラブルを回避することにつながります。
⑤「いろいろな感情の人がいる」ということが想像できない人
電話の対応法の正解は一つでありません。相手の感情に基づいて、返答の仕方や、聞き方、話し方も柔軟に工夫する必要があります。但し、それでもどうしても「対応の難しい人」はいるものです。その場合は、自分一人で解決しようとせず、管理職などに対応を相談しましょう。
「こんなに自分は一生けん命話しているのに、なぜ相手に理解してもらえないのだろうか」と悩むことがあるかもしれませんが、そもそもどんなに真摯に話しても、相手にすべて正しく理解してもらうということはとても難しいことなのです。
「わかってもらいたい」と思うあまり、言い方が強くなってしまったり、感情的になってしまったりして、相手を怒らせてしまうこともあります。
自分では、論理立てて丁寧に説明しているつもりでも、相手からは「言い訳を言っている」としか見えないこともあるのです。
「いろいろな感情の人がいる」「自分とはまったく考え方の違う人がいる」という意識を持つだけでも、気持ちを切り替え、客観的に話をすることができるようになり、必要以上に自分自身を責めることも少なくなります。
保護者と信頼関係を構築するには、お互いを理解し合うことよりも、まずは相手の不安感を取り除き安心してもらうほうが近道なのです。そのためにも、まずは「傾聴」することです。この「傾聴」の仕方にもテクニックが必要です。
次回は、保護者から信頼され好感度をアップする「上手な話の聞き方」を解説します。

監修者:佐藤万里(サート企業株式会社 代表取締役 )
NTT入社、横浜のコールセンターに配属。
その後、秘書業務に従事。社内の研修部門に配属になりインストラクターとなる。
社内のコールセンター(番号案内、故障部門、116)、営業、法人、料金、など社内の全部門の研修に携わる。各企業や官公庁、ホテル、病院、学校などの研修も担当。2010 年サート企業株式会社取締役 研修事業部長を経て、現在は、代表取締役社長。
もしもし検定、ビジネスマナー研修、CS 研修、リーダー研修、コミュニケーション研修やクレーム、ハラスメント研修など企業の要望を取り入れ、ロールプレイング中心の研修を実施。30 年以上の研修経験を持つ。電話応対コンクールでは、地区や県大会、全国大会、企業応対コンテストの審査員を務める。
(公財)日本電信電話ユーザー協会の契約講師。電話応対技能検定指導者級を取得。
取材・構成・文/出浦文絵
