小6家庭科 「私たちにできること~地域の人々と関わろう~」
今回は、「私たちにできること~地域の人々と関わろう~」の授業実践を紹介します。この題材では、子供たちが、地域で生活する人々について知り、自らの生活を地域との関わりの視点で振り返って課題を設定できるようにします。そして、「地域の人々ともっと関わりをもちたい」などの気持ちを高め、課題の解決を通して地域とのつながりを実感し、これからの実生活に生かせるようにすることを目指します。
執筆/神奈川県横浜市公立小学校校長・本庄則子(授業者資料提供/同公立小学校主幹教諭・大松由季)
編集委員/神奈川県横浜市教育委員会首席指導主事・大平はな
監修/元文部科学省教科調査官・筒井恭子
目次
年間掲載内容
04月 いためる調理
06月 着方と手入れ
08月 製作 ふくろ作り
10月 1食分のこんだて
12月 共に生きる地域での生活
1 題材名
私たちにできること ~地域の人々と関わろう~
2 題材について
本題材「私たちにできること ~地域の人々と関わろう~」では、「A家族・家庭生活」の(3)「家族や地域の人々の関わり」ア(イ)、イについて扱います。
これまで、コロナ禍の影響もあり、子供たちの多くは、地域行事に参加したり地域の人々と関わったりした経験が少ないことが「地域との関わり」によるアンケート調査から分かりました。昨年度から再開できたPTA主催の行事などで総合的な学習の時間の学びを地域に伝える経験ができた学級もありますが、地域の人々とよりよい関わりをもつことに関しては、経験に差が見られました。
本題材では、まず、子供たちが、地域で生活する人々について知り、自らの生活を地域との関わりの視点で振り返って課題を設定できるようにします。そのうえで、「地域の人々ともっと関わりをもちたい」「一緒に活動をしたり、感謝の思いを伝えたりする場をもちたい」という気持ちを高め、粘り強く課題を解決しようとするなかで、地域とのつながりを実感し、これからの実生活に生かせるようにしていく構成になっています。
また、課題を解決するために必要な「地域と関わる活動」については、「総合的な学習の時間」で実施することにしました。これは、子供たちが、地域の人々との関わりが必要であること、幼児や高齢者など様々な人々と共に協力し助け合って生活することが大切であることについて、実感を伴って理解できるようにするためです。
3 題材の目標
〇家庭生活は地域の人々との関わりで成り立っていることが分かり、地域の人々との協力が大切であることを理解する。
〇地域の人々とのよりよい関わりについて問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、グループごとに計画を立てて実践した結果を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付ける。
〇家族の一員として、生活をよりよくしようと、感謝の会での地域の人々との関わりについて、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、地域などで実践しようとする。
4 題材の評価規準
●知識・技能
家庭生活は地域の人々との関わりで成り立っていることが分かり、地域の人々との協力が大切であることを理解している。
●思考・判断・表現
家族や地域の人々とのよりよい関わりについて問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。
●主体的に学習に取り組む態度
家族の一員として、生活をよりよくしようと、家族や地域の人々との関わりについて、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとしている。
5 指導のアイデア
題材の最初には、今までの経験を振り返るために、地域の人のインタビュー動画や町の掲示板を視聴するなど、基礎的基本的な知識を増やしたり調べる活動を設けたりします。学校によって実践できる地域と関わる活動が異なるので、見通しをもって導入を工夫することが大切です。
課題設定の時間には、「協力・協働」の視点を大切にしながら、家庭生活が家族の協力だけではなく、地域の人々との関わりで成り立っていることや日常の関わりがつながりや交流を深める上で重要であることに気付き、よりよく関わるための課題を考えられるようにします。そのため、学校に関わっていただいている地域の人のインタビュー動画を見せたり、「もし、地域との関わりがなかったらどうか」を考える時間をとったりしました。この実践では、子供が考えた自分にできる地域の人々との関わり方や活動のアイデアを整理して、課題をグループで設定するようにしましたが、個人で設定することも考えられます。
課題を設定後は、実現可能な活動内容と準備について話し合い、実践につなげます。実践後の振り返りでは、地域の方からの感想も報告会で共有することにより、自分の生活が多くの地域の人々と関わって成り立っていることに気付き、学習後もできることを継続して取り組めるようにしています。
6 題材の指導計画(全6時間)
時間 | 学習内容 |
---|---|
1・2 | 地域の人々のことを知ろう |
3 | 地域の人々と関わる方法について考えよう |
課外 4時間 | 【総合的な学習の時間】 私たちが地域でできること |
4・5 | 活動を振り返り、これからの生活に生かそう |
7 学習の流れと子供の様子
1時間目
〔ねらい〕
家庭生活は地域の人々との関わりで成り立っていることを理解することができる。
〔主な学習活動〕
①地域には、どんな人たちが住んでいて、どのような関わりがあるのかを確かめる。
②町内会長のインタビュー動画を視聴し、地域の人々との関わりについて考える。
③「もし地域の人々との関わり」がなかったらどうなるのかを考える。
④地域との関わりの大切さを知り、今の自分と地域の人々、家族と地域の人々との関わりについて考える。
※家族と地域の人々との関わりについては、家庭でインタビューをして調べてくる。
A児の姿
「朝、あいさつをしたり、お祭りに行ったりしているので、自分は地域の人と関わっているほうだと思っていたけれど、町内会長さんの話を聞いたら、地域のことや私たちのことを深く考えてくれていることにびっくりしました。普段のつながりが、災害のときなどにも役立つことも分かりました。自分が知らないことで、家族は、地域のどのような人とどのようなことで関わっているか、聞いてみたいです。」
【1時間目 板書】
【題材を通しての学習カード】
【1時間目 学習カード】
【家庭学習カード】
2時間目
〔ねらい〕
地域の人々とのよりよい関わりについて問題を見いだし、課題を設定することができる。
〔主な学習活動〕
①経験や調べてきたことをもとに、よりよい関係を築いたり、関係を深めたりするために、今の自分たちにどのような関わり方や活動ができるか考える。
②考えた活動を、学習カードを使って「いつでもできること」「イベントなどでできること」「すぐできること」「時間をかけて取り組むこと」に整理する。
③地域の人々とよりよく関わるための課題をグループで考え、MYアクションカードに記入する。
A児の姿
「家で聞いたら、回覧板を回したり、防犯パトロールをしたりすることもあることが分かりました。また、地域でも災害が起きたときのために、備蓄品を蓄えているそうです。お祭りも、楽しむだけではなくて、地域の人が集まって、顔の見える関係をつくるためもあるそうです。地域とのよりよい関わりのために自分たちが今できることを考えられたので、次は、計画を立てて実行したいと思います」
【2時間目 板書】
【2時間目 学習カード(MYアクションカード)】
【2時間目 学習の様子】
3時間目
〔ねらい〕
活動について、実現可能な活動内容と準備について、プロジェクトごとにグループで話し合う。
〔主な学習活動〕
①(感謝の会)
地域でお世話になった人を招待して、感謝の思いを伝える会を開くための話合いをする。
「お茶を入れてだんらんできる場をつくってみてはどうだろう」
②(清掃活動)
地域の清掃活動をするための話合いをする。
「グループに分かれて地域の人たちと一緒に清掃をするのはどうだろう」
③(あいさつ活動)
地域の人ともっとあいさつをできるようにするための話合いをする。
「6年生だけでなく、学校のみんなが地域の人とあいさつするように呼びかけたらどうだろう」
A児の姿
「自分は、感謝の会でだんらんの場をつくるときに、家庭科で学習したことを生かして、お茶に合うお菓子を作ったらどうかと提案しました。午前中に調理をして、午後に感謝の会をすればできると思います。地域の人と話すために、話題を用意しておくことも必要ではないかと思います」
【3時間目 学習カード】
4・5時間目
〔ねらい〕
これまでの活動を振り返り、これからの生活に生かしたいことを分かりやすく説明・発表することで新たな課題を見付け、個人の実践に取り組もうとする。
〔主な学習活動〕
①活動を振り返り、計画・実践についてまとめる。
②活動報告会で発表し合う。
③活動報告会を踏まえ、地域の人々との関わりについて実践した結果を評価・改善し、今度は個人で取り組む新たな課題を見付け、次の実践に取り組もうとする。
A児の姿
「感謝の会では、今まで話したことのない人と話すことができました。お祭りに小学生が参加したりあいさつしてくれたりすると、とてもうれしいと聞いて、活動をしてよかったと思いました。あいさつだけでなく、その後に一言付け加えるともっと地域の人と親しくなれると考えたので、あいさつプラスワン(+1)活動をしてみようと考えました。」
【4時間目 学習カード】
【5時間目 学習カード】
8 学習を振り返って
この学習では、家庭科専科と担任が協力して、学年で授業に取り組みました。感謝の会や清掃活動、あいさつ運動といった活動を総合的な学習の時間や特別活動で実施し、地域とのよりよい関係づくりについて家庭科で考えることができました。
「地域」については、子供によってとらえが異なります。この事例では、1時間目に「地域とは何か」を考える時間を設けることで、共通理解を図ることができました。そして、地域の人のインタビューを視聴することで、地域の思いや願いが子供に伝わり、相手意識や目的意識をもって主体的に学びに向かう上で有効でした。
構成/浅原孝子