入学式が勝負です! 【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #17】


不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。第17回は、<入学式が勝負です!>です。
入学式に校長がすべきことは?
入学式は保護者・地域の人・教職員が一堂に集まる場です。年度のスタートとして、子どもの周りのすべての大人がパブリックの「地域の学校」の最上位の目的に合意するチャンスです。地域の宝である自校のすべての子どもの学びの場を保障することを、子どもの周りのすべての大人がまずは合意することです。
そして、「地域の学校の最上位の目的」であるすべての子どもの学習権を保障する「地域の学校」を、すべての大人でつくりましょう。
地域に生きる地域の子どもは地域の宝です。10年後、20年後には地域をつくる大人になります。子どもはそれぞれの家庭で生まれ、多様な環境の中で育ち、小学校に入学します。貧困状態の家庭で育っている子・重度の「障害」があると診断されている子・すぐに友達を殴ってしまう子・勉強が苦手な子・椅子に座れない子など、子どもはそれぞれの今の「自分」をもっています。今の自分をアップデートする場が学校です。みんな違っていることが当たり前の環境で一緒に学び合うからこそ、多様な社会につながる力を獲得できるのです。
学校が変われば地域が変わります。地域が変われば社会が変わります。学校が社会を変えるのです。
そのために、在職中の9年間は入学式で次の二つのことを言い続けました。
1.学校の中に入ったら「保護者」を捨て「サポーター」になってください。
家庭の中では保護者が子どもを守らなければ誰も守ってくれません。学校では自分の子どもの周りに多くの子どもがいます。自分の子どもが育ってほしかったら、自分の子どもの周りの子どもを育てに、学校に自分の意志で主体的に来てください。周りの子どもが育てば、自分の子どもは気づいたら育っています。
「サポーター」は困っている子どもの横にそっといて、三つの声かけをするだけでオッケーです。
「大丈夫?」
「何に困っているの?」
「私にできることある?」
子どもによっては、こんな言葉をかけてもらったことのない子もいます。その子たちにはリハビリの時間が必要です。「安心」なのかどうかを決めるのは子どもです。そのうち、子どもから声をかけてきて、困っている子が困らなくなる学校の中の環境がつくり出されてきます。
学校の中に「困る子」をつくらないことが、すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる原点です。 「保護者」というネーミングはシュレッダーにかけましょう。今日からみなさんは、すべての子どもの「サポーター」です。
2.「文句」を「意見」に変えましょう。
大人が文句を言っていると、当然、子どもも文句を言います。文句は誰も幸せにしません。文句は人と人を分断します。ただ、文句は社会を変える原動力にもなります。だからこそ、文句を意見に変えて行動しませんか。文句と意見の違いは、大人の自分の主体性と当事者性が問われるかどうかです。文句を言うだけで地域の学校の最上位の目的につながらない大人の行動を子どもたちはしっかり見抜いています。子どもは大人の行動を見抜くプロですから!
「意見」はどんなに学校にとって耳の痛い意見でも、オールオッケーです。その人の最上位の目的につながる行動が伴うからです。
大人がつくり出す環境で、子どもは子ども同士の関係性の中で学び合い、育ち合います。
子どもは自分の学校を自分でつくります。サポーターのみなさん、自分の子どもが学ぶ学校を大人の自分がつくってください。
地域のみなさん、地域の宝が学ぶ地域の学校を地域住民の自分がつくってください。
教職員も自分の働く学校を自分がつくります。
人が行動すれば失敗するのは当たり前です。大人も子どももどんどん失敗しませんか。その失敗をやり直せば「成功体験」に変わります。子どもが失敗したときに、そばに大人がいれば助けを求めるでしょう。そのときは何をおいても「私がいるよ!」って出ていく大人になりませんか。大人も同様です。失敗を許さない社会をつくる大人になってもらいたくないですね。
学校は失敗するところです。失敗をやり直して成功体験を重ねて「社会につながる力」を子ども自身が獲得する場なのですから。
校長先生たちへ
校長先生たち、教職員だけで子どもの命を守れる今ではありません。学校を地域社会にして多様な風を入れながら、すべての大人がそれぞれの違いを対等にリスペクトし合って、誰一人取り残さない「地域の学校」をつくりませんか。
入学式が勝負です!
1 入学式で学校の最上位の目的に大人たちが合意を。
2 保護者にはすべての子どもの「サポーター」になってもらおう。
3 大事なのは、文句を意見に変えること。
4 大人も子どもも失敗を恐れず行動しよう!

木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。