「薬物乱用防止教育」とは?【知っておきたい教育用語】
深刻な社会問題にもなっている薬物の乱用に対して、政府は「第六次薬物乱用防止五か年戦略」(令和5年8月)を策定し、総合的な対策を講じています。この戦略には、「青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用防止」が掲げられています。今回は、その取組の一つである「薬物乱用防止教育」について解説します。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明

目次
薬物乱用防止教育とは
【薬物乱用防止教育】
青少年による覚醒剤などの薬物乱用の防止を目的とした教育。近年では、市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)という薬物乱用も社会問題化している。
はじめに、薬物乱用とは、薬物を社会的許容から逸脱した目的や方法で自己使用することです。麻薬や覚醒剤、大麻は、法律でその使用自体が規制されているので、薬物乱用に該当します。薬物依存とは、薬物乱用の繰り返しの結果であり、自己コントロールできずに、止められない状態のことを指します。さらに、薬物依存に基づく薬物乱用を繰り返した結果、薬物慢性中毒となります。
薬物乱用による健康への影響には、急性中毒や慢性中毒などがあります。また、注射器の使いまわしによる薬物乱用では、HIV感染やウイルス性肝炎などの血液を介する感染症のリスクの増大も懸念されます。さらに、薬物依存は本人の健康を害するだけでなく、家族や友人などとの対人関係上の問題も引き起こし、社会生活上の問題へと発展していきます。その結果、薬物乱用する人が増加し、社会全体における問題となるのです。
青少年の薬物乱用の背景には、次のような要因があります。
薬物乱用の開始の背景には, 自分の体を大切にする気持ちや社会の規範を守る意識の低下,周囲の人々からの誘い,断りにくい人間関係,インターネットを含む薬物を手に入れやすい環境などがある
文部科学省(PDF)「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 保健体育編 体育編」平成30年7月
上記のことから、薬物乱用の背景には様々な要因が関わっており、その防止に学校や警察などの関係機関、団体が密に連携をとり、啓発を推進していく必要があります。その取組の一つとして薬物乱用防止教育は大きな効果を発揮することが期待されています。
学校における薬物乱用防止教育
薬物乱用の防止としては、依存性薬物を使用するきっかけそのものを除いたり、各個人がきっかけとなる誘因を避けたり、あるいは拒絶したりすることが、一次予防となります。学校教育では、ハイリスクグループのみを対象とするのではなく、学校や学年あるいは学級全体の児童生徒を対象とします。
学校における健康教育では、薬物乱用の問題を広い視野でとらえる必要があります。健康教育では子どもが身近な生活における、健康に関する知識を身につけることや、必要な情報を自ら収集し、適切な意思決定や行動選択を行い、積極的に健康な生活を実践することのできる資質・能力を育成することが目標となります。そして、この目標の達成こそが薬物乱用問題の本質的解決につながるのです。
第六次薬物乱用防止五か年戦略においても、学校における薬物乱用防止教育の内容および指導方法の充実が求められています。
学校における薬物乱用防止教育は、小学校の体育科、中学校及び高等学校の保健体育科、特別活動の時間はもとより、道徳、総合的な学習の時間等の学校の教育活動全体を通じて指導が行われるよう引き続き周知を図る。
厚生労働省(PDF)「第六次薬物乱用防止五か年戦略」薬物乱用対策推進会議、令和5年8月