小4体育 ゴール型ゲーム指導アイデア「スペースシュートゲーム」
足を使ったゴール型ゲームは、手を使ったゴール型ゲームと違ってボール操作が難しく、得意な子供のみが活躍する授業展開になりがちです。足を使ったゴール型ゲームの楽しさや喜びを全員で味わいながら、ゲームを通して様々な「できる」を増やし、人間性を育てる「スペースシュートゲーム」の指導法を紹介します。
執筆/東京都公立小学校教諭・田口光彩
目次
はじめに
中学年の「ゴール型ゲーム」は、①「味方チームと相手チームが入り交じって得点を取り合うゲーム」と②「陣地を取り合うゲーム」の2種類で構成されています。①は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説体育編にて、「ハンドボール・ポートボール・ラインサッカー・ミニサッカーなどを基にした易しいゲーム」といった例示が明記されています。
ハンドボールやポートボールなどを基にした手を使ったゴール型ゲームは、ボールを手で保持しながら周囲の状況を判断することができることに加え、「ボールを手で投げる」というこれまでの運動経験を発揮することができるため、子供たちにとっても楽しく取り組むことができるゲームだと考えています。
しかし、足を使ったゴール型ゲームは、「ボールを運ぶ(ドリブル)」「パス」「シュート」といったボール操作が難しく、さらには足でボールを操作する運動経験があまりない子供が多くいることが考えられます。そのため、足でボールを操作することが得意な一部の子供のみが活躍をし、全員が楽しく参加できないといった授業展開が想像できます。
今回、授業者としての思い・考えを以下の4つにまとめ、「スペースシュートゲーム」の教材を考案し、実践しました。
①足を使ったゴール型ゲームでも全員が参加でき、その運動の楽しさや喜びに触れることができるようにしたい。
②「シュートが決まった」という喜びだけでなく、「パスが通った」「シュート局面までボールを運ぶことが(つなぐことが)できた」という楽しさや喜びにも触れることができるようにしたい。
③「ボール保持者と自分との間に守備者がいないように移動する」動きを身に付けることに重点を置いた指導をしていく(「スペース」という言葉の共通理解を図る)。
④足でボールを操作しながら、周囲の状況を判断することが難しい。そのため、ボールを手で扱える場面を意図的に設定し、周囲の状況を判断することができる工夫をする。
『体育科教育学入門[三訂版]』(大修館書店)の「第Ⅱ部 第3章 体育の学習内容と教材・教具論」を参考にさせていただき、教材づくりを進めていきました。
①「スペースシュートゲーム」の概要
【はじめの規則】
・1チーム7人×4チーム
・1試合(前半:5分 入れ替え&チームタイム2分 後半:5分)
・コート内(4対4)
・コート外(攻撃サイドマン2〜3人)
※チーム内で前半組・後半組に分け、コート内に出ていない人が「攻撃サイドマン」になります。
・ゴールに入ったら1点
・得点が入ったら真ん中からスタートする。
【キングマン(各チーム1人のみ)】
自陣の攻撃スペースでのみボールを手で保持することができます。ボールを手で保持している間は、その場から移動することができません。

「キングマン」がいることで………
キングマンがボールを手で保持した瞬間に味方のプレイヤーがサイドに広がったり、パスがもらえるスペース・シュートが打てるスペースへ移動したりする動きが見られました。キングマンはボールを手で保持することができるため、周囲の状況が判断しやすく、空いているスペースを見付ける「目」を高めることができます。
【攻撃サイドマン(コート内に出ていない味方チームが担当)】
自陣の攻撃スペースのコート外にいます。ボールを手で保持し、コート内の味方プレイヤーにパスをすることができます。キングマンとは異なり、ボールを手で保持しながら、コート外を移動することができます。

「攻撃サイドマン」がいることで………
コート内では、4対4の同数ですが、攻撃サイドマンを活用することで最大7対4の数的有利の状況を生み出すことができます。キングマン同様、ボールを手で保持することができるため周囲の状況が判断しやすく、空いているスペースを見付ける「目」を高めることができます。
【フィールドプレイヤー(コート内に4人)】
コート内を自由に動くことができます。ボールは足でのみ操作することができ、手でボールを保持することはできません。
単元指導計画(全6時間)
②ゲーム領域での「規則の工夫」の積み重ね
「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説体育編」の「思考力、判断力、表現力等」には、「規則を工夫したり〜」「誰もが楽しくゲームに参加できるように〜」という記述があります。1学期に学習した「ネット型ゲーム」、2学期に学習した「ベースボール型ゲーム」では、単元の序盤に「みんなが楽しめるゲームをつくりあげる時間」を設定し、学習を積み重ねてきました。
「スペースシュートゲーム」 子供たちが追加・修正したゲームの規則
・ゴールに入ったら2点。コーンに当たったら1点。
・初得点は+3点。2回目からは+1点。
・ゴールを広げる。(バーを1本追加)
・ボールがエンドラインを割ったら、真ん中から再スタートする。
・手のひら以外は「ハンド」ではない。
・フィールドプレイヤーの人数を5人にしてもOK。
※対戦相手と合意形成を図り、決定します。
・足を蹴ってしまったら、相手ボールからスタートする。(自己申告制)
※後半に紹介する「グリーンカード」をお読みください。
「自分が」ではなく「みんなが」という視点をもたせ続けてきたことで、今回の「ゴール型ゲーム」でも「みんなが楽しめるように〜したい」といった意見が子供たちから出てきました。
③「空いているスペース」を見付ける必要性を実感させる
第3時の学習後、振り返りカードには以下のような記述がありました。
・キングマンをもっと有効活用する。
・声に出さないでボールをもらう工夫をする。(呼ぶと相手守備にバレてしまう)
・パスがもらえる位置に行き、手で合図をして呼ぶ。
・ゴール前にいるだけでなく、あえてゴールから離れた位置で待つ。
・相手が少ないところに行くと、パスがもらいやすい。
・「相手がいない場所に移動する」「パスをもらってすぐにシュートができる場所」に行く。
・ボールをもっている人と自分の間に敵がいない場所へ行く。
第3時では、パスをするためには、またはシュートを打つためには、「空いているスペース」を見付け、そこへ移動する必要性を子供たちが感じることができました。コート内をなんとなく移動していた第1〜2時と比較すると、第3時では、「空いているスペース」を探しながら、コート内を移動する動きが出現してきました。


④「動き方」を蓄積してゲームの中で意識する
ゴール型ゲームは、ネット型ゲームやベースボール型ゲームと比べて、「ゲームの型に応じた簡単な作戦を実行しにくい」という特徴があると考えています。ゲームの型に応じた簡単な作戦を選択しても、ゴール型ゲームは攻守が入り交じり、空いている空間が流動的であるといったことから、選択した作戦が実行できる場面・瞬間はごくわずかであり、子供たちにとっても「作戦が成功した」という実感を味わいにくいのではないかと考えています。
そこで、ゲームの中で生まれた得点を取るための「動きのパターン」や子供たちの学習カードの記述を抽出して、「動きのパターン集」を作成し、その中の動きをチームで選択し、ゲームの中で意識させることに焦点を当てていくことにしました。以下の図は、子供たちがゲームを通して見いだしてきた「動きのパターン」です。






動き方を意識してゲームに取り組む場合と動き方を意識しないでゲームに取り組む場合では、ゲームの様相が大きく変わります。実際に「動きのパターン」をチームで選択し、ゲームに取り組むことで、パスが通る場面やシュート局面までボールを運ぶことができる場面が増えました。

⑤「グリーンカード」でみんなが気持ちのよいゲームへ
サッカーでは「イエローカード(警告)」「レッドカード(退場)」のカードがあります。マイナスな行動に目が行きがちですが、子供同士が互いのよいところに目を向け、気持ちよくゲームを行うことができるようにするために、今回「グリーンカード」を導入し、授業を展開していきました。
「グリーンカード」とは
グリーンカードは「フェアプレー」「リスペクトのある行為」というポジティブな意味として使われ、日本サッカー協会(JFA)が示すフェアプレーは以下の通りとなっています。
①ルールを正確に理解し守る。
②ルールの精神(安全・公平・喜び)
③レフェリーに敬意を払う。
④相手に敬意を払う。
※日本サッカー協会(JAF)はU-12以下の試合でグリーンカードの使用を推奨しています。
〈参考文献〉「めざせ!ベストサポーター サッカーに夢中な子どもたちのケアのためのハンドブック」(日本サッカー協会)
今回は、グリーンカードの定義を少し広げて、子供たちに提示しました。

毎時間、学習カードに「今日のグリーンカード」という項目を設け、グリーンカードをあげたい友達の名前とその理由を書いていきました。グリーンカードがもらえた子の学習カードの表紙には、緑色のシールを貼ることで、自分がどれだけ「フェアプレーの精神」をもってゲームに取り組むことができていたのか、どれだけゲーム内外で「リスペクトのある行為」ができていたのかどうかを可視化することができます。周りの友達からの評価を通して、「フェアプレーの精神」「リスペクトのある行為」をすることのよさを実感することができるようにしました。

学習カード(グリーンカードをあげた理由)には、以下のような記述が見られました。
・試合の始めと終わりに気持ちのよい挨拶をしていました。握手もしていました。
・試合後、「ナイスゲーム!」や「あのプレー、よかったわ!」と声をかけていました。
・ミスをしてしまったときに「ドンマイ」と声をかけていました。
・揉め事があってもすぐに切り替えていました。
・自分ではなくチームの友達が点を決めたときに、とても喜んでいました。
・点を取られても「頑張ろう」「切り替えよう」と全体に声をかけていました。
・シュートが決まったときにハイタッチをしていました。
・プレーが止まってしまったときに、正直に話していました。
「グリーンカード」という制度を設けることで、試合の前後や試合中に素敵な行動が多く見られるようになりました。ボール運動系領域の学習では、勝ち負けにこだわるあまり、1つ1つのプレーや判定に熱くなり、揉め事に発展してしまうことが多く見られます。
しかし、今回「グリーンカード」の制度を取り入れたことで、勝ち負けや1つ1つの判定に固執することなく、気持ちよくゲームに取り組む子供たちの姿を見ることができるようになりました。友達のよいところに目を向けるという力(習慣)は、ボール運動系領域の学習だけでなく、全ての運動領域において意識させていきたいと考えています。
第6時の学習後、単元全体の振り返りでは以下のような記述が見られました。
・攻撃から守りに変わったときにすぐに守ったり、攻撃のときには自分で空いているスペースをつくったりすることができるようになりました。
・周りを見渡して、空いているスペースを見付ける力を身に付けることができました。
・スペースシュートゲームを通して、「チームの団結」と「フェアプレーの精神」の2つがとても強くなったと思います。
・最後のゲームでは、これまでのことを意識してできたと思いました。何度かチャンスがありましたが、味方同士でかたまりすぎてしまったところもあったので、5年生の学習に生かしたいと思いました。
・スペースを見付ける力や自分でスペースをつくりに行く力、そして周りを見ることができる力が付きました。
・学習を通して反応力・思考力を高めることができました。勝ち負け関係なくゲームをすることができてよかったです。友達のよいところもたくさん見付けることができてよかったです。
「スペース」というワードを使い、「スペースを見付ける」「スペースをつくり出す」といった、本単元で重点目標としていた「ボール保持者と自分との間に守備者がいないように移動する」動きの獲得につながる記述をたくさん見ることができました。また、子供たちから「友達のよいところをたくさん見付けることができた」「フェアプレーの精神」といった言葉が出てきたことも、「グリーンカード」を導入したことによる成果であると考えています。
ボール運動系領域の学習は、ゲームを通して「人間性を育てる」領域であると考えています。「パスを出すことができる」「シュートが決めることができる」「空いているスペースに移動することができる」といった技能面だけの「できる」に目を向けるのではなく、「挨拶をすることができる」「勝ち負けを受け入れることができる」「準備や片付けを協力して行うことができる」「友達のよいところに目を向ける(認める)ことができる」など、「学びに向かう力、人間性等」における様々な「できる」も積極的に称賛していくことが大切だと考えています。このような様々な「できる」は、体育の学習の中だけでなく、学校生活の様々な場面においても子供たちが自ら発揮できるようにしていきたいです。
〈参考文献〉
・「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編」(東洋館出版社)
・『体育科教育学入門[三訂版]』(大修館書店)
・『体育の教材を創る:運動の面白さに誘い込む授業づくりを求めて』(大修館書店)
・『新・サッカー指導の教科書』(東洋館出版社)
・「めざせ!ベストサポーター サッカーに夢中な子どもたちのケアのためのハンドブック」(日本サッカー協会)

執筆
田口 光彩(たぐち ひいろ)
東京都公立小学校教諭
東大和市小学校体育研究会