教科に自立活動を織り込んで、特別支援学級の子どもたちの調和的な発達を目指そう
今回は「教科と自立活動との関連について」です。自立活動については、自立活動の時間だけではなく、学校の教育活動全体で取り組んでいくものです。特に自閉・情緒学級では、かなり多くの時間が自立活動の時間に割かれているのではないかと思います。教科の中に、自立活動のめあても設定して授業に取り組んでいる実践例は、少ないのではないかと思います。子どもたちの実態を一番に考えて、授業に取り組んでみました。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #07
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
文部科学省(学習指導要領総則編)によると、自立活動は、自立活動の時間にだけ行われるものではなく、学校の教育活動全体を通して適切に行われるものとする必要があると明記されています。また、自立活動は学習や生活の基盤として位置づけられており、自立活動で発達の土台をしっかりと作ることが重要とされています。分かりやすく、図に整理してみました。
<自立活動の目標>(学習指導要領自立活動編)
個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基礎を養う。
そこで、私が担任している特別支援学級(自閉・情緒学級)では、教科指導の際に、教科の目標と合わせて、子どもたちの実態を踏まえて自立活動の目標についても設定し、授業づくりをしています。教科の学習の中にも自立活動の要素や目標があった方が、子どもたちの調和的な発達に、より結びつくものと考えているからです。以下に、いくつかの事例を紹介したいと思います。
⑴ 算数科:かけ算の筆算の学習
かけ算九九を習得し、かけ算の筆算に取り組んでいる子どもがいます。計算ドリルやプリント等を使いながら、一生懸命学習しています。
一方で、その子は一つの物を注視することが苦手です。注意散漫であることや、身体の特徴からそのようになってしまっています。2ケタ×1ケタの筆算に取り組んでいるのですが、
「(数字、マスの線、記号などの情報がたくさんあって)見えづらい」
と言い、集中力が持続せず、苦しそうな様子でした。
計算ドリルやプリントには、たくさん問題が書かれているため、一枚の紙に1つの筆算を大きく書くという方法で取り組んでみましたが、状況は改善されませんでした。
そこで、「2ケタ×1ケタのかけ算の筆算方法を理解し、全問正解を目指す」という算数科の目標の他に、「マス目・数字をよく見て、色分けをしながら、全問正解を目指す」という自立活動(身体の動き)の目標を立て、取り組んでみました。
以下のように支援をしたところ、すらすらと問題が解けるようになり、とても嬉しそうにしていました。最初は私が色分けをしていたのですが、問題を解いていくうちに、子ども自身で好きな色で、色分けをするようになりました。最近はマス目ではなく、数字に色をつけるだけで問題が解けるようになってきています。たし算、ひき算、かけ算、わり算、全ての筆算に活かすことができるのではないかと考えています。
①
②
⑵ 体育科:校庭でのサーキット学習、どんジャンケン、走の運動遊び
体育科(校庭のとき)ではこれまで、
タイヤの上を走る・歩く→校庭の真ん中にある桜の木をタッチ→鉄棒に10秒間ぶら下がる
というサーキット学習を、慣れの運動として毎回取り組んできました。
また最近では主運動として、タイヤを使ったり、じょうろで曲線のコースを書いたりして、どんジャンケンを楽しんでいます。
その際には、
「全力ダッシュでサーキットに取り組もう」
「ルールを守って友達となかよく楽しく運動しよう」
という体育科のめあての他に、
「ジャンケンをした後に、お題に沿って話そう」
という自立活動(コミュニケーション)のめあても設定しています。
このことで、子どもたちは運動することと、コミュニケーションすることの両方を楽しむことができています。
どんジャンケンをした二人のうち、勝った方の子がサイコロを振って、その目にあったお題について話すことになります。
話し終わったら「終わりです」と言うことを忘れずに。お互いが話し合わったら、どんジャンケンの続きになります。
お題についてはオリエンテーションの時間に、子どもたちに「友だちについて、もっと知りたいことはありますか?」と発問をして、子どもたちと一緒に決めていきました。以下のようになりました。
子どもたちは運動も、コミュニケーションも、とても楽しく取り組むことができていました。
脇で見ていた子どもたちも、友だちの新たな一面を知ることができ、休み時間には「〇〇が好きなんだって?」や「僕は〇〇を今日の朝食べたんだ」などと話をする様子が見られました。この授業をきっかけとして、友達の輪がさらに広がればと思っています。
⑶ 国語科:早口言葉を楽しもう
国語科で、読解教材の一つとして「早口言葉」に取り組んでみました。クラスの実態として、文章や文を読むことに必要性を感じていなかったり、抵抗があったりする子どもたちが多く在籍しています。
そのため、クラスのみんなと楽しく読むことを楽しめる教材の一つとして、早口言葉の授業を実践してみました。
まずは、「生麦・生米・生卵」「赤巻紙・青巻紙・黄巻紙」など、有名な早口言葉をこちらで提示し、言えるかどうか、みんなで試してみました。
言えたり、言えなかったりして楽しかったのですが、ここでも、国語科の目標以外に、自立活動の目標(環境の把握)を提示しました。子どもたちの実態は様々でした。そこで、以下のように複数の目標(めあて)を設定しました。
めあてについては、「あなたはこのめあてで学習しましょう」とこちらで設定するのではなく、あえて選ばせるようにしました。「個別最適な学び」や「主体的な学び」につながるように工夫をしてみました。
いろいろなめあてで子どもたちは早口言葉に取り組んでいました。早口言葉を言っていくうちに、めあてを変える子どももいました。また、授業が進むにつれて、他にどのような早口言葉があるのか、自分のタブレットを使って調べる光景が見られました。自立活動の目標を設定したことで、子どもたちがより目的意識を持って、楽しく学習に取り組むことができました。
このように、子どもたちの調和的発達を目指して、教科の中で、自立活動の目標を設定しながら日々、授業実践をしています。これからも子どもたちの成長のために、授業づくりに邁進していきたいと思います。
【参考文献】
・小学校学習指導要領総則編、自立活動編
イラスト/難波孝
奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)