よくわかる教育委員会〜指導主事の仕事を中心に|第2回「教育委員会の仕事と国・自治体との関係」
連載初回である前回は、ある指導主事の一日をご紹介するとともに、「教育公務員」の特殊性と責任を解説しました。教育公務員たる我々は、指導力や授業力、校務遂行力、果ては社会人としてのモラルに至るまで、職種の特殊性を念頭に置いて自身を磨かなければならないと述べました。
第2回となる今回は、教育委員会の仕事とともに、国(おもに文部科学省)、都道府県教育委員会、市町村教育委員会の関係について解説します。こちらも連載の構成上,まず法的な位置づけを押さえておく必要があるため、法規を基にした(少々小難しい)解説となることをご容赦ください。


西村健吾(にしむら・けんご)
1973年鳥取県生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、鳥取県の公立小学校および教育委員会で勤務。「マメで、四角く、やわらかく、面白い…豆腐のような教師になろう!」を生涯のテーマにしている。学校教育に関わる書籍を多数執筆。近著は『学校リーダーの人材育成術』(明治図書)。現在、米子市立福生東小学校長。本コラムは、10年間の教育委員会事務局勤務の経験を元に執筆している。
学校現場から教育委員会に着任すると、全てのことが一変します。目の前に子供たちは存在せず、ひたすら文書と電話、メールの世界に埋没することになります。「ボサツ」「リンギ」「キョウラン」「トツゴウ」「ワリイン」「コウエツ」「セコウ」「ゴウギ」などなど、なじみのない、あるいは生まれて初めて聞くような言葉ばかりが飛び交っています。
一変するのは、言葉ばかりではありません。「首長」「教育長」「局長」「次長」「課長」「係長」「管理主事」「議員」「企業の役員」「報道関係者」などなど、関わる人は、それまでまるで縁のなかった方々ばかりです。それまで教員として培ってきた知識や経験のほとんどが役に立たないのではないか……、そんな無力感や焦燥感に襲われてしまうかもしれません。
当然のことながら、業務は質・量ともに一変します。とくに、指導主事は教育委員会の「指導主事」として教育内容に関わる業務のほか、役所の「事務吏員」としての業務も求められます。市町村教育委員会指導主事の場合、この遂行にあたっては、国(おもに文部科学省)及び都道府県教育委員会と、膨大かつ難解な行政文書等を通じたやり取りを、迅速かつ正確・適切に行わなければなりません。そのためには、これら三者の関係性についてよく理解し念頭に置いておく必要があります。ただ、これがまたややこしいので、以下教育委員会の仕事とともにご説明いたします。
1分で分かるダイジェスト動画(試験運用中)
※動画は生成AIを利用した「NoLang」にて作成しました。
目次
教育委員会の仕事
まずは教育委員会の仕事について説明します。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の第21条「教育委員会の職務権限」では、教育委員会の所管事務を次のように列挙しています。
- 学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止
- 学校その他の教育機関の財産の管理
- 学校の職員の任免、人事
- 学齢児童生徒の就学、入学、転学、退学
- 学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導、職業指導
- 教科書、教材の取り扱い
- 校舎、教具等の整備
- 校長、教員その他の教育関係職員の研修
- 校長、教員その他の教育関係職員並びに児童生徒の保健、安全、厚生、福利
- 学校その他の教育機関の環境衛生
- 学校給食
- 青少年教育、女性教育、公民館事業等の社会教育
- スポーツ
- 文化財の保護
- ユネスコ活動
- 教育に関する法人に関すること
- 教育に係る調査及び基幹統計、その他の統計
- 所掌事務に係る広報、教育行政に関する相談
- その他
一般に教育委員会の仕事というと、「学校の職員の任免、人事」「学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導、職業指導」「校長、教員その他の教育関係職員の研修」あたりが真っ先に思い浮かぶでしょう。しかしご覧の通り、教育委員会の仕事は、必ずしも学校教育に関することだけではありません。生涯教育、社会教育はもちろん、文化財の保護など、非常に多岐にわたっています。
そして、これらの仕事には、自治体の規模によって違いはあるものの、それぞれ担当する指導主事が割り当てられています。そのため、学校の先生から指導主事になったからといって、学校教育のみに関わるとは限りません。社会教育や文化財の担当になることもあります。場合によっては、教員出身の指導主事が、土地の買収や住民説明会といった、まるで教育とは無縁の業務に従事することさえあります(苦笑)。
逆に生粋の市役所職員が、教育委員会に派遣される場合もあります。公教育について、より多面的な視点で考えていく必要があるからです。教育委員会の方と関わる際には、こうした背景を頭に入れておくとよいでしょう。
教育行政における国と自治体の関係を定めた法律
続いて、教育行政における、国(おもに文部科学省)、都道府県教育委員会、市町村教育委員会の関係について解説します。これらの関係は、なんとなく「上意下達による指示命令系統」というイメージを持っている人が少なくないのではないでしょうか。