私の生成AI活用アイデア:複数のペルソナを設定して多視点から意見をもらう|濱 優貴 先生(船橋市立中学校)
生成AIを教育の現場でどのように扱ったらよいのか、学校・教室での実践が進んでいます。今回は千葉県の公立中学校教諭・濱 優貴先生から届いた実践事例の紹介です。音楽科教諭として学習指導案の作成や行事準備、生徒指導などの場面でAIに様々な役割を演じさせ、複数の視点からフィードバックを得ることで、より質の高い教育実践を実現する方法を紹介します。AIを「授業づくりのパートナー」として活用し、教員の業務効率化と教育の質向上を両立させる実践的なヒントが満載です。

実践報告:濱 優貴
千葉県船橋市立海神中学校 音楽科教諭/吹奏楽部顧問 東京音楽大学卒。2011年より公立中学校で音楽教諭として勤務。現在は海神中学校で教務主任等を歴任。吹奏楽部を指導し、2024年には24年ぶりの全国大会出場を達成。全日本吹奏楽コンクールや全日本マーチングコンテストにも複数回出場。Google for Education認定トレーナーとしてICT活用や生成AI導入など、教育DXにも取り組む。(所属は寄稿時点のものです)
目次
はじめに:AIとの出会いがもたらした変化
「先生、また会議ですか?」「この書類、いつまでに仕上げれば……?」職員室で飛び交うこうした言葉は、多くの先生方にとって日常かもしれません。中学校で教務主任を務める私も、次から次へと押し寄せる業務の波に、正直、息切れしそうになることがあります。音楽の授業を通して子どもたちの豊かな感性を育みたい、一人ひとりの心に寄り添いたい……そんな想いとは裏腹に、書類作成や会議に追われ、本当に大切な「子どもたちと向き合う時間」が削られていく現実に、長年、もどかしさを感じていました。
そんなとき、まるで迷子の私に道を示してくれるコンパスのように、私の前に現れたのが生成AIでした。正直なところ、最初は「音楽のような感性を扱う授業に、どこまで役立つのだろうか」と半信半疑でした。合唱指導で生徒の声がなかなか一つにならないとき、AIにどんなアドバイスができるというのか?新しい鑑賞教材を探す時間は、結局自分でやるしかないのでは?そんな風に思っていたのです。
しかし、わらにもすがる思いで、まずは授業で使うワークシートのたたき台作成や、膨大な演奏会の参考資料の要約など、比較的単純な作業から試してみました。すると、驚くほど短時間で、しかも的確なアウトプットが返ってきたのです。「これは……使えるかもしれない!」 手応えを感じた私は、次第に指導案の壁打ち相手になってもらったり、生徒の興味を引きそうな現代音楽の情報を集めてもらったりと、少しずつ活用の幅を広げていきました。試行錯誤を重ねるうちに、AIは単なる便利な道具ではなく、私たちの働き方、そして子どもたちの学びを根底から変える可能性を秘めた、頼もしい「パートナー」なのだと確信するようになったのです。
教員の抱える課題:多忙さと、経験が共有されにくい現実
まず、私たち教員が日々直面している課題を改めて見つめ直してみましょう。
一つは、やはり「多忙さ」です。私の場合、授業準備はもちろん、山のような楽器の管理や修理の手配、合唱コンクールの選曲・編曲・指導、そして部活動(私の場合は吹奏楽部です)の指導など、音楽科の教員は専門的な業務も多く抱えています。学習指導要領に沿った質の高い指導案を作成することは授業の根幹ですが、例えば「主体的な学び」を促す新しいリズムアンサンブルを考えたいと思っても、教材研究や楽譜作成の時間が十分に取れず、結局、前年度の指導案を少し手直しするだけ……そんな自己嫌悪に陥ることも少なくありませんでした。
また、校内での情報共有の難しさも課題です。とくに音楽科は一人配置の学校も多く、専門的な指導の悩みを気軽に相談できる相手が校内にいないこともあります。 「あのベテランの先生の、生徒をひきつけるリコーダー指導の秘訣は何だろう?」「合唱で、男子生徒の声変わり時期のパート分け、どう工夫してる?」と聞きたくても、互いに忙しく、なかなかその機会がない。貴重な知恵や工夫が、共有されずに埋もれてしまうのは、本当にもったいないことだと感じています。
さらに、生徒指導においては、対応が個々の教師の経験や勘に頼りがちになり、「属人化」してしまう傾向があります。とくに思春期を迎える中学生は、心も複雑に揺れ動きます。その場その場で対応に追われ、根本的な解決に至らないケースも散見されます。
そして、運動会や合唱コンクール、校外学習といった行事の準備も、その煩雑さから大きな負担となっています。例えば、校外学習のしおり一つをとっても、行程の計画、持ち物リスト、班分け、安全対策、緊急連絡網…と、考慮すべき項目は多岐にわたり、多くの時間と神経を使います。