次年度に向けて「特別なことをしない」と「特別なことをする」を両立しよう|俵原流!子供を笑顔にする学級づくり #10

子供の笑顔を育てる「笑育」という実践のもと、安全で明るい学校、学級をつくってきた俵原正仁先生。これまで培ってきた学級づくりのアイデアやメソッドを、ユーモアを交えつつ、新任の先生にも分かりやすく解説します。月1回公開。
執筆/元・兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
はじめに
さぁ、3学期が始まります。いよいよ今年度も大詰めを迎え、残すところあと3か月となりました。
この時期になると、どの先生も「まとめ」に意識が向きます。学習のまとめ、行事のまとめ、学級のまとめ……。しかし、私は現役時代、3学期を迎えるたびに自分に言い聞かせていたことがあります。
それは、「3学期は『まとめ』の時期であると同時に、『次の学年へつなぐ時期』でもある」ということです。これまでの学びや成長をしっかりと振り返りながら、その成果を次のステージへ生かしていく。「まとめ」と「つなぎ」を両立させる意識が、子供たちの成長をより確かなものにします。
そして、そのことに私が気付いたのは、ある失敗がきっかけでした。
燃え尽き症候群に陥った子
私が担任をしていたときの話です。ある年の年度が替わった4月、放課後、職員室にいると、6年生担任の園田先生が話しかけてきました。
園田「去年、俵原さんが担任していた山本さんのことなんだけど……」
俵原「やる気がありすぎて、ときどき、空回りすることがありますよね。」
私の山本さんの印象は、何をするにも意欲的でやる気満々の女の子というものでした。
園田「いや、そうじゃなくて、なんか元気がないのよね。去年、俵原さんの研究授業で見たときのイメージと全然違うんで、実は普段の山本さんはおとなしい感じなのか、聞いてみたかったの。」
園田先生の口からは返ってきたのは予想もしない言葉でした。私は少し戸惑いながら答えました。
俵原「いや、普段もあんな感じでしたけど……」
園田「じゃぁ、学年が上がって、クラスや担任が変わったことが原因かしら。一度、山本さんと話してみるわ。」
園田先生は浮かない顔のまま、教室に戻りました。その後、園田先生から聞いた話は、私にとって衝撃的な内容でした。
園田「実は、山本さんって、たわせん(=俵原先生の愛称)のときにがんばりすぎて、今はなんかやる気が出なかったらしいの。」

山本さんの燃え尽き症候群の原因は私だったのです。幸い、園田先生は力量がある先生でしたので、山本さんのやる気も元に戻り、充実した6年生の1年間を過ごすことができたのですが、一歩間違えればえらいことになっていました。彼女の人生のピークが5年生になってしまうところでした。
繰り返し言いますが、こうなった責任は私にあります。確かに、前年度の3学期、子供たちの力を伸ばそうと気合の入った取り組みを最後の最後まで続けていました。特に、山本さんは私の期待に応えようと頑張りすぎたのです。そして、その結果、次年度に見事リバウンドを起こしてしまったということです。無理なダイエットがリバウンドを起こすように、指導自体にもどこか無理なところがあったのでしょう。ひとえに、私自身が目先のことしか意識していなかったことが原因です。
特別なことをしない――オーソドックスな授業を心がける
この出来事以降、私が3学期に強く意識するようになったことがあります。
それは、
次の学年へのスムーズな移行
です。
若いころの私は、「自分のカラー」を出した学級づくりに熱中し、いわば学級王国をつくりがちでした。しかし、クラス替え後に新しい環境にうまく適応できない子が出てしまうことがある――そのことを痛感してから、3学期の指導を見直すようになったのです。
1つ目は、教師の指導の圧を少しずつ弱めていくということです。
ここで言う「圧」とは、教師の熱量が子供たちに伝わって、教室全体を動かしていくような力のことです。当時の私は、叱ったり押し付けたりするような強圧的なものではないので、これは「いい圧」だとさえ思っていました。計算練習や音読など、最後の最後まで子供たちを伸ばそうと力を入れていたのですが、それが結果的に山本さんのように「燃え尽き」を招くこともある、そう学んだのです。

2つ目は、オーソドックスな授業を心がけることです。
3学期はオリジナル教材や特別な演出を減らし、教科書に沿った授業を丁寧に行います。教師が前面に出ることを控え、子供たち自身が考え、動く時間を増やす。そうすることで、子供たちは新しい環境にも柔軟に対応できるようになります。
また、オーソドックスな授業とは、「教科そのものの魅力で勝負する」ことでもあります。例えば、社会科を好きな理由が「たわせんの授業が面白いから」では、担任が変わった瞬間にその興味も薄れてしまうかもしれません。けれども、「社会という教科そのものが好き」という気持ちを育てることができたのなら、担任が誰であってもその子の学びは続きます。
つまり、
特別なことをしない。
それが、子供たちの次の一歩を支えることになるのです。
特別なことをする――心に残る「3学期らしさ」を添えて
「特別なことをしない」ことで、子供たちの気持ちや学びのリズムを整える――そうすることで、次の学年へのスムーズな移行を行うことができます。でも、そこにもう1つ、3学期ならではの温かいエッセンスも加えていきます。
それは、
特別なことをする
ということです。
ここでいう「特別」とは、派手さや大がかりさのことではありません。例えば、学級通信の最後の号を全員へのメッセージで飾ったり、子供たち同士で感謝の言葉を贈り合ったりする、そんな日常の中の「特別」なことをいいます。
そのような実践を1つ紹介します。
突然ですが、漢字のテストをします。
え~っ、言ってなかったやん。
予告なしでも発揮できる力が本物の力です。君たちならできるはずです。
と、少し挑発して、プリントを配ります。しかし、そこに書かれているのは、①から㉞の番号のみ。一言、補足をします。
クラスの友達の名前を漢字で書いてください。
普通(?)の漢字テストではない……ということで、一瞬、子供たちはほっとした表情を見せます。少し間があいた後、質問が出ました。
フルネームですか?
もちろんです。苗字も名前もしっかり書いてください。
習っていない漢字も書くんですか?
自分の名前なら、習っていない漢字でも書けるでしょ。できれば書いてほしいけど、まぁできる範囲でいいですよ。ただし、習っている漢字は書いてくださいね。
①から㉞まで番号が書いているけど、出席番号順に書くんですか?
書く順番は出席番号順でも思い付いた順でも、どちらでもかまいません。
子供たちの質問に一通り答えて、「友達の名前漢字テスト」がスタートしました。
子供たちは普段の漢字テスト以上に苦戦しています。仲のよい友達のフルネームは何とか書けても、クラス全員となるとなかなか書けるものではありません。
漢字が分からない場合は、平仮名でもいいからフルネームで書いてくださいね。
こうなると、もはや漢字テストではなくなっていますが、この条件でも34名全員書けた子はほんの数人でした。テストを集めて、この日は終了。
次の日、テストを返しながら、軽く挑発します。
君たちは1年近くもいっしょに過ごしている友達の名前も書けないことが分かりました。レベル2は難しすぎたようです。残念だけど、レベルを1にして再テストします。
教師はわざとらしく泣く真似をして、今度はひらがなで名前が書かれた問題文のプリントを配ります。子供たちは、漢字の練習をしながら、クラスの友達一人一人を意識して、残り少なくなった日々を過ごすようになります。
「特別なことをしない」と「特別なことをする」。一見、矛盾しているように思えるかもしれません。でも、この2つは両立します。日常の中では「特別なことをしない」ことで子供たちの心が落ち着き、そこに小さな“特別”を加えることで、学年の締めくくりが温かく、印象深いものになるのです。この両輪を意識して過ごすことで、クラスの空気は穏やかに、そして確かに温まっていきます。
おわりに
1つ、大切なことが抜けていました。実は、次の学年へのスムーズな移行という意味では、オーソドックスな授業をすること以上に大切なことがあります。
それは、積み残しをしないということです。ただ、今の時点で、2学期の積み残しがなければ、それほど神経質になる必要はありません。それでも、特に新出漢字の学習と算数の進度には遅れが出ないように計画してください。当たり前すぎることですが、それだけにクリアできないと子供にも次年度の担任にも迷惑をかけてしまいます。お気をつけて……。
次回予告
次回からは、そんな“特別なことをする”の具体例を、さらに詳しく紹介していきます。まずは、学級全体で思い出をつくるためのイベント実践を。そして、続く回では、1時間で完結できるおすすめ授業をお届けする予定です。
「日常」の中に、次年度まで引きずることがない「非日常」の特別な時間を入れてきます。どちらも、3学期を笑顔で締めくくり、次の学年へと心をつなぐヒントになるはずです。お楽しみに。

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校元校長。2025年3月に定年退職後、芦屋市を中心に教師の力量向上のための学校支援相談員として活動中。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
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【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
若い教師のための1年生が絶対こっちを向く指導(学陽書房)
イラスト/イラストAC
